『異世界行き無人列車』

名無しの報告者XXX ▋: ^ )

――本文

村上「こんにちわ、佐藤さん この度は我々の調査にご協力いただきありがとうございます。私は『異界調査部』の村上と申します、よろしくお願いします」


佐藤「村上さんこちらこそ、よろしくお願いします」


村上「では、早速ですが今回あなたの身に起こった体験と"そこ"で見たものについてお話し願えますか?」


佐藤「……はい、そうですね……えっとあれは夜、遅い時間でした。時刻は大体夜の11時過ぎだったと思います。私は、仕事の夜勤帰りで、終電を待っていました」


村上「どこのなんと言う名前の駅で待っていましたか?」


佐藤「██の██駅です。持っていると10分ぐらいして電車が来ました」


村上「その電車の外見に特徴などはありましたか?」


佐藤「特にありませんでした、私がいつも乗っている普通の総武線でした。私は電車に乗ると早速辺りを見渡し空いている席を探しました」


村上「乗客などはそこに乗っていましたか?」


佐藤「はい、乗客もいたし、普段と変わったところは何もありませんでした。遅くまで残業をしていた事もあってくたびれていた私は、しばらく椅子に座っているとすぐに眠ってしまいました」


佐藤「異変に気づいたのは、その時でした。私の耳にノイズが混じったような不明瞭で聞き取りづらい車内アナウンスが聞こえてきたんです。私はそのアナウンスを聞いて目が覚めました」


佐藤「目を覚ました私はおかしな違和感に気がつきました。周りのどこを見渡しても、私以外、人が一人もいなかったんです」


村上「他にどこかおかしなところはありましたか?」


佐藤「トンネルの中にいるように窓の外が異様に暗かったです。車内はレールの上を走る電車の走行音しか聞こえず、妙な静けさに包まれていました」


佐藤「私は別の車両に移動してみる事にしました。隣の車両に行って見ましたがやはりどこにも人はいませんでした。不安になってきた私はどんどん車両を進んで行き運転席へ向かいました。」


佐藤「進んでも進んでも真っ暗な窓と、誰もいない車両ばかりが続きました。扉の上の電光掲示板を見ると文字が文字化けをしていて読む事はできませんでした」


佐藤「私は一刻も早くこの電車から降りたい、そんな気持ちでいっぱいでした」


佐藤「運転席にたどり着つくと、「頼む、電車を止めてくれ!」と運転席の後ろの扉に駆け寄りドン!、ドン!と扉を叩きながら運転士に必死に合図を送りました。でもすぐにそんなことをしても無駄だと気がつきました」


佐藤「そこに運転士はいませんでした。電車は無人のまま私を乗せて走っていたのです。運転席から見えるフロントガラスから前方を見ると、そこもトンネルに入っているかのように真っ暗でした。この電車が私だけを乗せてどこに向かっているのか見当もつきませんでした」


佐藤「私は近くの席に腰を下ろすと、どうにかこの電車から降りる術はないのかと考えを巡らせました。そこで私は誰かに助けを求めようと思い、スーツの内ポケットからスマホを取り出しました。とりあえず、警察に掛けようと思い、110番を押してスマホを耳にあてました」


佐藤「でも、呼び出し音が鳴るだけで、どんなに待っても誰も電話へは出ませんでした。次に私は実家に電話をすることにしました。しばらく待ちましたが同じく誰も出ませんでした。よく電波の表示を見ると《圏外》になっていることに気がつきました」


佐藤「私は、ため息をつきながらスマホをしまうと、座席にもたれかかりました。もう私に為す術はありませんでした。電車は速度を緩めずなおも走り続けていました」


佐藤「そうだこれは夢だ、何か悪い夢を見ているんだと自分に言い聞かせました。目を瞑ってもう一度目を開けば、元の場所に戻っているんじゃないかと思いましたが、無駄でした。目を開けても変わらず車内には誰もおらず、外は真っ暗でした」


佐藤「しばらくして、電車が減速し始めている事に気がつきました。そして、ついに電車が停止しました。車内のドアが一斉に開きくと、外は薄い霧に覆われていました」


佐藤「私は恐る恐る、電車を降りました。電車が止まった駅は小さく、ホームにはベンチが数脚と錆びついた古い駅標が目につきました。書かれている駅名は車内で見たものと同じように酷く文字化けをしていて、読み取ることはできませんでした」


佐藤「私が呆気に取られていると、電車のドアが閉まり、誰も乗せていない電車がゆっくりと走り出しました。私は電車を追いかけましたが、途中で諦め、駅の端で無人の電車の後ろ姿を見ながら呆然と立ちすくみました」


佐藤「あたりは薄暗く、白く霧がかかっていて、今が朝なのか昼なのかも判別がつきませんでした。見渡すと駅の周りには田んぼが広がっていました。その奥には、霧の影響でぼんやりとしか見えませんでしたが山があるのがわかりました」


佐藤「私はとりあえず駅を出る事にしました。駅を出るとすぐに道があり、私はその道を歩きながら誰か人がいないか探してみる事にしました。田畑や山に囲まれていながら鳥の鳴き声ひとつせず、気味が悪いぐらいの静寂に包まれていました」


佐藤「歩いていると田畑以外にも古い木製の電柱や、屋根付きの小屋のバス停など、人工物も見えました。しかし基本的にはどこも似たような田畑が広がっているだけの殺風景な景色でした」


佐藤「10分ぐらい歩いた時でしょうか、田んぼの中に人がいるのを発見しました。霧に覆われていてはっきりとは、わかりませんがどうやら農作業をしている男性のようでした。ここに来て初めて人を見つけたということもあり、私は内心、喜びと興奮を感じていました。頭の中は「やっと人に会えた」ただそれだけでした」


佐藤「私はその男性がいる田畑に向かって「すいません!少しお話を伺ってもいいですか!」となんの警戒心もなくその男性に声をかけました」


佐藤「男性が私に気がつき、作業を止めて私がいる農道まで歩いてくるのが見えました。その時はまだ霧でシルエットまでしか見えませんでした」


佐藤「男性が田んぼから上がって、農道に出てきました。私は男性に近づいて行きました。」


佐藤「そして、私は見てしまいました……その男は、人じゃありませんでした……」


村上「佐藤さん、具体的にどう人じゃなかったのかお聞かせください」


佐藤「その男の顔には口しかなかったんです。目や鼻はなくて、顔には耳まで裂けた大きな口だけがあって……その口元は歯を剥き出しながらニヤニヤとよだれを垂らしながら笑っていました」


佐藤「私は立ちすくんでしまいました。早く逃げなければいけないと頭の中ではわかっているのに恐怖で硬直してしまいました」


佐藤「私が動けずにいると、私の数メートル先まで来たところで男は急に立ち止まり、両手を上げ始めました。何をするのか警戒していると、高くあげた両手をパンッ!と頭の上で何度も鳴らし始めたんです。」


佐藤「すると、霧の奥の方から人影がゾロゾロと現れ始めました。両脇の田んぼの中や、男が立っている農道の奥から、まるでゾンビのように、人の集団が私を目指して歩いて来ていました」


佐藤「こちらに近づいてくるにつれて、その輪郭がはっきりと分かるようになってきました。彼らは農作業服や野良着を着ており、中には手に農具や鎌などの凶器を持っているものもいました。そして私は、自分から血の気が引いていくのを感じました。その集団も男と同じように目や鼻はなく口しかなかったのです」


佐藤「それらは、耳元まで裂けた大きな口で歯を剥き出して笑いながら、私の方へゆっくり歩み寄ってきます」


佐藤「その時でした。スーツの袖のあたりを誰かに引っ張られた気がしました。そしたら不思議と、強張っていた体の緊張が解けたんです。後ろを振り返ると、そこに小学生ぐらいの男の子が立っていました。男の子は半袖、半ズボンという格好で、頭にはキャップを被っていました。キャップを深く被っていてその顔や表情はわかりませんでした。男の子はスーツの袖を引っ張っていて、まるでこっちに来てと合図をしているようでした」


佐藤「私は男の子に従う事にしました。男の子が走り始めたので、私もその後をついて行きました。私が走り出すと、彼らも私を追いかけて走り出しました。私は彼らに追い付かれないように必死に男の子の後ろをついて行きました」


佐藤「男の子は私との距離が離れてくると立ち止まり、手招きをして私を待っていました。男の子はまるでどこかに私を導こうとしているようでした。もう体力が限界につかづいていた頃、気がつくと目の前にトンネルがありました。男の子はトンネルの前で立っていました」


佐藤「男の子はトンネルの方を指さしていました。私にここに入れと行っているようでした。後ろからは彼らが走って来ていました。私に迷っている暇はなく、男の子を信じてトンネルの中へ入りました。トンネルの中には照明はなく、暗闇が広がっていました。手がかりも何もないまま、ただひたすら前を向いて歩き続けるしかありませんでした。すると、トンネルの先の方に微かに光があるのが見えました。私はその光を目指して走って行きました」


佐藤「走って行くと、光はどんどん大きくなり、眩い光が視界を覆っていきました」


佐藤「そして、目を覚ますと私はこの施設のベッドに寝ていたました」


村上「お話ししていただきありがとうございます、今回あなたの体験した出来事についてはしっかりとこちらの方で記録させていただきました」


佐藤「私はどのように発見されたんですか?」


村上「最初あなたは、終点の駅で車内を見回り中の駅員によって発見されました。駅員によると車内の床に倒れた状態で気を失っていたそうです」


村上「我々調査部は、23時から24時の間に、██駅から██駅間の電車に乗っていた乗客数名が、突然意識を失うという謎のアノマリーについての調査をしており、その調査中に佐藤さんを発見し、引き取りました」


佐藤「私だけではなかったんですね」


村上「はい、現在までに佐藤さんを含めて三件の報告が上がっています。三名のうちあなた以外の2人は昏睡状態で現在も意識不明です」


佐藤「え、昏睡状態、でもこうして私は話をしていますよね?」


村上「それなのですが、佐藤さんの所得物からこのようなものが見つかりました」

 

佐藤「これは私が家の鍵につけているお守りです。これが何か?」


村上「詳細はまだ調査中ですが、このお守りとあなたを出口まで導いた男の子は関連していると我々は考えています。もしこのお守りを身につけていなければ、あの世界に出現するエンティティーによってアストラル体を捕食され、佐藤さんも2人と同じように昏睡状態のまま、意識を取り戻す事はなかったでしょう」


佐藤「そんな……、このお守りがなかったら私も意識不明の状態に……」


村上「このお守りは誰かにもらったものですか?」


佐藤「これは私が大学に入って一人暮らしを始めた時に両親から貰ったものなんです。まさかこんなところで私を守ってくれるなんて」


村上「どこで買ったものかわかりますか?」


佐藤「確か、█████神社にお参りに行った時にもらったものだと言っていた気がします」


村上「なるほど、我々の方で調査の参考にさせていただきます」


佐藤「そういえば、先ほどのアストラル体とはなんの事ですか?」


村上「アストラル体とはつまり、"精神"のことです。特定の時間、██駅から██駅に向かう途中で起こる未知のアノマリーによって、佐藤さんの精神は向こう側の世界とリンクしてしまったのだと考えられます。説明が難しいですが、あなたの肉体と精神は切り離され、精神だけがあの世界に迷い込んでしまったのです」


佐藤「向こう側の世界とは?」


村上「異界や裏世界、反転世界、非物質世界など様々な呼ばれ方をしているものです。あなたの迷い込んだ場所もその一種と見て間違いはないでしょう」


佐藤「……あの、私は、どうなってしまうんですか?」


村上「安心してください、特別これからあなたに不利になるようなことはありません。ただ、今回佐藤さんが見たものの記憶に関して我々の方で処理をさせていただきます。処理後は通常通りあなたは日常の生活に戻れますので心配はしなくて大丈夫です」


村上「それでは以上で記録を終了します」

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