旅行計画中
日本には沢山の「限界集落」が存在する。少子化が進む上、教育機関や職を求めて若者が都会へと出て行ってしまった結果、共同体としての機能が損なわれつつある集落の事を指している。
ここ
そこに住む夏芽おばあちゃんは、もうすぐ孫が遊びに来るのでご機嫌だった。しかもお友達を連れて遊びに来てくれるそう。
「山菜取りにでも連れて行ってやろうかねぇ」
せっかく来てもらうのだから田舎を楽しんでもらいたいと考えた夏芽おばあちゃんは、山菜取りを企画することにした。そうと決まれば下調べに行かないと。おばあちゃんは自分の所有する山へと向かった。
ちなみにこのあたりに住んでいる人はほとんど山を保有している。別におばあちゃんが大地主という訳ではない。
大方どこに何が生えているのか把握したおばあちゃんは、不意に何かの視線を感じた。気になってそちらへと向かうと、
「……?! こ、これは……!」
「コ、コン……」
「ほえーこない大きな狐、見た事ないねぇ」
おばあちゃんが見たのは大型犬ほどの大きさのキツネだった。藪から出てきたとは思えない程に美しい毛並みは、
「ひょっとしたら、神様の使いか何かかもしれないわねぇ。だとしたら丁重に接する必要があるわねぇ。着いてきて下さるかい?」
「コン!」
その後、村の皆に紹介すると「こりゃあ、お稲荷さんだべ」「ありがたや、ありがたや」「お供えもんせんとなあ。極楽に行けるように」「おいおい、まだまだ死んじゃ駄目だべ」などと大盛り上がり。
誰も使っていない山奥の家を整理し、そこに即席の
「ありがたやありがたや」
「コンコン、コンコン」
◆
「OKだったよ」「私も」「私もOKだって~」
「やったー! 楽しみだね!」
ハルちゃんのおばあちゃんが田舎に住んでいると聞いて興味を持った私。そこでハルちゃんは、自分の帰省ついでに一緒に旅行しようと計画を立ててくれた。
迷惑にならないか心配だったけど、ハルちゃん曰く「数年前にお祖父ちゃんが死んじゃったから、おばあちゃん寂しいみたいで……。人数が多くてもウェルカムだって」との事。
その上、いつもなら帰省しているハルちゃんのお兄さんが、今年は部活の合宿か何かがあって帰れないらしく……。このままだと寂しい帰省になっていたとの事。
そんなこんなで、みんなでハルちゃんのおばあちゃん
「行く前に気を付けておくべきこととかある?」
「うーんっと。おばあちゃん
「なるほどね。マジックバッグがいっぱいになるくらい用意しよっか」
「着替え、アメニティーグッズはもちろん、非常食とかも必要かな」
「遊び道具も持っていかないとね~。虫取り編みとか、バーベキューセットとか~」
いやあ、こういう時にマジックバッグは便利だよねー。いや、マジックバッグに限った話じゃないわね。それ以外にも色んな超常的な物を使えるこの世界は、ホント便利な世界だよ。
その割には技術レベルが前世と同じくらいなのはちょっと謎だけど……ゲーム世界だしその辺りを真面目に考えちゃいけないよね。
「あ、遊び道具と言えば、ハル、天体観測をしたい! お星さまがとっても綺麗に見えるんだー」
「そっか、ここら辺じゃあ見えないもんね」
「都会の町は夜でも明るいからね」
「みんなで天体観測~! ロマンチックだね♪」
「ハルの調べでは、その週は丁度新月みたいだよ! だから綺麗に見れるはず!」
「へぇ! 言われてみれば、天体観測って月にも影響されるんだね」
満月に近いと月が明る過ぎて他の星が見れなくなっちゃうのね。当日晴れるといいなぁー。
「ヒメちゃんは何かしたいことある?」
おっとここで私に振られるか。えーっと、何かしたい事ねえ……。
「私? 私は……ダンジョン攻略?」
「あー、残念ながらダンジョンは近くに無いんだぁ。他には?」
「そうね……。あ、そうだ! 用水路でアカザって魚を取ったって言ってたじゃない?」
水族館へ遊びに行った時の事ね。渓流にしか住まない珍しい魚が用水路にいたって聞いて、その流れでハルちゃんのおばあちゃんが田舎に住んでいるって知ったのよね。
「うん、そうだね。あ、魚を捕まえる為の網と水槽なら向こうにあるから心配しないで!」
「それもだけど、ちょっと試したいことがあってさ。ほら、夏休みの課題で『自由研究』があるじゃない?」
私達が通う中学校では自由研究が課せられるのよね。ちなみに分野は自由。理科、数学、社会、文学、なんでもオッケーらしいわ。
「あれ? それなら『ダンジョンの生態系』で書くって話じゃなかった?」
「うん、そう思ってたんだけど……ちょっとありきたりじゃない?」
「それは確かに!」
「遠方のダンジョンならまだしも……」
「家から徒歩数分のダンジョンだからね~」
「そ。だからさ、その用水路と東京の河川を比較する研究ってどうかな?」
簡単に言うと、環境汚染をテーマにした自由研究をするって事ね。「こんなに東京の川は汚れているんです!」って訴えるの。
ありきたりなテーマではあるけど、頑張ればいい研究にできると思うわ。そう私は説明する。
「それいいね!」
「うん、面白そう。けど、具体的にはどんな風に比較するの?」
「さすがヒメちゃん♪ でも、確かに比較って難しそう」
評価軸が適当だと意味が無いからね。「向こうの水の方がキレイでした!」って書いても「それってあなたの感想ですよね?」って言われちゃう。
「評価軸の設定はシンプルに『透明度の比較』『住んでいる生き物の比較』『生物化学的酸素要求量の比較』って感じかなあ」
「せいぶつ……なんて?」「最後のなあに?」
「生物化学的酸素要求量、通称BODは簡単に言うと、どれだけ水が腐っているかの指標だね。酸素が沢山あると不純物がきれいさっぱり分解されるんだ。だけど、酸素が足りなくなると、不純物の分解を出来ず、結果的に悪臭を放ったりする」
「へえ、そういう指標だったんだ。正直詳しくは知らなかったんだよね、あはは。リンちゃん、分かりやすい説明ありがと!」
「いえいえ」
天体観測に水質調査に。とっても実りのある旅行になりそう♪
欲を言えばダンジョン攻略もしたかったけど……それは無理そうかぁ。
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