95%の苦味と4%の塩味、そして1%の甘味で出来ている

 俺には毎年この日、たった一人でやる事があるんだ。

 なぁに大した事じゃあない。


 ただ、カラオケ店ですこぉーしだけ部屋の扉に隙間を開けたまま歌を歌うんだ。

 あるコンビのメドレーをエンドレスでな。

 どぶろ○くって最高の歌手コンビなんだが知ってるかい?

 コイツを18:00から5:00オールナイトでフルタイム。部屋の扉をすこぉーし開けてな。


 だけど、毎年同じ事をしてきて、去年だけは少し変わった事があったんだ。その話をちょと聞いてくれないか?




 ……自慢じゃないが、こう見えて俺は中々いい喉してるのさ。俺の美声がカラオケ店の廊下に響き渡る訳よ。


 んでもって、部屋の前を他のお客が通りかかると少し声量上げてな。オーディエンスの彼氏彼女は俺の美声に肩を震わす訳だよ。


 たまらないだろ?


 でもな、いくら俺がプロ顔負けのストイックな性根の持ち主でも喉くらい渇く。

 そんな時はドリンクバーに飲み物を取りに行くんだ。


 そこで、俺がサーバーからカップにホットコーヒーを注いでいると、隣のサーバーの前に誰かが立った。


 コーヒーが貯まるまで少し間がある。その間に俺は隣に立った奴をチラリと見た。

 可愛い女の子だったよ。長い黒髪が印象的でな。恥ずかしい話、俺は少しその子に見惚れてしまったんだ。


 ポーッとその子を見詰めていると、その子も俺の視線に気が付いてこちらを振り向いてニコリと笑いかけてきたんだ。

 しかも、「お兄さん。歌上手ですね。私達の部屋でも聴こえましたよ」なんて言ってくる。


 俺は感動したね。自分の歌声がそんなにも人の心に響いたなんて!

 だから俺は部屋に戻った後、更に心を込めて歌ったのさ。それこそ、喉が張り裂けんばかりに。




 ――悪かったね長々と。

 そんな、ちょとした思い出話がしたかったんだよ。


 後な、一つ不思議な事があるんだ。

 カラオケ店にも閉店時間って物がある。

 だから俺も会計を済ませて店を出るべく受付に立った。身に達成感と心地良い疲労感を湛えて。


 そこでな、店員が言うんだよ。苦々しい表情を浮かべながら、

「お客さん、アンタもうこないで下さい」

ってな。


 まったく……不思議な話だよな。

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