第2話 同じなまえをもつ少女
「おい
彼女を知ったのは級友がこのように言ってきたのが最初だ。いかにも面白い話を持ってきたぞ、という話しぶりだった。
「タクマ? 女の子でそんな名前なのか?」
「ちがうちがう。田んぼの熊で
僕の名前が「拓真」なので面白いこともあるもんだと思っていると、
「いやいや、ここからなんだって。なんとその田熊さん、名前は美波ちゃんっていうらしいぜ」と続けた。
嘘のような話だった。
タクマミナミ。
僕の名前はミナミタクマ。なんとなく、裏と表だと思った。どちらが表なのかはよくわからないけれど。
それ以来、僕はなんとなくその田熊という子のことが気になっていた。初めて姿を見たのは学食だった。少し先のテーブルに座る彼女を見て、級友が「あの子がタクマさんだぜ」と知らせてきた。肩までの髪を片手で押さえながら、うどんか何かを食べている。スラリとした雰囲気は姿勢の良さからくるように感じた。その姿に見惚れていると級友が面白そうに言ってきた。
「おまえと結婚したら、
僕は「うるさいよ」と言って彼の脇を肘で小突いた。
「やっぱりそっちも僕のこと知ってたんだ」
「うん。友達に聞いて」
田熊はあと少しだけ残ってるアイスを大事そうに口へ運びながら言った。僕もアイスを囓る。
「すごい偶然だよね」
「ほんと、私がお嫁に行ったら
「なんだそりゃ」
くすくすと彼女は楽しそうに笑いながら言う。
お互いに名前になってもおかしくない名字だとは思っていた。けれどこんな偶然があるなんて、と笑い合った。僕はなんとなく思ってたよりも話しやすい気がした。それが名前のせいなのか、級友に聞いてからなんとなく意識してしまっていたからなのか分からなかったけれど。
「南くんは部活の帰り──じゃないよね。それってもしかして、ギター?」
僕の布製のギターケースを見て聞いてきた。普段は背負って持ち運ぶけれど、今はベンチに座るために脇に抱えるようにしていた。
「そう。知り合いに教えてもらってて、その帰り。田熊は? 部活?」
「うん、合唱部なんだ」
話してみると、シンクロしているのは名前だけではなかったようで、どうも彼女も音楽が好きということだった。小学生の頃から合唱をやってるらしい。
「歌うのがね、とっても楽しいの」
そう言ったときの彼女の瞳はとても澄んでいてどきりとした。
僕はというと、アニメの影響でギターをやってみたいと思っていたら、近くに住む親戚のおじさんが教えてくれるということになったのだ。「俺も趣味でやってただけだけどな」と言いながらも、魔法のように響く音色にとても憧れた。お年玉で自分の楽器を手に入れて、少しずつ練習を積み重ねている。僕はケースの上から、ネックのあたりをそっと撫でる。
「ねぇ、ねぇ」
「なんだ」
「ギター、聴きたいなあ」
きらきらした瞳でそんなことを言う。
「わかったよ。じゃあ田熊も歌えよ」
僕はちょっと恥ずかしくなって、少し視線をそらした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます