ライチョウさんの実家?

 ミシ……

  ミシ……

 ミシ……


「いた、カカオトレント!」


「チョコレートだー!」

「今日は枝狙いだけどね~」


 ミシミシ!!


 自分が素材としか見られていないことに怒ったのか、カカオをシュバババッと飛ばしてきた。すぐに〈マジカルバリア〉で防御する。


「反撃! 『石筍!』」


 ミシミシ?!


 カカオトレントの根元に石筍を生やすと、カカオトレントが勢いよく倒れた。露わになった根っこが弱点! 総攻撃ー!


「あれま、カカオ豆ばっかり」


「枝は落ちなかったね……」

「残念」

「次に期待だね~」


「次はあっちに居るはずだよね? 行くよー!」


 流石はゲーム世界と言うべきか、カカオトレントのいる位置はある程度決まっている。朝一番に来ているから他のパーティーと取り合いになる事もないし、毎日10体以上のカカオトレントを討伐している。

 え、森林伐採は良くないって? ノンノン、これは間伐だよ! 環境破壊ではないのです!



「お! 今日は一時間を切ったね」


「なんだかRTAをしているみたいだね」


 RTAとはリアルタイムアタックの事。ゲームなどで一定の成果(クリアする、全アイテムを回収する、など)を得るまでにかかる時間を出来るだけ短くする遊びの事だね。


「RTAほど真面目にチャートを考えていないけど……。そうだね、この機会にチャートを組んでみよっか?」


「チャート?」

「これをして、次にこれをして……っていう風に、やるべきことをリストアップする事」

「それじゃあ、まずはカカオトレントのいる位置を正確に知らないとだね~。これはライチョウさんの出番かな?」


 今までは「この湖の向こうにいたはず」くらいの曖昧な記憶で周回していたけど、今後も周回することを考えると一度真面目に攻略法を考えた方がいい気がする。


「ライチョウさんと言えば、まだゲーミングガーのおすそ分けをしてなかったわね」


 ライチョウさんにはずいぶんと助けられたのに、まだお礼をしていなかったのを思い出す。


「ゲーミングガーの切り身はまだまだ余ってるよね~?」


「うん。今日は持ってきてないけど、別のマジックバッグに保管しているよ」


「じゃあ、今日の放課後、ライチョウさんとパーティーしよう♪」


「いや、せっかくだしライチョウさん一家と共有したいんだけど、どうかな?」


 沢山のライチョウさんに囲まれてパーティーしてみたい。それに、新しい仲間が増えるかもしれないからね!



 次の日、ライチョウさんに「遅くなったけど、聖氷クエストのお礼をしたい」と伝えた。


「ということなんだけど~」


『グア~。グアア……』


 ユズちゃんが説明すると、ライチョウさんは困ったように何か言った。お人形さんみたいにもふもふなライチョウさんが、身振り手振りする様子はとても可愛らしい。


「そうなの? えっとね、ライチョウさんが言うには実家は人間じゃあ入れないと思うって……」


 それはどういう事だろう? 狭いところに住んでいるのかな?


「うん、そうみたい。えーっと『ふもとまで案内するの~』って言ってるよ」


 ふもと……? このフィールドには高い山なんて無かったはずだけど……。いや、一か所あるわね。

 移動中、ライチョウさんの食生活について尋ねる。前にユズちゃん宅に招待したときに、ハンバーグを食べていたけど、普段はどんなものを食べてるんだろう?


『普段は何も食べないの~。強いて言えば、空気中のエネルギーを吸収しているの~』(ユズ訳)


「そうなの?!」

「そういえば前に『生きるためのエネルギーはダンジョンから供給される』って言ってたね!」

かすみを食べて生きるなんて、仙人かな?」


 俗世を離れ修行する仙人は、霞を食べて生きているなんて言われているのだけど、ライチョウさん達ダンジョン内のキャラはそんな風に生きているみたいね。

 ひょっとして、伝説上の仙人はみんなダンジョンの生き物だった?!(たぶん違う)


『もちろん、美味しいものは好きなの~。木の実もお魚もお肉も大好物なの~』(ユズ訳)


 なるほどねえ、そんな生態なんだ~。前にハンバーグを食べていた時は、ナイフとフォークを使いこなしていたけど、ライチョウさんの間でもそういう文化はあるのかな?


『もちろんあるの~。料理の文化もあるの~』(ユズ訳)


 ライチョウさんと楽しくお話ししながら歩く事数十分。とうとう目的地にたどり着いた。


「ここは……フィールドの端っこね」


 そこはフィールドの端にある巨大な崖。たとえ空を飛べても向こう側へ行くことが出来ない、文字通り決して超えられない壁である。


「へえ、ここに巣穴があったんだー!」

「これは……流石に登れないね」

「ロッククライミングの才能は無いからね……」


 じっくり観察しても、足をかける場所は見当たらない。これは積みね……。


『みんなに降りてきてもらう? ただ、全員になると、50匹くらいいるから、ちょっと大変なの……』(ユズ訳)


「そんなにいるの?! それだけいるなら、全員に降りてきてもらうのは面倒よね……。パーティーは諦めた方がいいかなあ」

「物だけ渡すしかないか」


『分かったの~。残念だけど仕方がないの~』(ユズ訳)



 ライチョウさんがマジックバッグを持って巣穴へと戻って行った。程なくして、5匹ほどのライチョウさんが降りてきた。

 あれ、よく見るとあのライチョウさん、頭にティアラを乗せている? リーダー的存在なのかな?


『グアー、グアグアー! グアーグアー!』

(ライチョウ族を代表して、御礼申し上げますわ! こちら、お礼の品ですわ!)


 で、ですわ? 実際にですわって言ってる人、初めて見た!

 いや、この子は人じゃなくてライチョウよね。


『グアアグアアー!』

(それではごきげんようですわー!)


 お礼の品はライチョウさん一族の羽毛で作ったふわっふわっな寝具。毛づくろい中に抜いた毛を集めて作っているらしい。

 使い心地は控えめに言って最高だった。最高なのだけど、これから夏になるから布団は使わないのよね……。

 冬が楽しみになった瞬間だった。





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