何その技術、すっご!

 RTA界隈では「バグを使っても良いから1sでも早くクリアする部門」と、「正規の手段のみを使い、可能な限り早くクリアする部門」があるわ。

 その内、後者はGlitchlessと呼称されることが多いわ。Glitchバグlessないって事ね。


 さて。この世界はゲームではなくリアルであり、バグなんて存在しないので、全てのRTAがGlitchlessとなる。


「それでは、カカオトレント18体討伐RTA、もちろんGlitchlessを始めまーす!」


 という訳で始まりました、カカオトレント18体討伐RTA。今日からはロボマネージャーさんを使って動画撮影を行い、証拠兼資料にするつもり。


「えーっと。このRTAでは全ドロップアイテムは回収します」

「計測開始は転送直後。計測終了は18体目のカカオトレントのドロップアイテムを全て拾い終わるまで」

「計測および記録はロボマネージャーにデフォルトで付いている機能を使います!」


 この世界のロボマネージャーには、なんとRTAラップツールが付いているみたいなの! ただ時間を測ってくれるだけでなく、「1体目討伐完了から2体目までの移動時間」など区画ごとのタイムを計測してくれて、過去の記録と比較してくれるの。

 いわゆるLiveSpl〇tね。


「それではスタート!」


 141層に転移後、カカオトレントがいる144層まで駆け抜ける。この間に関係ない敵とエンカウントしないことを祈りながらダッシュする。

 144層に到着したら、すぐ目の前にいる個体を撃破。そのまま、チャート通りに18体のカカオトレントを倒してタイマーストップ。


「記録は42分39秒、なかなかいい感じじゃない?!」


「おおー! 10分も早くなったね!」

「途中、倒木のせいで回り道しないといけない場所があったし、まだまだ改善の余地はある」

「目標は30分切りかな~?」



 これ以降、ヒメたちのチャンネル『夜桜の香り』にはカカオトレント18体討伐Glitchless RTAの動画が何本も上げられた。四人は徐々にタイムを更新し、最終的に35分22秒というタイムを叩き出した。

 30分を切れなかったことに関しては残念だが、四人が成長していく過程を見れる、とても良いコンテンツとなった。


 しかし、冒頭に毎回「Glitchless RTA」と言うせいで、視聴者からは「バグ無しって言ってるし、これはダンジョンの動画ではないのかな?」「ひょっとすると、ダンジョンを完全に模倣したゲームなのでは?」「そんなゲームあるの? あるならやってみたい」と思われてしまったそうだ。



 これに関してはヒメが悪いと思う。



 期末考査が終わって、夏休み目前となったわ! やったね!

 夏休みはいろんなことをしたいなー。山奥の渓流で釣りとかバーベキューをしてみたいなあ。

 海とかプールにも行きたいけど、混むのが嫌だなあ。ダンジョン内で海水浴ってできないかしら?

 本格的に暑くなってきたら、クーラーの効いた屋内で遊ぶのがメインになるかな。とすると、科学館、美術館、そして水族館! デートスポットといえば水族館よね!

 あとは家でゲームとか? せっかくハルちゃんがデスクトップPCを持ってるんだから、それで配信とかしたら面白いかも?


 なにはともあれ、この夏休みで三人ともっと仲良くなれたらいいなって思う!


「ヒメが現実逃避を始めた」

「ヒメちゃんー! おーい!」

「デートプランには賛成だけど、ひとまず戻ってきて~!」


「あ、ごめんごめん。ちょっと現実から目を逸らしたくなっただけ。……はあ、これどうしよ」


 カカオ豆はローストサラマンダーに食べさせる事でカカオニブに出来る。それをスライムに食べさせることで、何故かチョコレートが完成する。で、この工程がちょっと面倒だから、私たちはカカオ豆の処理を後回しにしていた。

 そして今「そういえばどのくらい貯まってるんだろ?」と思ってマジックバッグからカカオ豆を全部取り出してみたわ。その結果、カカオ豆の山が出来上がった。これ、どうするの? ローストサラマンダーを見つけるの、結構面倒なんだよ?



「ただいま~。はあ、やっと試験が終わった~! あれ、ヒメちゃんたちが来てるのかな~?」


 あ、ちょうどミカンさんが帰ってきた。


「みんないらっしゃ……い?」


「あ、ミカンさん。お邪魔してます」

「こんにちはー!」

「お邪魔してます」


 私達を見てミカンさんが驚いていた。さあ羽を伸ばそうと思ったら私達がいて驚いたのかな?


「大きなアーモンドだね~?」


 ……やっぱりそっちに驚いていたのね。そりゃあ、テーブルの上に山盛りの豆が置いてあったらびっくりするよね。


「違います、カカオ豆です」


「へえ~。初めて見た~」


 興味津々と言った様子でカカオ豆を見つめるミカンさん。そんなミカンさんをみて、リンちゃんが言った。


「よかったらどうぞ。お土産です」


「わ~ありがと~。……ふえ?」


 しくも【奇想天外な物でも、お土産ですと言われたら納得する説】の検証が始まった。結果は「一瞬納得しかけるも、すぐに違和感に気づく」となったわね。


「すみません、冗談です。余ってるもので、どう処理しようか考えてました」


「そ、そうだよね~。あ、でもでも~。私の友達が欲しがるかも~」


「え、ホントですか?!」

「その方は、どんなご友人でして?」


「料理研究部だよ~。手芸部って家庭科室が部室なんだけど、料理研究部と同室なんだ~。だから仲がいいの♪」


 なるほど、そういう事でしたか。でも、いくら料理研究部の子でも、カカオ豆を貰ったら困るんじゃあ……?

 まあいいや。取り合えず10個ほど渡してみよう。



 後からミカンさんから聞いた話によると、料理研究部の皆さんはカカオ豆から「チャイ」を作ったらしい。チャイはインド発祥のお茶でシナモン、カーダモン、クローブの三つのスパイスをベースに、様々な香辛料を加えた飲み物だそうだ。

 料理研究部の皆さんは、カカオ豆をベースにシナモン、カーダモン、クローブ、その他10種類ほどのスパイスを配合して、カカオ豆の風味を楽しめるチャイを作ったらしい。何その技術、すっご!


「少し分けてもらったから、みんなで飲んでみよっか~」


 ゴクゴク。へえ! これは美味しい! チョコレート感は少ないわね、どちらかと言うと薬湯って感じ?


「えっと……ハルはこの味苦手……」

「そう? 私は好きかな」

「私も無理~!」

「ヒメちゃんとリンちゃんはなかなか通だね~。私もちょっと苦手かなあ。飲めない程じゃないけど」



料理研究部にて


部長「手芸部の子からカカオ豆を貰いましたわ!」


部員A「これですか? 私の知ってる物と違いますが……?」


部員B「本物を見たことがあるの?!」


部員A「家が製菓関係の仕事をしているから、その関係で。ちょっと見させて下さい。〈料理の準備を〉〈材料を視よ〉」


部長「そういえばあなたは【料理人】のジョブ持ちでしたわね」


部員C「しかも最近【料理研究家】に昇進したんですって! で、どうだった?! 何か分かった?」


部員A「すごい……! これ、ダンジョンの超深層でしか取れない、珍しい奴だ! なるほど、だからこれだけ色が鮮やかなんだ……!」


部長「ええ!? それはかなり貴重な品という事では……?」


部員A「ですね! きっとこれは私への挑戦状ですね! 『これをお前はどう使う?』って! 燃えてきました、燃えてきましたよ! スッゴイものを仕上げてみせます!! この量だとチョコレートを作るには心もとないから……」



 こうして部員A主動でチャイが作られたのだが、ヒメがそれを知る事はなかった。



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