第18話 彼ト彼女
美華に告白されてから1週間が立つ頃。
私はまだ学校に行く気にはなれず部屋でパンダのぬいぐるみを抱きしめながらずっと布団の中にいた。
パンダのぬいぐるみを抱くと、今まで圭の顔が思い浮かんできたが、あの日以来、彼の事より美華の顔の方がよく浮かんできていた。
急に私に告白してきた彼女。
思えばずっと予兆はあった。
女の子同士だから気にすることはなかったが、腕を組んできたり、抱きついてきたり、頭を撫でてきたりと、友達と考えるには多すぎる程のスキンシップではあった。
まさか私の事が好きだったなんて...。
彼女を思い出す度、重いため息がでてしまう私。
決して、面倒くさいというため息ではない。
何も気づかなかった自分に腹を立てた。
いつも彼女が話しかけてくれることが私にとって当たり前となっていた。
そんなのもっと初めから分かっていたら、私もしっかり彼女と向きあっていたのに。
でもそんなのこっちの都合。
彼女からしてみればこんな事簡単に口にできるわけがない。
私が圭の事を思うように、彼女も私の事をずっと見ていたんだ。
私はパンダのぬいぐるみを見ながら思う。
ちゃんと彼女と向き合って答えを出したい...と。
性別とかで悩んでいるんじゃない。
まずは私自身が本当に誰と向き合いたいのか、誰が好きなのかすらわからなくなっていた。
...美華と向き合ってみよう。
そう思い学校の昼休みになる頃、彼女にラインを送った。
「今度の土曜日どこか一緒に遊びに行かない?」
すぐに既読がついた。彼女もあの日からずっと私にラインを送ろうか悩んでいたのかもしれない。
5秒足らずに返信が来た。
「唯愛。おはよう。いいの?遊びに行こう!どこに行きたい?」
私はどこに行こうか悩み考えていた。
いつも優柔不断な私にまずはいつも聞いてくれる彼女。
すると続けてラインが来る。
「唯愛。動物園行こう!熊谷動物園に!」
私はハッとした。
前、彼と行ったあの場所だ。
彼と二人っきりで、キリンを見て、パンダを見て、そしてキスをされたあの場所...。
そして彼に告白した場所...。
正直今、彼の事は思い出したくなかった。
確かに圭と美華どちらが好きかを決めないといけないのだが、デート中はしっかりと彼女と向き合いたかった。
だけど彼女がその動物園に行きたいというその願いを、叶えてあげたいという気持ちもある。
全部私の都合にしたくない。
美華が私とそこに行きたいと言ってくれてるのだから。
「うん。いいよ。熊谷動物園に一緒に行こう」
そう返信したのだ。
......。
そして美華と初デート当日。
空は曇り空でいっぱいで太陽すら見えない天気。
彼の時は陽が少し差していたなぁと思いながら、私は以前、彼と行った時と同じ服装を着て彼女と待ち合わせた。
なぜ同じ服装って?
せめて今日ぐらいは彼女の事だけを考えていたかったが、やはりどうしても彼が頭のどこかで離れられなかった私。
それになぜ、彼のあんな姿を見たのに、まだ好きでいる私がいるのか。
それの答えが欲しく、私にとっての大事ななにかを探していたのもある。
駅のホームで待っていると彼女がやってきた。
「唯愛ー!」
笑顔で手を振りこっちに向かってくる彼女。
キスをされて以来の対面。
私は恥ずかしく、彼女と目を合わせる事もできなかったが、いつも通りの元気な美華。
「待たせちゃってごめんね」
そう言っていつものように頭を撫でてくれた。
本当に優しく、彼女に頭を撫でられると私の心が一気に穏やかになり落ち着く。
彼に触れられた時とはまた違う何か。
私にはまだその違いがよくわからなかった。
そして待ち合わせた二人は電車に乗る。
いつものように腕を組みながら席に座り、いつものように女子トークをしながら動物園に向かっていった。
ごくごく当たり前の女の子友達でもあり、ごくごく当たり前のカップル。
私は、彼女と話すうちに彼女の事が好きになっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます