勝利×スキルの書
「はあ…はあっ…うおおおおお!」
ダンジョンの一角。俺は全力で雄たけびを上げていた。
「勝ったぞおおおおお!」
そこには、死体を晒すラットマンの姿があった。首を曲げてはいけない方向に曲げている。死体は急速に腐敗するように、ダンジョンに取り込まれつつあった。
「…ステータス」
何とか落ち着いた俺は、自分のステータスを表示させた。
―――――――――――――――
田中速人
Lv7
職業:僧侶
HP:2/36
MP:12/52
攻撃力:12
防御力:9
魔力:23
対魔力:19
《スキル》
【初級聖魔法】
―――――――――――――――
「…あっぶねえ。『ヒール』」
HPが2しか残っていない状況に、今更ながらに冷や汗が流れる。戦っている間はHPの事なんて忘れていたので、本当にギリギリの勝利だったらしい。
HPを回復させ、戦闘後の余韻に浸る。
「前のパーティーには感謝だな…」
まあ、もちろんそれだけでなく、俺の近接戦のセンスが光った結果でもある、ともさせてもらうが。これくらいは許されてしかるべきだろう、うん。
「さてさて、ドロップ品は…っと、本?」
ぐずぐずに溶けて消えてしまった死体の所まで行くと、そこには本が落ちていた。拾い上げて表紙を見ると、すぐにその正体に気付く。
「スキルの書! マジかよ…!」
『スキルの書』とは、数あるレアドロップの中でも代表的なアイテムの一つだ。
スキルの書は使用者に、未取得のスキルの中で素質のあるスキルの一つを、問答無で覚えさせてくれる神アイテムだ。
もちろん素質が一つも無ければ不発に終わるのだが、今の俺は冒険者を始めたばかりの状態だ。そのようなことにはならないはず。…ならないよな?
「とにかく使ってみるか」
売ることもできるが、その選択肢は俺の中にはない。多分ほとんどの冒険者がそうだ。スキルは金に換えられるものではない。それほどに冒険者にとってスキルは重要なのである。
スキルの中には、職業の垣根を超えた効果を発揮するものも存在する。
頼むぞ、スキルの書!
俺はそれを万感の思いを込めて開いた。
ページが光り輝き、俺を照らす。すると、俺の胸に熱い何かが浮かび上がってきた気がした。
すぐに熱は冷め、同時にページの光も消える。そして、本そのものも、燃え尽きるように灰になって消えていった。
「…スキル、覚えたのか?」
ステータスを開く。
―――――――――――――――
田中速人
Lv7
職業:僧侶
HP:36/36
MP:12/52
攻撃力:12
防御力:9
魔力:23
対魔力:19
《スキル》
【初級聖魔法】
【暗器使い】
―――――――――――――――
「…っし!」
覚えてる!
早速スキルの名前をタップして詳細を見る。
【暗器使い】
・・・暗器を扱う術を得る。暗器武器を装備し、暗器状態を発揮した場合、特殊効果を付与する。暗器状態の場合、通常状態のメインステータスを参照して暗器状態のメインステータスを大きくブーストする。このスキルは『鑑定』にそこそこの耐性を持つ。
「…うーん…」
説明文を読んだが、あまりいい顔は出来なかった。
「暗器。暗器ねえ…」
暗器とは装備アイテムの内の一種で、その名の通り『暗器』として使える武器の事だ。例えば仕込み杖や、隠し武器を仕込んだ防具などが該当する。
本来なら刃の付いた武器に適性が無い魔法使いや僧侶でも、仕込み杖を装備すれば刃の付いた武器を扱うことができる、ということになる。
と、言えば聞こえはいいかもしれない。だが、実際はというと。
「…ネタ武器じゃねえか」
そう、暗器とは、そのほとんどがネタとして扱われている存在だった。
何しろ暗器は、武器としての性能が単純に低い。
武器は冒険者にとって自身の戦力を大きく上下する重要なピースだ。その武器のステータスを犠牲にしてまで、暗器を使うのかというと、殆どの冒険者がそうではない。
まあ、ロマンがあるので一部の冒険者が愛用してたりするが、それはほんの一部のみ。変態だけである。いてもコレクター止まりが精々だろう。
「とはいえ、文句ばかり言っても仕方ない。一度使ってみないと…」
攻撃力をブースト、と書いているので、まあ使えない訳じゃなさそうだ。
このダンジョンでは徘徊種を倒しただけで十分すぎる程貢献しただろう。ソロでボス討伐ができると思えるほど己惚れてはいない。撤退しよう。
…そう言えば、池田パーティーに所属してた時に、暗器を一つ手に入れてた気がする。
帰ったら金庫を探してみるか。見つかったら早速ダンジョンに再挑戦だ。
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