第3章103話:魔素


そこは……アトリエだった。


遺跡の最奥にある錬金魔導師のアトリエ。


視界に映るのは、実験器具や、実験テーブル、書棚、日誌などなど。


中央奥には台座があり、黄金色の液体が入ったポーション瓶が置かれている。


「アトリエですね」


私はぽつりと述べる。


ユレイラさんが言った。


「ドラル・サヴローヴェンが使っていたアトリエでしょうね。相当古びていますね」


200年以上も、遺跡の奥で眠っていたアトリエだ。


テーブルには埃が積もっているし、日誌などの紙類もくすんだ色に染まっている。


ただ、あまり外気にさらされることもなかったからか、保存状態は悪くなさそうだ。


私は中央のテーブルの上に置かれた置手紙のようなものに、視線を落とした。


その文の内容を眺めたあと、つぶやいた。


「読めませんね」


「どれどれ……ああ、これも旧リズニス語ですわね。わたくしが読み上げますわ」


「お願いします」


シャーロット殿下がうなずいてから、文の内容を読み始めた。


『ようこそ、私のアトリエへ。ここに来たということは、宝物庫の術式を解いたのだろう。まずはおめでとう、と言っておこうか』


どうやら、文はドラル・サヴローヴェンが書いたもののようだ。


『アレを解けるならば、この世の最小単位……私がルピスと名付けた粒子の存在も、君は知っているのだろうな』


文脈からしてルピスとは、原子のことだろう。


宝石みたいな名前をつける錬金魔導師だな……


(でも、原子と呼称しないあたり、ドラル・サヴローヴェンは転生者じゃなかったみたいですね)


転生者なら、原子をわざわざルピスなどと名付けたりはしない。


そのまま原子と呼称したはずだ。


つまり、ドラル・サヴローヴェンは転生者ではなく、自力で原子の存在に辿り着いた人間なのだろう。


『ルピスは、この世のあらゆる物質を構成する、根源たる粒子だ。この世はルピスによって出来ている――――といっても過言ではないだろう。そして、君はこれも知っているだろうか? 魔力にも、ルピスが存在することを』


私は驚いた。


薄々、存在するだろうと思っていたことではある。


だが、本当に実在するのか。


『こちらは魔素――――ブレースと名付けておこう。魔素は、魔力を構成する最小単位だ』


魔素。


ドラル・サヴローヴェンの主張が正しいなら、それは【魔力の原子】と呼ぶべきもの。


その存在が指摘されたことは、魔法が支配するこの世界において、どれだけ大きな意義を持つだろうか。


私は、静かに身震いした。

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