第玖話 魔力がなんちゃらで身体が変化するのはファンタジーのお約束ですよね?

やっぱりピザはマルゲリータが一番好きだなぁと感じた土曜の昼下がり。


普段の仕事の疲れや、昨日の睡眠時間が少なかったことや、そして朝のマオちゃん救出劇と精神的にも負荷がかかっていたので、ピザを食べてお腹が満たされた段階でものすごく眠くなってしまった。



「リシュナちゃん、マオちゃん、悪いんだけどあたしは眠くなっちゃったからちょっとお昼寝するね。

 そのタブレットとこのパソコンは使ってていいからちょっと寝かせて。

 ここで調べ物をしたりしながらあたしが回復するのを待っててくれないかな?」



「わかりました。カナデさんが回復するのをここで魔女と待っています」



「そもそも妾たちのせいじゃしな、大人しく待っておるからゆっくり眠るが良い」



「ごめんね、ふたりとも。ちょっと寝て疲れが和らいだら起きるから待っててね。

 あと、あたしが起きるのを待てないほど困ったことがあったら起こしてくれていいから」




~~~~~~~~~~


昼寝から目が覚めると、外が暗くなっていた。


日が落ちるのが早い季節とは言え、寝すぎてしまった感がある。


部屋を見ると2つの影がそれぞれパソコンとタブレットを見つつ何か話し合っていた。



「ふたりともごめんなさいね。思ったよりも寝ちゃっていたみたい」



「いいんですよ、カナデさん」



マオちゃんらしき声を聞き、そちらをよく見返してびっくり!



「マオちゃんどうしちゃったのその姿と声?

 明らかにちっちゃくなっちゃって、声も高くなったよね?」



「この世界の魔素が足りずに、魔力バランスを維持しやすい状態に変化してしまったようです。

 ワタシもよくわからないですが、魔女が言うには今の状態でバランスが取れているみたいなので、この大きさで安定するようです。

 カナデさんはこんな小さくなってしまったワタシはお嫌いですか?」



悲しそうな表情で首を傾げながら見上げてくるマオちゃんに思わず全力で抱き着いた。



「そんなことないわよ!この姿だって声だってマオちゃんはマオちゃんでしょ!

 なんならこの姿と声の方があたしは大好きよ!!

 大丈夫、マオちゃんがあたしのことを嫌いになってあたしはマオちゃんのことを嫌いになったりしないから!」



「カナデさん・・・嬉しいです。

 嫌われなくてよかったです」



あたしが寝る前はがっしりした肉付きで身長156cmのあたしが見上げないといけない位置に顔があったけど、今はむしろ頭の天辺てっぺんが見えるくらいには低くなってて、おそらくあたしから10cmくらいは低いと思う。



「それにしても、逆に髪の毛は男の子かと思うくらいにショートだったのに、今は腰くらいまで伸びちゃっているわね・・・」



かなで!それはですね!髪は魔力を調整しやすいからです!」



勢いよく右手を上げて存在を主張しながらリシュナちゃんが説明してくれた。そして、あたしの右手はずっとマオちゃんの頭を撫でている。



「そうなんだ。でも、こんなきれいな髪ならこれくらいある方が見栄えもいいし良かったわよね」



(なでなで)



「奏!私もきれいな金髪で長いと思います!」



(なでなで)



「そうね。リシュナちゃんの髪も長くて金髪が映えてとても似合っているわよね」



(なでなで)



「奏!そんな金髪が映えてとても似合っている私の頭も撫でたくならないですか!」



(なでなで)



「それは撫でてみたいわね」



リシュナちゃんがあたしに向けて頭を突き出してきた・・・いくら何でもわかる。これはあたしに撫でてほしいのだ。当然察したとおりにマオちゃんの頭を撫でている右手を離し、そのままリシュナちゃんの方へ伸ばす。



「ダメです!まだワタシの頭を撫でていてください」



マオちゃんがあたしの右手を掴んで自分の頭へ持っていった。



「おい魔王!

 お前はさっきから撫でてもらっているんだからもう良いだろう!

 私に奏を譲れ!」



「ほらほらケンカしないの。リシュナちゃんはこっちへ来て」



リシュナちゃんをあたしの左手が届く場所へ誘導したら素直に移動してくれたので、そのまま左手で頭を撫でてあげた。



「奏。魔王と私とどっちの頭が撫で心地が良い?」



(なでなで)(なでなで)



「何言ってるの。そんなの比較できないわよ」



(なでなで)(なでなで)



「むぅ」



(なでなで)(なでなで)



あたしの返答に納得がいかなかったようでリシュナちゃんはムスッとしてしまった。


この空気を変えたかったのもあり、さっきから気になっていたことを尋ねることにした。



「ねぇリシュナちゃん。なんで口調を変えたの?」



(なでなで)(なでなで)



「それは・・・なんというか・・・」



(なでなで)(なでなで)



「カナデさん、魔女はカナデさんに良く思われたいみたいです。

 ワタシが口調を変えてカナデさんの反応が良かったので、羨ましがってこの国の普通の口調を勉強してました」



(なでなで)(なでなで)



「おい魔王!バラすな!」



(なでなで)(なでなで)



「良いじゃないですか。聡明なカナデさんなら察していますよ」



(なでなで)(なでなで)



「あたしが聡明かどうかはともかく、その事は察したわよ」



(なでなで)(なでなで)



「むむむぅ」



(なでなで)(なでなで)



「そんなしょげないの。あたしの好みに合わせて慣れない事をしてくれたのは嬉しいわよ」



(なでなで)(なでなで)



「なら、私にも抱き着いてその気持ちを表現して欲しい・・・」



心の中でマオちゃんに『ごめんね!』と思いながら一旦抱き着いていた腕を外してそのままリシュナちゃんに抱き着き直した。



「もうっ!もうっもうっもうっ!!!

 リシュナちゃんもすっごく可愛いんだからっ!」



リシュナちゃんはあたしよりも身長が10cmほど高くスタイルもあたしより全然良いのだけど、今醸し出している雰囲気は年相応のティーンエイジそのものでこれはこれでドチャクソストライクだった。



こんなに幸せでいいのだろうか?



なんか他に忘れていることがある気もするけど・・・まぁ、いっか。

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