DK社長の異世界RPG

白宵玉胡

序章 「KIKURAGE」

  ここは山奥の自然豊かな田舎町。今日も山鳩たちの歌声が聞こえてくる。そして俺は住山大和すみやまやまと。ごく普通の男子高校生だ。毎日大したことはないが、それなりに楽しい日々を過ごしている。で、今は学校から帰ってきていつものごとくぐーたらしているところだ。



 「トゥルルルル」



 電話が鳴った。昔ながらの固定電話だ。まぁどうせお母さんあたりが出るだろう…



 「トゥルルルル」 


 「トゥルルルル」



  出らねぇのかよ。仕方がないので出ることにした。受話器を取りに行くこの二十数歩が一番だるいのに。



  「はい。住山です。どちら様でしょうか。」


  「いきなりすみません。わたくし、サルノコシカケカンパニー副社長をやっております、田村というものです。住山さんのお宅で間違いないでしょうか。」 



  電話に出たのは田村という声が図太い男だった。サルノコシカケカンパニーだ と?聞いたことないぞそんなふざけた名前の会社。しかし、天才で究極でイケメンな俺は、冷静に対応するのだ。



  「はい。間違いありませんが、何の御用でしょう。」


 「ええ。実は…」



 田村と名乗る男はこの後長ったらしく、御年16歳、高校二年の俺に話しても仕方がないようなことを話した。要約するとこうだ。どうやら俺のおじいちゃんはこの胡散臭い会社の創設グループのリーダーを務めていたそうで、まぁ、いわば社長だ。でも去年おじいちゃんが死んだことで、今会社にはトップがいない状況らしい。要するに、トップがいないから死んだおじいちゃんの跡継ぎを探しているということだそうだ。俺のおじいちゃんが会社の社長だなんて話聞いたことがなかったが、おじいちゃんの名前も出していたし、去年死んだことも知ってたから、悪質ないたずらや詐欺ではないと思いたい。



  「で、だれか目をつけている人はいるんですか?」


  「えぇまぁ。社長は、若く将来性のある方、そして心の広く優しい方に会社を託したいとおっしゃっていたことから、長男の大和様が最も当てはまる方かと。」



 …は?正直そう思った。だってよく考えてみろ。第一俺は高校生だぞ。しかもこんなニート予備軍みたいなやつに、一つの会社の社長が務まると思うか?うん。きっとおじいちゃんはボケていたんだと思う。田村は続ける。言うことはわかっている。



「そういうことでして、今、大和様はいらっしゃいますか?」



…どうする俺。どう答える。ここで「はい、俺です。」なんて言ってしまえば、断りずらい状況になってしまうことは避けられないであろう。もとより俺はそういう性格なのだからなおさら。だがここでごまかそうにもどうしたらいいか。



「…はい。俺です…」



言ってしまった。気づいた時には口が動いていた。もしかしたら意外とやってみたかったのかも?…いやいや。



「そぉおでしたか。あなた様が!流石孝弘さんが見込んだお方!今の短い会話の中にも、聡明さが目立っておられました。」



案の定こういう反応をしてきた。



「ぜひ、わが社のトップになっていただきたい!あなた様ならきっとうまくやれるはずですー!」


「えっと…流石にそんな急に言われても」


「先代のためと思って!」


「あ…う…」


「どうか!」



  …翌日、結局そのサルノコシカケカンパニーなる会社に赴き、契約に調印してしまった。契約内容の書かれた書類を五回以上隅から隅まで読んだが、何も怪しい点はなかったので大丈夫とは思うが、やはり少し心配ではある。どうやら俺の人生は、波乱のものとなりそうだ。


  そのあと、俺は両親にこのことを伝えた。勝手にわけのわからない会社と契約したことを攻め立てられるものかと思っていたが、まるでこうなることが分かっていたかのように軽く受け入れてくれた。それと同時に、学校も半強制的に中退させられたのだが、あまりにも展開が急すぎて全く頭がついていけなかった。そしてその日は午後から早速出社し、会社の説明やら業務の内容やらを聞くことになったのだが、ここでまさかあんなことが起こるなんて、この時の俺は知る由もなかった。…なんてね。



「社長。こんにちは。本日より秘書を務めることになりました、野口といいます。共に頑張っていきましょう。」



  …うん。割といい女が出てきた。どうやらこのきれいな女性が俺の秘書になってくれるらしい。なんて贅沢な。



  「本日は初めてとのことですので、まずは会社見学と行きましょう。そのあとは社長の就任式がございますので準備しておいてくださいね。」


  「就任式…そっか、そんなんもあるのか。演説とかは苦手だな。」



 昔から演説とかスピーチと聞くと憂鬱になる。その手のことは学校に通っていた時から大の苦手だ。



  「ふふっ。大丈夫ですよ。スピーチといっても軽く一言頂ければ十分ですので。私もそばにいるので。ねっ。」



  …笑った時の笑顔がかわいい。なんだか少しだけやる気が出てきた気がした。



  「さっ、ついてきてください!」



そういうと野口さんはそそくさと部屋を出て行った。俺もその後ろを追いかける。



 「…つきました!」



  彼女に導かれた先には、何か大きな機械を動かしている社員の姿があった。



 「うちの会社はバーチャル空間を研究している会社なんですよ。主にはVRだったり、メタバースとかを売りに出しています。そして今作っているこれが、新世代型バーチャルシミュレーション空間システム、KIKURAGEです!これは、従来のVRなどとは異なり、実際にバーチャル空間内に異世界を作り出し、意識だけではなく、実際に肉体ごと異世界に転送する技術なんです。これが実用化すれば、常識離れした異世界の法則により、永遠の命をも手に入れることが可能になります。」



 永遠の命、異世界転移、確かにどれも人類のロマンだし、すごい技術だ。でもそれが本当に正しいのか。…まぁ、今俺が考えたところで、答えを出すのは難しいか。



 「…本当に、すごい技術ですね。」 


 「そうでしょう?よろしければもっと近くへどうぞ。」



 そう言われ、KIKURAGEに近づいた次の瞬間、俺は野口さんに押されて、KIKURAGEの中に叩き込まれた。



 「野口さんっ!?」



 焦って重厚な鉄の扉を開けようとするが、全く動く気配がない。



 「野口さん、開けてくださいっ!」


 「せっかくですから、楽しんできたらどうです?…すみません社長、これも実験なんです。」



 野口さんは不敵な笑みを浮かべる。あのとき、「なんてね」なんて言ったが、がっつり知る由もなかったことが起きてしまった。すべては野口さんの、会社の、いや、もしかすると家族の、計画通りだったわけか。



 「あのこうなることが分かっていたかのような目は、こういうことだったのね。」



 そう、俺はすべてに騙されていた。おそらく真実は、俺のおじいちゃんがここの社長だったことくらいだろう。自分のことだがすごく哀れに思う。そして次に気づいた時には、異世界にきていた。そう、本来ならあるはずの出口がない、本当の異世界に。

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