第6話 異世界の配達先で

 ほどなく、目的地に到着した。

 そこは教会で、こじんまりとしながらも荘厳そうごんで神聖な雰囲気の建物だ。

 開け放たれていた入り口から


「こんにちは、中央郵便局です」

 と、人の姿に戻ったリュートが声をかけた。


「どうぞお入りください」という男性の声を受けて、二人は扉をくぐる。


 教会の中はいくつかのベンチが並び、ステンドグラスから入った光が床にカラフルな影を作っている。

 正面の祭壇さいだんあたりに立派な身なりをした聖職者せいしょくしゃの男性と、それよりももう少し質素な服装の聖職者が集まって話しをしていた。

 リュートに促されて、侑惺は手紙を取り出した。

「あ……えっと、お手紙を。セガルさんはどちらでしょうか?」

「私です」

 立派な身なりの男性が進み出た。


「受け取りのサインを、お願いします」


 侑惺は手紙を手渡し、帳面ちょうめんに受け取りサインをもらう。

 肩の荷が降りたような、ホッとした気分になった。


「ありがとうございました」

「ああ、ちょっと待って」


 去ろうとしたリュートと侑惺を、セガルが封を開けた手紙を読みながら呼び止めた。


「遠いところまで大変に重要な手紙を届けてくれてありがとう。お茶でもどうですか?」

「え〜っと……」


 この誘いに遠慮なく乗るべきなのか断るべきなのか、判断がつかずに、侑惺はリュートをうかがい見た。セガルは続けて言った。


「というのも、少しお待ちいただいている間に、返事を書こうと思っているのです」


「そういうことでしたら、返信を受け取ってから私たちはつことにしましょう」


 決定権がありそうな方──リュートが答えたので、セガルの顔はパッと明るくなった。

 準備をするので、と、聖職者たちは侑惺とリュートを聖堂に残して奥の部屋に消えていく。



 しばらくして、聖職者たちは聖堂に戻ってきた。

「お茶でもどうですか」と言っていたのに、呼ばれる様子はないまま待たされて、かといって返信の手紙を持っている様子もない。

 彼らからは客人を歓迎する作り笑顔が消え、かわりになんとも神妙な面持ちで、侑惺とリュートの周りにぐるりと立った。

 配達人二人を中心にして、ちょうど輪になっているような格好だ。その輪の外側には、よろいを着込み武器をかかげた兵士達もずらりと並んだ。

 リュートの顔がピリッと緊張する。


「私がものを知らないだけかもしれませんが……ずいぶんと変わったお茶の時間ですね」

 リュートがセガルに言う。


「まさか。もはやお茶の時間などではないことはお分かりのようですが?」

「それでは、お取り込みのようですので、私どもは失礼させていただきますよ」

「それは困ります」


 リュートとセガルが会話をしている間、他の聖職者たちは手に持つ書物を見ながらぶつぶつと言葉を発していた。

 侑惺は背筋がゾッとするような嫌な感じがして、輪の中から出ようとした。しかし、足はおもりでもついているように重く、動かすのが困難だった。

 リュートもそれに気がついて、綺麗な顔をきびしくゆがめた。


「配達していただいた手紙の中身なのですがね……」

 セガルが話し始める。


「あれは伝説の勇者召喚に必要な、最後の呪文だったのです。

 異世界から勇者を召喚するには、異世界の言語が必要でね。

 ですから、その言語を理解する人も必要だったわけです。

 読んではいただけませんかね?」


 セガルは、侑惺の顔の前に便箋びんせんかかげた。


「読むだけなら……動けなくする必要はないんじゃないですか? なんで、俺たち、怖い顔の人たちに囲まれてるんですか」

 侑惺は精一杯の勇気をしぼって言う。


「なに、確実性を上げたかっただけです。今、その場所で、この言語を読んでもらえればそれでいいのですよ。そうすれば、儀式は完成します。どうか、お願いできませんか」

「でも……」

「ここで勇者様が召喚できなければ、この世界は魔族によって支配されてしまいます。そうなれば、待っているのは破壊と滅亡です。どうか、私たちを助けてください」


 だんだんと弱々しくあわれな表情になっていくセガルを見て、侑惺は迷った。リュートは相変あいかわらず厳しい目つきでセガルをにらみつけている。


「ユウセイ、願いを聞く必要はないよ。この人たちは、初めに嘘をついた。文字を読むだけに、この拘束こうそくもおかしい。きっと、まだ何かかくしていることがある」

「こちらも、ただただ、必死なだけです。このチャンスを逃すわけにはいかないのですから」

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