足るを知る ~創作での飢餓感の解消法
前回いただいた感想にお返事を書いていて、ふと考えたことがあります。
書きはじめの頃は書いてるだけ楽しくて幸せだったのに、いつから書くことに喜びだけでなく、悲しみや寂しさ、怒りを感じるようになったのかと。
たぶん、人に小説を読ませるようになってからだと思います。
面白かったとか、すごいと褒められることを期待して読んでもらって、いざ思っていたのと違う反応だとがっかりしてしまう。
現実でもWebでも、そういうことは人に見せる以上よくあることではあります。
まあ、そればかりではなく、数は少ないですが褒めてもらうことも、たまにはありますが……。
ただ、多くの人はどうしてもマイナスの声や無反応の方を重く受け止めてしまいがちです。
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自分のホームページを持っていた頃は、人と比べる『数値』というものがカウンター(来場者数)しかなかったので、それほど格差というものは感じませんでした。
一日に10回も回らないカウンターでしたが、それでも『あ、今日も誰か来てくれたな』と素直に喜ぶことができたのは、他の周りのサイトも日に多くても30程度しか回っていないことで、そうかわらないと安心していたのかも知れません。
今は、カクヨムやなろう、他にも投稿サイトはたくさんあります。
それらに投稿すると、PVがわかり、作品の評価が☆やポイントで表され、ランキングもつきます。
順位がつけられると、一位のみならず、もう少し身近なまわりとの格差までも感じてきます。
数値が同じくらいなら安心で、低いと劣等感。
数というのは、便利なようでいてひどく窮屈なものだと思います。
その昔、自分のホームページという小さなお城に住んでいたときは何も知らずに楽しかったのに『もっと読んでもらえるかも? もっと素敵なことがあるかも?』と欲を出して都会のマンションに移り住んできたら、自分がただの垢ぬけない田舎者だと思い知らされる。
しかも、都会の空気が合わない。息苦しい毎日。
でも、一度都会の駅やコンビニが近くにある便利さを知ってしまうと田舎には戻りたくない気もしてもだもだしてしまう。
そういう私のような人は、割といるのではないでしょうか?
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ただ、こういう周りと比べてしまって落ち込んだり、イライラしたりはあまり意味のないことだとわかっていても止められないですよね。
そういう時は、原点回帰し書くことが楽しかったときのことを思い出して、書くことにだけ集中するのがいいのでしょうが、雑念が多い時には集中モードに入るのはむずかしい。
『どうすればいいんだ~』と、穴にはまって抜け出せなくなってしまう。
打開策があれば、私がやって紹介したいところなんですけどね……。
いまのところ、こうやってXを断ったり、ブログやエッセイを書くことで気持ちを整理したり、書くことに集中するくらいしか気分を切り替える方法が思いつきません。
ブログやエッセイは、もうある程度もらえる人からは☆をもらっている状態で、読む人が決まっている感じがあるので、更新しても☆評価やPVはあまり気にならないんですよね。
評価はどうでもいい、とにかく読んでもらえれば満足と思える書く場があることはいいかも知れません。
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一週間前に、2カ月ほど毎日連載していたものが完結しました。
以前、ホームページを持っていた時代に書いた古い作品を毎日直しながらUPしていたのですが、思ったよりも手こずってしまいました。
昔の自分の筆は拙く感じて、加筆を多くしたからです。
以前は、一日に10も回らないカウンターのホームページでしたから『今回はカクヨムだしもっと読まれるだろう、加筆も4万字したし』と、今度こそと期待していました。
結果的には、以前よりは読まれているようでしたが、64話あって最後まで完走してくれた人は一人だけ。
完結2日後には、PVは0になってしまいました。
悲しいですがそれが現実です。
『一人でも、最後まで読んでくれた人がいたならよかったじゃないの!』という人もいるでしょう。
確かにそうです。
この、このたった一人の読了の感想で、私の作家生命がなんとか維持されてたということは、過去の作品でも何度もあります。
一人の読了、一つの感想、1PV。
でもそれは、ゼロとは違う。
上を見ればきりがないですが、☆が100ないと200ないとダメではなく、そこに名前がある実在する人が、いいねの♥や感想をくれたという事実を考えれば、一人でも十分幸せな気分になれるはずなのに、どうして人間はよくばりになってしまうんでしょうね……。
純粋に喜びたいのに、やっぱりもっと読まれたい欲が捨てきれない。
なかなか、気持ちはままならないものです。
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先日NHKのお昼の番組で、ウルグアイのムヒカ元大統領の話をしていました。
彼は世界一貧しい大統領として国民に親しまれていたそうです。
そのムヒカ元大統領の言葉にこういうものがあります。
『真に貧しい人というのは、
際限なくものを欲しがり
永遠に満たされない人のことである』
私にはグサッときました。
まさに自分の事だと思ったからです。
もっと評価されたい、もっと読まれたい、もっと☆が欲しい、もっと感想が欲しい。
賞が取りたい、書籍化されたい。
もっともっと褒められたい。
上を見たら、自分にはないものばかりで欲にはきりがありません。
書くのは好きだけど、Webに公開するととたんに満たされなくなる。
期待していたほど読まれない、評価されない、落選しかない。
賞に近づいてる手応えもないし、それどころか後から書き始めた才能のある人たちにどんどん追い越されて、負けた気持ちになる。
執筆は勝ち負けではなく、自分との戦いで自分が満足の行く作品が書ければ結果なんて関係ないと頭ではわかっていても、心はそうはいかないものです。
私は、創作に伴う評価は常に飢餓を感じます。
まさに、ムヒカさんの言う満たされない、自分で自分を貧しくしている人です。
欲があること、目標を持つことは決して悪いことではないとは思います。
豊かに暮らしたい、今よりもよい暮らしをしたいというのは成長の糧にもなりますから。
ただ、無い物ねだりを日常的に繰り返していると、人は荒んできます。
私がもし野球が好きで、プレイするのが好きな野球少年だとして、子供の頃から夢を描いて努力するのはいいことだし回りもの応援してくれることでしょう。
しかし、大人になってもずっと『大谷になりたい』と言い続けて、満たされない思いを抱えているのなら、いっそ草野球で多いに野球を楽しんだ方が毎日充実するだろうし、とにかく大谷を推して見て楽しむ側に回ってもいいとも思います。
それは他人には妥協と呼ばれるものかもしれませんが、それでも幸福感を感じたり、満たされる方法があるならそちらを選んでもいいんですよね。
そろそろ、私は『物語を作ること』と『賞に応募すること』は、まるっきり別の事として気持ちのスイッチを切り替えてないといけないなと思っていたりです。
応募をやめるという意味ではなくて、『落ちたときにへこみすぎないように、切り替えられるようになろう!』という感じです。
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あと、創作のでの数値は人と比べないこと。
人と比べて、よかったことなんてひとつもないです。
得に☆や点数が低い時はなおさらです。
稀に私よりも☆やPVが低い人もいますが、だからといって、優越感に浸れるかと言えばそうでもないんですよね。
☆が低くても受賞してたり、コミカライズされてたり、やたら楽しそうに周りとワイワイやっていたり。
結局、数字だけでは作家の『幸福感』は計れないんです。
自分で納得できるものを楽しんで書く。
それだけが、創作から確実に得られる幸福なんだと思います。
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☆の数やポイントの数を目標にのびる人もいますが、多くの人は競争に疲れて去っていきます。
目指して頑張ることは尊いことで、自分の成長にもつながりますが、自分の力だけではどうにもならないこともたくさんあります。
そういう時に、イライラして他人をうらやんでも仕方ないです。
大谷を妬んでも意味のないことです。
自分は自分にしかなれないんですから。
先程、一週間前に完結した10万字の小説は、最後まで完走してくれたのは一人だけだったといいましたが、これはよろこぶべきでしょうか? それとも悲しむべきでしょうか?
みなさんならどう感じますか?
64話ある小説をたった一人が読んでくれた。
それは、ひとりだけしか読んでくれなかったのか、それともひとりだけでも読んでくれたなのか。
正直、私はひとりだけと思って、少し悲しかったです。
しかし、そのひとりの人は後日、感想とイラストをくれました。
これはうれしいことですし、すごいことです。
完結ブーストもなく、完結後2日でもうPVもゼロになってしまいましたが、ひとりだけしかから、ひとりだけでもになった瞬間です。
ムヒカさんの言葉の意味を解釈すると、日本でいう『足るを知る』ということに通じるかと思います。
高いところばかり見ていないで、自分の身近にある幸せを大切にする。
自分が夢中で書いて、自分が読んでとても面白いと思って満足した。
最後までちゃんと読んでくれた人が、ひとりでもいた。
これって、すっごい幸せ!
こういうのでいいんですよね。
他人の☆や1000やK もあるPVを指をくわえてうらやんでも、飢えは少しも満たされずむしろ増すだけです。
もっと、自分の身近にある小さなことで幸せになることが、書き続けることには大切な力になるように思います。
創作の飢餓状態を小さな幸せで満たしていくことは、簡単なようで意外に難しいです。
けれど、私の執筆人生の中で、体調不良で書けない時期もありましたし、何を書いてもどうせ誰も読んでくれないと否定的な気持ちになることもたくさんありましたから、飢えを感じるときはそういうときのことを思い出して、
『今は健康で、書く時間がたくさんあるから、それだけで幸せだよね。
ひとりでも読んでくれる人がいるうちはがんばれるよね?』
と、今はささやかですが書ける幸せ、読んでもらえる幸せを大切にしようと思っています。
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