第3話 中央郵便局

 話をしている間に、目的地に着いたのか男が歩みを止めた。商店街の中に昔からある雑貨屋。いつでも、営業しているのか、いないのか、よくわからない店だ。

 中に入ると、ごちゃごちゃといろんな品物が置いてある。古美術品やアンティークのようなものから最新の文房具、壁には古切手のコレクションが飾られていた。


「ここが、郵便局……ですか?」

「いや、ここは郵便取扱所ゆうびんとりあつかいじょの一つだよ。中央郵便局につながってる」


 男が店のカウンターに座る店員に軽く会釈えしゃくをすると、店員は「ああ、リュートさん、お帰りなさい」と返した。侑惺は、そういえばこの男性の名前すら聞いていなかったことに、この時気がついた。

 リュートと呼ばれた彼は侑惺についてくるように言ってさらに奥に進み、バックヤードに繋がっていそうな扉を開ける。


 扉を開けた先を見た侑惺は「わ……」と、思わず声をもらす。


 さびれた古い雑貨屋から続いていたのは、たくさんの白いはとが自由に飛び回っている、とてもとても広くて明るい、建物の中だった。

 塔のように円柱型をしている壁の一面には、床から天井に至るまでめられるように扉があった。天井とは言ったが見上げた先に実際に見えるのは青空だ。

 吹き抜けになっているのか、ガラス張りのようになっているから屋外が見えているのか、あまりに遠くて判断がつかない。

 横並びに同じ高さにある扉の前には、張り出した廊下があって、その廊下には梯子はしごや階段で登れるようにはなっていた。しかし、天井近くの扉は果たしてあんなところまで誰が行くのかという高さだ。振り返ると、自分たちが出てきたのはその無数の扉の一つであることがわかる。

 廊下の手すり壁から下をのぞいてみると、侑惺がいつぞやにテレビ番組で見たことがある昔々の銀行に似たような、重厚でレトロなデザインのカウンターが、まず目に入った。

 黄色いジャケットを着たたくさんの人が何かしら仕事をしているようで、手紙を山とんだ手押し車や台車を押していたり、ある箇所では郵便の仕分け作業をしていたりという様子がみられた。


 ひとしきりその風景に驚いたあと、侑惺は自分の真横を見てまた驚いた。

 さっきまで一緒にいたリュートの見た目がまるで変わっていたのだ。

 ごく一般的な洋服を着た、二十代くらいの男性だと思っていたが、着流しの上に黄色いジャケットを羽織るというなんとも微妙なコーディネート。頭には牡鹿のような角を生やし、髪の色も白や銀のような、でも他の色にも見えるような不思議な色に変わっている。

 変わっていないのは、その綺麗な顔立ちだけで、もはや別の人に見えた。


「え、え? えーと、リュート……さん……?」

「ああ、そっか。説明してなくてごめん。こっちがいつもの姿なんだ。この格好で君の世界に現れたら、目立つだろ?」

「確かに目立ちますけど……」

「自己紹介もなくここまで連れてきてしまって申し訳ない。なにせ、まずは黒山羊を巻いてしまいたかったからね」

「さっきのカラスや大きな山羊ですよね?」

「そうそう。

 と、いうわけで、改めまして。私はリュートと呼ばれています。中央郵便局に所属して、主に配達人をやっています。

 竜人りゅうじんという種族なので、人間と似た姿形になっても、こんなに目立つつのがみが残っているというわけです」

「俺は、嵯川さがわ侑惺ゆうせいと言います。ええと……人間の、中学生、です?」

「どうぞよろしく! じゃあ、局長のところに行こう。私の今回の仕事は、局長に君を届けることなんだ」

「俺を届ける?」

「届け物の詳細は一介いっかいの配達人にはわからないけれど、悪いことにはならないと思うよ」


 二人は、階段を使って一階部分へと降りた。その間にも、黄色いジャケットを着た人たちが忙しそうにいろんな扉へと吸い込まれていく。

 メインのカウンターで、リュートは何やら書類を書いたり受付のお姉さんと話をし、侑惺はそれをしばらく所在なげに待つことになった。それらが終わると、一際ひときわ大きな扉の前に案内された。

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