第6章228話:他者視点

<他者視点>


ルフシャ砂漠国。


――――クダルタス侯爵領。


クダルタス領主邸。


領主の執務室にて。


とある報告が為されていた。


「ほう。新型馬車とな?」


茶髪オールバックの、いけ好かない顔をした男が、おうむ返しの言葉を述べる。


彼こそが、まさにクダルタス領主――――ビルギンス・ヴォン・ド・クダルタスである。


爵位は侯爵。


ルフシャ砂漠国の大領地を治める男だ。


「はい。馬車の主とおぼしき女―――エリーヌ・ブランジェと名乗っておりましたが、その新型馬車を、キャンピングカーと呼んでおりました」


そう報告するのは、国境の検問をおこなっていた衛兵隊長―――モドルドだ。


モドルドはビルギンスの部下であり、時々、こうして領主邸で報告をおこなっている。


ただし……


単なる報告ではない。


モドルドは、国境に出入りする者を検問する中で……


ビルギンスが略奪対象にできそうな人間を、ピックアップし、こうして報告をおこなうのだ。


つまり正規の報告ではない。


悪事をおこなうための報告である。


「そのキャンピングカーとやらは、奪えばカネになりそうか?」


と、ビルギンスが問いかけた。


「はい。そう思います。新型馬車というのはどうもウソではないようで、オレの目にも、通常の馬車より早く、頑丈に見えました」


「ふむ」


「中は詳しく確認できませんでしたが、何より車体が大きいので、大量の荷物を輸送できそうに思えました」


「なるほど、それはいいな」


速度の高さ。


運搬力の高さ。


馬車においては、この二つをいかに向上させられるかが、大きな課題である。


速く、かつ、大量に運搬できれば、商売もはかどるし……


戦争時の物資輸送も効率化される。


現状、陸の輸送では、荷馬車が最も効率よく物資を運搬できるのであるが。


報告によれば、キャンピングカーは新型馬車……従来の荷馬車の輸送力を越えていると思われる。


ビルギンスにとって魅力的なターゲットであった。

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