追放令嬢、クラフトしながらキャンピングカーで異世界を旅します

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)

第1章:キャンピングカー

第1章1話:転生と追放


人とコミュニケーションを取るのが苦手だった。


だから私は、孤独に過ごすことが多かった。


勉学は好きだったので没頭ぼっとうした。


でもそれ以上に、ものづくりが好きだった。


なので、よく身の回りにある電化製品や工業製品を、分解したり、自作して遊んだ。


特に、はじめてパソコンを一から組み立てることに成功したときの感動は、今でも忘れていない。


ちなみに、作業のために必要な工具や機材は、両親が無制限に買い与えてくれた。


時は流れ――――


私は大学生となった。


工学部に進学。


専攻は機械工学科。


順当に進級し、3回生となり、卒業研究に打ち込みはじめた。


そんなある日のことである。


私は交通事故にった。


苦痛も感じる暇もない即死。


そうして、私―――古木佐織(ふるきさおり)の21年の人生は、幕を閉じたのだった。




……。


……と、思っていたんだけど。





気づけば、私は見知らぬ屋敷の一室にいた。


眼前に一人の女性が立っている。


(ここは……?)


わけがわからず周囲を見渡す。


うん、屋敷だ。


中世ヨーロッパのような個室。


テーブル。


椅子。


ベッド。


壁の絵画。


内装や調度品ちょうどひんはそこそこカネのかかったものだと一目でわかった。


いったいどこだろう、ここ?


私、トラックにはねられて死んだはずだけど。


「何をキョロキョロしているの?」


目の前に立っていた女性が言った。


「あなたには国外追放の命令がくだされたのよ。さっさと支度したくをして出て行きなさい」


――――そのとき。


私は自分の身に起こった状況を理解した。


ああそうか。


これは異世界転生だ。


死んで、この異世界に、新しいせいを受けて生まれ変わったのだ。


――――私は、子爵令嬢エリーヌである。


エリーヌとして19年間、この世界で生きてきた。


そして、前世が古木佐織であったことを、たったいま思い出した。


元々持っていた私の記憶に、前世の記憶が流れ込んでくる。


まるで走馬灯そうまとうのごとく、わずかな時間のうちに、前世の人生を歩んだような感覚。


あまりの情報量の多さに立ちくらみを起こしそうになる。


自我の混乱が起こっていたので、私は改めて、自分が何者であったかを確認する。


(私は子爵家に生まれた令嬢、エリーヌ。ブランジェ家の末女で、魔法使い)


魔法の名門であり、軍事の大家たいかであるブランジェ家。


その末の娘であるのがこの私――――エリーヌ・ブランジェ。


青色の長髪と紫の瞳を持つ。それが私。


一家の中で最も冷遇されてきた令嬢だ。


「無能だと、人の話もろくに聞けないのかしら?」


眼前の女性、母であるディリス・フォン・ブランジェから馬鹿にされたように言われる。


―――無能。


私はずっとそうさげすまれてきた。


その理由は、私の適性が【錬金魔法れんきんまほう】であったことだ。


錬金魔法とは、アイテムや武具を生産する魔法。


いわば職人系の魔法である。


軍の名門であるブランジェ家にはふさわしくなかった。


それでも新兵器の開発などに才があればマシだったかもしれない。


だが私の錬金魔法は凡人の域を出ないものだった。


ゆえに無能だとののしられ……


特に、母からひどく嫌われた。


母は、軍人として優秀に育った兄や姉を溺愛できあいし……


一方で、私に対しては露骨に冷たく接して、日頃から暴言を浴びせかけた。


お前は出来損できそこないだ、と。


何度言われたかわからない。


そして挙句の果てには国外追放の宣告だ。


絶望した。


もう死んでしまいたいとさえ思った。


だけど……。


だけど、今は……。


(錬金魔法……!! そうか……この魔法には、無限の可能性があったんだ!)


私は前世の記憶を取り戻した。


そのおかげで、科学的な知識を思い出した。


なぜ火が燃えるのか?


なぜ水を冷やせば氷になるのか?


雲は、大地は、海は、いったい何からできているのか?


その答えが科学にはあった。


そして、それらの知識は、間違いなく錬金魔法の上達につながると確信できた。


(私は何も知らなかった。無知だったんだ。何も理解していないのに、錬金魔法が上手くいくわけない)


錬金魔法は、物事の原理を知れば知るほど上達するとされている。


しかし、この世界では、科学が発達していない。


原理に対する探求が甘いのだ。


だから、錬金魔法の真価が発揮されていなかった。


でも前世の知識を思い出した、いまの私なら……


早く試してみたい。


実践してみたい。


科学知識をベースにした、新しい錬金魔法を……!


「エリーヌ、聞いているの!?」


母が強い口調で言ってきた。


しまったしまった。


まだ話の途中だったね。


私はさっさと会話を終わらせたくて、早口で言った。


「ああはい。国外追放ですね。わかりました。すぐに出て行きます」


「……そう。聞き分けが良くて助かったわ」


母はフンと満足げに鼻を鳴らして退出していった。


さて……私も家を出る準備をしないとね。


まずは着替える。


部屋着へやぎを脱ぎ捨ててローブを着用した。


続いて部屋のすみに置いてあったアイテムバッグを拾い上げる


アイテムバッグとは、異空間にアイテムを保存しておける魔法カバンだ。


そのバッグの中に、自室に保管してあったものを詰め込んでいく。


金貨100枚。


宝石。


アクセサリー類など。


さらに隣の部屋にいく。


そこは私の工房部屋アトリエであった。


保管してあった工具や素材をアイテムバッグにどんどん放り込んでいく。


さらに錬金魔法に関する書物も収めた。


「さて、それじゃあ出て行くとしましょうか」


私は陽気にそうつぶやいて、屋敷をあとにした。


さっきまで絶望していたのに、今はウキウキの気分だった。



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