第29話 検証

 家の中でレイラは金魚のフンのように僕にくっついており、机で考え事をしていると肩揉みをしてくれたり、僕に何か出来る事が無いかと色々聞いてきたり、トイレに行くにもついてくる程僕に頼り切っている。


「さっき母さんにきつい事を言われたの?」


「その、先程は失礼しました。ゴブリン如きにお慕いしていると言われても迷惑ですよね」


「いや、その、確かに人間じゃないけど、レイラは真面目だし、美人でスタイルも良いしそんな風に言われると僕も嬉しいよ」


「先程の夜伽の話は聞かなかった事にして下さい。勿論求められれば御奉仕しますが、母君から人間の文化や価値観、貞操観念と大きく違うから人前でそのような言質は駄目だと教えられました。その、見えそうで見えない方が殿方は燃えると言われたのですがそうなのですか?」


 おい母よ!何をやっているんだ。

 それに僕に何をさせたい?


「はははは。そんな事もあるかもね。少し聞きたい事が有るんだけど良い?勿論嫌な事は答えなくても良いんだけど」


「何でも聞いて下さい!」


「死んだ時の事、ゴブリンだった時の事を覚えている?」


「死んだ時の事は余り覚えていません。バババババンバン!と大きな音がし、気が付いたら体に沢山の穴が空いていて、あっという間に意識が無くなり、次に気が付いたら御主人様が目の前にいたのです」


 ?カーヴァントにやられたんじゃないのか。

 父さんの日記にゴブリンのカードが1枚挟まっていたって母さんが言っていたな。

 確か初めてラビリンスに入った時に、最初に入手したカードだって書いていたな。

 戦闘中で慌てていたのもあり、戦闘服の中に入れていたが、後で気が付き、今更提出できなかったから記念に取っておいたと。

 当時は周りの者も一部のカードを勲章のように隠し持っていたと聞く。


 最初の頃はスナイパーライフルを短くしたライフルやショットガン、重機関を持ち出して戦っていたそうだ。


 武器の調達の関係で配備された火器はバラバラで、試作のガトリング銃や対物ライフルを短くしてラビリンスに持っていったりと限られた武器を無理やり使っていたそうだ。


 父はM24 SWSというスナイパーライフルを渡され、銃身を切り落として取り回しを良くし、近距離で使っていたとある。

 洞窟のようなラビリンスの中では長いスナイパーライフルは邪魔で使い物にならず、長距離狙撃をする事もなかった。

 裸眼で相手の個人を認識出来る距離での戦闘が殆なので、狙いが逸れるデメリットはそれ程問題なかったらしい。

 命中率よりも魔物の強固な皮膚を貫通する威力が必要だった。


 散弾銃は握手出来る距離以外かすり傷位しか与えられなかった。


 剣は魔粉を練り込んだ刃でしか斬り裂けなかった。

 勿論突撃して突き刺せば普通の剣も刺さったが、人の力では斬り裂けなかったらしい。


 レイラの助けにならないか?と思い、ラビリンスが最初に発生した当時に父が日記に記した内容にヒントが無いかと母に無理を言い、日記を借りて読んでいた。


 例えば0号さんは小型の機関銃では歯が立たず、民生の猟銃を使い銃口を魔物に押し当てる等、至近距離でぶっ放していたらしい。

 初期に小隊で大口径銃を一丁渡されていただけでもマシだったらしい。

 小口径の銃は至近距離から多弾をぶち込まないと倒せないとなり、銃身を短くしたスナイパーライフルは生存率を上げていたそうだ。


 レイラの話だと、彼女は初期に自衛隊が銃で倒していた時のゴブリンのようだ。


 生きているカードとしては殆ど残っていない初期のだろう。


 彼女は意味も分からず開いた穴に入らされ、異種族を殺せと送り出されたのだが、レイラは人を敵と思えず殺す事が出来なかった。


 そんな事を言っていたな。


「御主人様、いえ斗枡さん、その、急に物凄く眠くなって来て、頭が回らなくなってきました。その、気絶しそうで怖いです」


 話をしているとレイラは急激に眠くなったと言い、更に震え出したので僕はギュッと抱きしめた。


「大丈夫。僕がついているから少し休むと良いよ」


 それから少しするとレイラは寝息を立て始めたので、僕のベッドに寝かせようとしたんだけど急に霧散してカードに戻った。


 僕は今の時間を記録してからレイラのカードを見たが、特に異常はなさそうだった。


 僕は急ぎ愛姉に電話をした。


 ・・・


「どうしたの?」


「一応報告しなきゃならない事が出来たんだ。その、今、レイラがカードに戻ったんだ」


「何かしたの?」


「何もしていないのに急に眠くなったとかで、あっという間に眠りに落ち、眠ったと思ったらカードに戻ったんだ」


「そうかぁ、一時的にしか外に出られないのね。ふああ。ごめんね。私も眠いわ」


「遅い時間にゴメン。愛姉、おやすみなさい」


「はーい・・・」



 そして翌日愛姉と昨日の風曲の森へ行ったら自衛隊が来て封鎖していた。


 愛姉がギルド職員の権限で調査のためとして僕と中に入る。


 入り口近くできのう合成したカーヴァントを出していく。

 勿論最初はレイラだ。


 レイラにあの後どうなったか話をし、ゼッチィーニやモーモンを次々に召喚した。


 ゼッチィーニは少し成長し、色気のある闊達なお姐さんになっていた。


 アレクは強面の大学生位、ムミムナも愛姉と良い勝負の出来る大人の女になっていた。


 そしてモーモンは完全に女騎士だった。

 美少女の服ははち切れたが、直ぐに服を着せた。

 大柄の美少女で、僕より大きい。

 均整の取れたボディーラインの持ち主だ。


 剣を捧げて来て驚いたが、レイラ達のようになったと涙していた。


 そうそう、愛姉の執事じゃなくて執爺は老執事で、愛姉の事をお嬢様、お嬢様とジョブ通りだった。


 そしてジョーイ。

 ワーウルフのはずが巨大なフェンリルに。

 モフモフが堪らないが、なんとレイラ経由で会話が出来たりする。


 どうするか少し悩んで、ゴブリンピエロのラッチーを召喚した。


「やっほー!こんにちわんこ!初めましてえ!ボク両刀使いだよおう!ボクと愉しんでも良いよおう!ってな、何!?君ボクと良い事を・・・グキャアァ!」 


 レイラの出番だ。


「我が主の貞操は私が母君に託されているので必ず守ります!貴方、次やったら殺しますよ!?」


 ピエロは正座をさせられ、何かを言われていたけど能力の面はともかく、さっきゾワッとしたあれはレイラが封じてくれたようだ。


 ジョブがピエロだから嫌な予感しかしなかったんだよね。

 でもゴブリン10体分だよ!強いよね?


 ため息をつきつつ召喚した者を見る。

 正直頭が痛いけど、元々今日のところは合成したカードの確認をする事を目的として来ていたのもあり、装備品や服をカーヴァントに渡した。


 さあラビリンスを引き上げるぞと言った段でジョーイは眷族召喚をし、見た目中型犬のワーウルフを僕の護衛に付けると言い出した。

 勿論僕にはグルルとかワオンとしか聞こえないけど、レイラが通訳してくれた。

 多分ジョーイがカードに戻っても大丈夫と言う。


 明日から学校なので、1時間程ラビリンスにいただけで引き上げたのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る