第6章256話:侯爵

「……?」


ビルギンス侯爵の斜め後ろに、全身フード姿の者がいた。


仮面をかぶっている。


性別は不明だ。


たたずまいからして隙がなく、明らかに只者じゃないとわかる。


おそらく侯爵の護衛、用心棒だろう。


「ヒニカ殿」


と、ビルギンスは言った。


「家宅捜索をしたい、とのことらしいな。令状もあると」


「ああ。これだ」


ヒニカさんが令状を突きつける。


ビルギンスはサッと目を走らせてから、答えた。


「なるほど。令状を見る限り、殺人の疑いがあるため、わが屋敷の家宅捜索をおこないたいと……?」


「ああ。あなたには殺人の嫌疑がかかっている。その証拠が、屋敷の中にある可能性が高いと、私は睨んでいる。よって、急であるが家宅捜索をさせてもらいたいということだ」


「そのような嫌疑は、言いがかりだろう? 証拠はあるのかね?」


ビルギンスは、あくまで済ました顔で尋ねる。


ヒニカさんがアイテムバッグから、要求された証拠を取り出した。


モドルドたちの死体である。


「これが証拠だ」


ビルギンスは顔をしかめる。


「……これは、もしや、モドルドの遺体か?」


「ああ。衛兵隊長モドルド、および、その部下である衛兵の遺体だ。ビルギンス侯爵、あなたが部下に命じて、モドルドたちを襲撃したそうではないか」


ビルギンスは困惑する。


そして言い返した。


「言いがかりもはなはだしい。私は、モドルドとは確かに面識があったが……殺すようなことはしていない!」


まあ、これに関してだけは実際、言いがかりだからね。


モドルドたちを殺したのは私であって、ビルギンスではないのだから。


ビルギンスは、こほんと咳払いをしてから、言った。


「最近、困っているのだよ。私は何も悪事に手は染めていないのに、ちまたでは、まるで私が裏で大罪をなしているかのごとく語られているのだから」


いや、その噂は事実だろう。


私はあなたの悪事の被害者ですよ、ビルギンス侯爵。


ヒニカさんが言った。


「ビルギンス侯爵。悪い噂をされるのが嫌ならば、素直に家宅捜索を受けて、ここで真偽をハッキリさせてはいかがだろうか。もしも屋敷内に何もでなければ、私が一筆書いて、あなたが善人であることを喧伝してもいい」


「お断りしよう。屋敷内に、犯罪物は存在しないが、見られたくないものはある。人には誰だってプライベートがあるものだからな。君だってそうだろう?」


「否定はしない。が、残念ながら、あなたに拒否権はない。令状があるのだから、応じてもらおう」


ヒニカさんががんとして譲らない。


ビルギンス侯爵の顔がだんだん険しくなってくるのがわかった。


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