第5章185話:道筋


私は礼を言ってから、冒険者ギルドを出た。


その足で、教会に向かう。


――――教会は、精霊を信仰する【神殿】の礼拝施設だ。


この異世界は、精霊が管理している。


ゆえに神殿とは、精霊に信仰を捧げる組織のことをさす。


ただ、ひとくちに【神殿】と言っても、さまざまである。


たとえば、


火の精霊の一柱アリャルダを信仰する、アリャルダ神殿。


木の精霊の一柱ムーアを信仰する、ムーア神殿。


湖の精霊の一柱ロケートスを信仰する、ロケートス神殿。


……このように、どの精霊を信仰するかによって、異なる神殿勢力が築かれている。


精霊の数だけ、神殿があるのだ。


これから向かう教会が、どの神殿勢力に属する施設なのかは知らない。


というか、興味がない。


道を尋ねたいだけだしね。


「失礼します」


と、一言断ってから、教会の入り口を開いた。


明るく、穏やかで、かつ清潔な雰囲気のただよう教会。


丁寧に手入れがされているのがわかる。


正面に、講壇へと続く道がある。


その道の両脇に、長椅子が並んでいた。


男性神官がいた。


私は声をかけて、ニリャスの滝の場所を尋ねた。


すると彼はこう答えた。


「ああ、精霊の滝ですね。その滝は隣の領地にございます」


と前置きしてから、神官は、滝への道筋を教えてくれた。


私はお礼を言いつつ、尋ねることにした。


「ありがとうございます。あの……なぜ精霊の滝と呼ばれているのでしょう?」


「滝に、精霊の霊気が満ちていると伝えられているからです」


「精霊の霊気……」


「はい。あの滝は、精霊が羽を休められる休息地なのです。故に、その滝つぼには霊水が湧き出ていると信じられています」


霊水……ね。


どこまで本当か疑わしい話だ。


まあ、必要な情報は聞けた。


私は神官に礼を言ってから、教会を出た。


街を歩きながら、さきほど得た情報をアリスティたちに話す。


アリスティたちは、ユルファント語がわからないので、こうして通訳する形で情報を共有することになる。


「……というわけで、滝つぼの水は霊水なんだそうです」


と、私は言った。


ニナは感想を述べる。


「本当に霊水なんでしょうか。すごく気になりますね」


そのとき、アリスティが、あっ、と声をあげた。


「ああ! それ、おそらく、聖泉水せいせんすいです!」


私は目を見開く。


「ど、どういうことですか?」


「ニリャスの滝には、聖泉水が沸くと、聞いたことがあったんです。いま思い出しました」


聖泉水といえば【大エルフの聖杖】の必要素材の一つである。


それがニリャスの滝にあると……?


「じゃあ、ガチで霊水ってこと……?」


私はぽつりとそう漏らした。


精霊の滝……という二つ名も、適当な呼称ではないということか。


「お嬢様には鑑定魔導具がありますし、実際に行って、調べてみればわかるんじゃないでしょうか」


「まあ、そうですね」


「え!? 鑑定魔導具があるんですか!?」


ニナが驚愕したように声をあげた。


私は答える。


「ああ。ニナには言ってませんでしたね。実はダファルダムという鑑定魔導具があるんです」


「へ、へぇ……そうなんですか。鑑定魔導具って、国宝とか、そういう類のものかと思ってました」


「国宝ですよ。リズニス女王に譲ってもらったんです」


「えええ!?」


ニナが頓狂とんきょうに驚き、口をあんぐりと開けた。


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