第6章211話:砂の狼

「それで……旅の方が、何の御用でしょう?」


と、女性が尋ねてきた。


私は答えた。


「実は、水が不足しておりまして……よろしければ分けていただけないかと」


「……」


「もちろんお礼はさせていただきます。金銭、旅で得た物品など、さまざまな持ち合わせがありますので」


女性は難色を示している。


周囲を見ると、他の人たちも、落ち込んだように顔をうつむけていた。


なんだろう?


暗い雰囲気だな。


水に関して、何か深刻な事情でもあるのだろうか?


と、思っていると。


「おい、サンドウルフだ!!」


怒号のような男の声が飛んだ。


どよめきが走る。


……サンドウルフ?


男は横方向を指差していた。


私たちはそちらに目を向ける。


150メートルほど先に、砂丘がある。


その砂丘のうえに、砂色のオオカミたちが列をなしていた。


かなり多い。


10匹、20匹……


30匹以上いるな。


なかでも、ひときわ大きな個体が1匹いて、よく目立っていた。


「な、なんて数なの」


砂漠の民の一人が、怖気づいて言った。


他の者たちも、おびえ始める。


「あの数……集落を潰しに来たのか!?」


「どうしたらいいの?」


「戦うしかないだろ」


「馬鹿か! 相手はサンドウルフだぞ!」


「一匹だけでも厄介なのに……あんな数、勝てるわけない」


「でも、戦わなきゃ!」


……ふむ。


なるほど。


まあ、だいたい状況は把握した。


ピンチってことだね。


私は、アリスティと顔を見合わせる。


それからニナに向かって言った。


「ニナは後ろに下がっていてください」


「は、はい」


ニナが言われた通りにする。


私はアイテムバッグからアサルトライフルを取り出す。


【射撃補正の指輪】を装備。


アサルトライフルを、サンドウルフに向かって構えた。


そのとき。


「アオォォォォーーーーーーーーーーンッ!!」


と、サンドウルフの中にいた、デカい固体のやつが叫んだ。


次の瞬間、サンドウルフたちが一斉に動き始める。


砂漠の民たちが恐怖に駆られて悲鳴を上げた。


それを横目に、私は、さっそく発砲を始めた。


「!!!?」


ズダダダダダダダッ!!!


と、激しい銃声が炸裂する。


先頭を走っていたサンドウルフ7体が、あっという間に血の海に沈んだ。


砂漠の民たちが驚愕する。


「な、なんだ今の!?」


「サンドウルフを一瞬で……」


「弓矢? 全然見えなかったわよ!?」


砂漠の民たちが驚愕していた。


アサルトライフルを弓矢と勘違いしている者もいる。


しかし、アサルトライフルが何なのか、彼らに説明している暇はない。


いまだサンドウルフは20体以上も残っているからだ。


「……」


私は、アサルトライフルの角度を細かく調整しながら、


ダダッ、


ダダダッ、


ダッ、


と、散発的に弾を発砲する。


サンドウルフを確実に1匹1匹、撃ち殺し、血の海に沈めていく。



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