第10章385話:シュルード視点

<シュルード視点>


バルター伯爵家はくしゃくけの屋敷。


2階。


奥の部屋。


ここは伯爵はくしゃく令息れいそくシュルードの部屋だ。


シュルード・フォン・バルター。


23歳。


オレンジ色のウェーブがかった髪。


細い目つき。黄色い瞳。


彼は部屋の椅子に座りながら、執事長しつじちょうからの報告を聞いていた。


「ブランジェ平原での戦争は、ブランジェ家が勝利いたしました。……もうご存知かと思いますが」


と執事長が言った。


シュルードは応じる。


「ああ。早馬はやうまの伝達で、既に耳にしている。しかし、細かいところはよく知らない。いかにしてブランジェ家は、ブロストン侯爵を打ち破ったのか」


ブロストン家とブランジェ家のあいだでおこなわれた領軍戦争。


この戦いには、ランヴェル帝国の貴族も非常に注目していた。


そしてほとんどの帝国貴族ていこくきぞくの予想は『ブロストン軍の圧勝』であった。


フレッドを欠いたブランジェ家には薄いし、実際、ローラはいくさが始まる寸前まで、兵士をかき集めることさえ苦労していたという。


ところが。


ふたを開けてみれば。


圧勝したのはブランジェ軍であった。


ブロストン軍は圧倒的な兵数へいすういくさのぞむも、ほとんど戦果を残すことができないまま、大量の兵士を失った。


末端の兵士だけでなく、隊長格たいちょうかくの戦死も数多かずおおく。


サリザやドラレスク将軍などの名だたる戦士たちも、ほとんどが命を落とした。


挙句の果てにはブロストン侯爵こうしゃく本人さえ捕虜ほりょとなり、降伏宣言こうふくせんげんをしたのち、ローラに斬首ざんしゅされた。


かくして領軍戦争は、ブロストン軍の歴史的大敗れきしてきたいはいという形で、まくろしたのである。


「にわかには信じられない結果だ。ブロストン家が敗北するなんて、誰が想像したか」


「どうやら、エリーヌ・ブランジェの活躍によるところが、とても大きいようです」


と執事長が告げた。


彼は続ける。


「新型馬車を用いて戦場を駆け、未知なる飛び道具を使って、数多くの将兵しょうへいを討ち取ったと―――――」


執事長はエリーヌの活躍について、詳細を説明する。


エリーヌのメイドであるアリスティも活躍した。


しかし今回のいくさの最大の功労者こうろうしゃを挙げるとするなら、やはりエリーヌであろうというのが、おおかたの見解だった。


「エリーヌ・ブランジェか。懐かしい名前だな」


「はい。シュルード様の婚約者ですな」


「そうだな」


実は――――シュルードは、エリーヌの婚約者である。


もともとエリーヌは貴族令嬢きぞくれいじょうとして適齢期てきれいきであり、バルター家にとつぐことが決まっていた。


バルター伯爵家からしても、フレッドがいたブランジェ家とつながりを持てることは、大きなプラスであった。


「まあ、俺はエリーヌじょうの顔すら見たことないがな。典型的な貴族同士の婚姻こんいんだ」


エリーヌとシュルードは一度も会ったことがない。


婚約だけが成立していたのだ。


ただしエリーヌが犯罪者として国外追放が決定した際、その婚約についても、うやむやになってしまったが……

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