第5章205話:屋上

ニリャスの滝を去る。


キャンピングカーに乗って、フィールドを走り始める。


そこからは、一気にダリューン王国を駆け抜けていく。


主要な都市を訪れて、素材や食材を買い集めつつ、王国の街道を走り抜ける。





3日後。


私たちは、国境近くまでやってきていた。


野原の上に岩壁が立ち並ぶ地帯。


そこで、野宿をした。


夕食を食べて。


お風呂に入って。


私は、キャンピングカーの外に出て、夜風に当たっていた。


やわらかな風が、風呂上がりの濡れた髪を撫でる。


夜空は、綺麗だった。


私は、ふと思った。


(キャンピングカーの屋根に昇れるようにしよう!)


キャンピングカーの屋根に登り。


そこで、夜空を見上げながら、お酒を飲んだりしたら……


最高の気分ではないか?


そう思ったのである。


さっそく、作業に取り掛かることにした。


(屋上に登る道具といえばラダーかな)


ラダーを2つ作ることにした。


うち1つは車内の壁に取り付ける。


うち1つは車外に取り付ける。車の背面にへばりつくように装着しておくことにした。なお、こっちのラダーは、今回は使わない。


(あと、車内から屋上へあがれるように、天窓を開けられるようにしないとね)


車内リビングの天井には窓がある。


この天窓は現在、開閉が不可能だ。


これをハッチのように開けられるようにすることで、車内と屋上の行き来が可能となるだろう。


で……


車内工事を始めること15分。


天窓を開けられるようになった。




さて、屋上へ登ろう。


まず、車内の壁に取り付けたラダーを、壁から取り外す。


そのラダーを天窓の真下に来るように、設置する。


冷蔵庫の缶ビールを手に持つ。


ラダーを使い、天窓を通って、屋上にのぼる。


キャンピングカーの屋根の上から見晴らす、夜の景色。


周囲には、月明かりに照らされた平原と岩壁が広がっている。


涼しい風が髪を撫でる。


このキャンピングカーは2.5メートルの高さがあるので、体感として結構な高度があるように感じた。


「アリスティたちも呼ぼう」


と、私はひとりつぶやき。


車内にいる二人を屋上へと呼んだ。


その際、缶ビールとぶどうジュースを持ってくるように伝える。


二人が、指示通りに、ラダーを使って屋上にあがってくる。


「わぁ……素敵な眺めですね」


と、ニナが夜空を見上げながら、つぶやく。


私とアリスティは缶ビール、ニナはぶどうジュースを手に持った。


三人で、キャンピングカーの屋根の上に座る。


私は缶ビールを開ける。


くいっとあおった。


「ぷはーっ!!」


キンキンに冷えた缶ビールの、苦味と酸味。


ガツンとくる旨味に、舌鼓を打ってしまう。


「最高だね」


と、私はつぶやいた。


アリスティがしみじみと言う。


「ダリューン王国での滞在は、今日で最後ですね」


私は、うなずいて言った。


「はい。いろいろなところを訪れましたが、特にニリャスの滝であったことは、きっと忘れることはありませんね」


目を閉じれば、あの壮大な滝の景色が、ありありと思い出せる。


秘境のような滝つぼ、聖岩魔との戦いのことも。


ニナは言った。


「またクレアさんに会えるといいですね」


「ええ。きっとまた会えるでしょう」


私は、そう答えてから、ふたたび夜空に視線を向ける。


白く光る星。


赤い星。


青い星。


いろとりどりの星たちが燦然さんぜんときらめいている。


大気のちりなどが一切ない、抜けるような夜天やてん


ビールを飲む。


陶酔とうすいした気分が、胸を満たす。


私たちは夜空を満喫し……


ひとしきり歓談かんだんをしてから、眠くなったあたりで、お開きにした。


キャンピングカーの車内に戻り、寝室に入る。


ダリューン王国最後の夜が過ぎていった。






翌日の朝。


晴れわたる青空のもと。


キャンピングカーを走らせ、私たちは国境の関所に差しかかる。


衛兵と話をして、国境を抜ける手続きを済ませ、ダリューン王国を出国した。


こうして、一つの旅が終わり……


次なる旅が始まるのだった。







第5章 諸国漫遊編―ダリューン王国―


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