佐伯家の秘密
「いやあ、小さいころに話したと思ったんだがなぁ」
「ねー。確か、千鶴ちゃんが幼稚園の年長さんくらいの時だったかしら」
私と両親は今、向かい合ってテーブルを囲んでいます。
「そんな小さい時に言われても、からかわれただけだって思うでしょ」
「そういうものなのか」
「ねー」
顔を見合わせる両親に、私はため息をつくしかありません。
思えば幼稚園の年長さんくらいの時、こう言われた記憶があります。
『千鶴ちゃん、あなたは立派な吸血鬼になるのよ』
『佐伯家の娘だからな、きっとすごい能力を持った吸血鬼になれる』
確か、吸血鬼の出てくる絵本を読んでいた時でしょうか。
牙の生えた、こわーい吸血鬼さんの絵を見て泣いていたように思います。
その様子を見て、両親はこう続けました。
『大丈夫よ、千鶴ちゃん。今どきの吸血鬼は、こんな感じじゃないから』
『そうだぞ。もっとスマートでかっこいいんだ』
あれは、そういう意味だったのですね。
自分たちも吸血鬼だけど、こんな牙ないでしょ、っていう……。
「まぁ、明日は入学式だ。いい機会だし、全て話してしまおう」
「そうね」
うんうん、と頷きあう両親。
「佐伯家は代々続く、吸血鬼の家系だ。吸血鬼は、分かるな」
「朝日やニンニク、十字架が嫌いな血を吸う生き物だよね」
私が答えると、お父さんが顔をしかめます。
「……まぁ、違うとは言わんが、気持ちのいい言い方じゃないな」
「私のイメージは、そうなの。続けて」
私の言葉に、お父さんはため息をつきました。
「佐伯家の人間は、十三歳の誕生日に、吸血鬼としての能力が開花する。その時に、固有能力が一緒に判明することもある」
「固有能力」
「吸血鬼は、普通の人間より速く動けたり、力が強かったりする。それは、個人差はあるにしても、吸血鬼みんなが持つものだ。だが固有能力といって、その人しか持っていない能力が開花することがある」
「男の子になっちゃう能力。それが、千鶴ちゃんの能力ってことね」
お母さんが笑顔で言う。
「え、いや、困る困る! 私、イケメンと素敵な恋をするのが夢なのに!」
ばんっ、と机を思わず叩いた私は、びっくりしました。
私が叩いた場所が、凹んでいたんです……。
「あらあら千鶴ちゃん、気を付けてよね。吸血鬼は、力が強いんだから」
そう言いつつ、お母さんは机の下を押しました。
すると、凹んでいた場所が元に戻りました。不思議。
「千鶴。男になってしまう能力はすごいと思うが、嫌か」
お父さんに言われて、うなずきます。
「……それなら、血盟学園に入学して、吸血鬼卒業証書をもらう必要がある」
「血盟学園……」
血盟学園のウワサは聞いたことがあります。
スポーツ万能、成績優秀な人たちが通っているのだと。
さらに、生徒たちの大半が美男美女だといいます。
「イケメン盛りだくさんの私立中学に、私は入学する」
「そう」
「イケメンとの恋も、夢じゃない」
「そうね」
お父さんとお母さんがうなずきます。でも……。
「だけどお前、見た目は男になるからな?」
「うわあああぁぁぁ!」
イケメンとの素晴らしい学校生活を想像しましたが!! でも!
鏡に映る自分は、イケメンです。男です。
このまま恋をできずに、人生を終えるのでしょうか。そんなの、あんまりです。
「大丈夫だ千鶴。三年の学校生活の間に学園長に認められれば、吸血鬼を辞められる」
「本当!?」
「ああ。卒業式の日、吸血鬼卒業証書をもらうことができれば、男の姿になることもなくなる」
「行く! 血盟学園に入学する! そしてイケメンと恋するっ」
「うん、その意気だ千鶴」
嬉しそうなお父さんの目の前を、一匹のコウモリが通り過ぎました。
え、コウモリ……?
『佐伯千鶴、吸血鬼の能力の開花を確認。血盟学園の入学意思も、確認。能力、把握。能力の詳細、教えてやるゾ』
私の目の前に降り立ったコウモリが、私の方を向いて言いました。
「コウモリが、しゃべった……」
『コウモリは、吸血鬼の使い魔だ。これは、絵本と同じだな」
お父さんの指に、コウモリがガブり。
「コウモリを使い魔扱いするナ。我々は、協力関係にあるだけダ』
コウモリさんを怒らせてしまいました。
話題をそらすため、私はコウモリさんに尋ねます。
「私の能力の詳細、教えて頂けますか」
『いいゾ。お前の能力ハ、男になる能力ダ。発現条件は、夜、またはドキッとした時ダ。ドキッ、キュン、ダ』
ドキッ、キュン、を繰り返すコウモリさん。なんだかかわいいです。
「その能力は、吸血鬼卒業証書をもらうことができれば、なくなるんですよね?」
『そうダ』
「イケメンと恋もデートもできますよね?」
『それは、相手が見つかればという話ダ』
「でも、男には変身しなくてよくなりますよね?」
『そうダ』
「それじゃ、血盟学園に入学して、必ず吸血鬼卒業証書をもらってやります!」
私の、未来の恋のために!!!
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