第28話 追放されし者たち②
「聖女アルフイーネ。そなたとの婚約を破棄しエデンス王国から
追放するものとする」
言ったのはエデンス王国の第一王子のグリース王子だった。
(しかし何故このタイミングで?……
近隣諸国の重鎮が集まるパーテイーなのに……
私的ことで時間をとってもいいの?)
聖女アルフイーネは思う。まあ、私にとって、悪くない状況
かも知れない。
アルフイーネは答える。
「婚約破棄については謹んで承知致しました。ですが……この国から追放とは一体どんな理由が有っての事でしょうか?」
「それはお前がこちらに居るメアリー嬢に働いた数々の虐め
嫌がらせに対しての罰だ」
「いじめ?嫌がらせ?一体何の事でしょうか?」
「しらばっくれるのか!メアリー嬢を噴水のプールに突き落とした事とかだああ」
「それってこのことでしょうか?」
アルフイーネは会場全体から見えるように巨大なスクリーンを
展開させて、そこに映像を映し出した。
噴水の傍にメアリー嬢が立っている。そこからおよそ20メートル
離れた場所にアルフイーネが女性5人と談笑している。
「きゃー」と叫んでメアリー嬢が噴水のプールに頭から飛び込んだ。
「どう見てもメアリー様がご自分で飛び込まれたとしか見えませんが」
メアリー嬢はグリース王子の後ろで、顔を青くしている。
「うむむ、メアリー嬢の教科書にインクをぶちまけたり、
びりびりに破って捨てたりした事はどうなのだ!」
「ああ、このことですね」
アルフイーネは画面を切り替えた。
校舎の裏にメアリー嬢が居る。少し黒い笑みを浮かべて自分の
名前の書かれた教科書にインクをぶちまけて、開いた教科書の
半分を足で踏みつけてびりびりと破き始めた。
その時右手を紙で切ってしまったようで、血がながれている。
「どう見てもメアリー嬢ご自身でなさっておられるようにしか思えませんが。そうそう、メアリー様、その右手の包帯はこの時の傷の為ですよね」
「ぐぬぬ、なんでそなたがこんな画像を撮っていたのだ?」
「私の前に、メアリー嬢に無実の罪を着せられて泣いている方々がおられましたので、自衛のために止む無く彼女の頭上に撮影虫を待機させて居りました」
「な、なんと卑劣な!」
「私が卑劣なら、私という婚約者が有りながらメアリー様に懸想
なさって、私に無実の罪を擦り付けて、婚約破棄なさろうとする
グリース殿下はどうなのですか?」
「ぐぬぬ、ええい、五月蠅い五月蠅い!さっさと出ていけ!」
「判りました。失礼いたしますわ」
「アルフイーネ聖女様、何処へ参られます?行く宛は御座いますか?もしよろしければ我がバイオレット王国に来てはいただけませんか?」
事の成行きを見守っていた聖女の居ない3ヵ国が勧誘に動いた。
「いやいや,是非とも我がアザニア王国へ!」
「いささか遠方にございますがわたくしのローズ王国へ」
アルフイーネは訊いた。
「この中にカルミア辺境国の方はおられますか?」
「ああ、私がカルミア辺境国のグランド王に御座いますが……」
「良かった。宜しければお世話になりたいのですが如何でしょうか」
「大変ありがたいお話ですが、私の国は聖女様を養えるほどの
財力が有りません」
「残念ですわ。でも私の月々のお給金は金貨10枚ほどです。
メアリー様がグリース殿下とお付き合い始めたころからどんどん
少なくなって今月は金貨6枚になってしまいました。
聖女服の支給も先月から無くなりました」
なんという暴挙。聖女様の加護に対する賃金にしては余りにも安すぎる!金貨100枚を支払っても高過ぎる事は無いのだ。
一斉にみんなの視線がメアリーとグリース王子に集った。
メアリーの金ぴかドレスと高そうなアクセサリーが否が応でも目立つ。
「提案致します。我がローズ王国とカルミア辺境国は隣合せです。両国の面積を合わせてもここエデンス王国とほぼ同じ。共同で資金を出し合い、両国に聖女様の加護をいただくことは不可能でしょうか?」
「それは妙案。才女様の居城を両国の国境に建設致しましょう」
グリース王子とメアリーは自分達を置き去りにしてアルフイーネ聖女の居場所について話が進んでいくことに呆然としていた。
こんな大事な問題なのに何故か国王も御妃も口を挟まない。
諸国はこのエデンス王国は国王も妃も心を支配されているのでは?と怪しんだ。
いっその事、5ヵ国に週交代で出向くことをアルフイーネが提案する。
「「「「「おお、それならばありがたいことです」」」」」
グリース王子はポカンとしている。聖女の加護の大切さを
生まれて初めて知っていくことになるのだ。
続く
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