その日、探索者業界に衝撃が走った、前編

 探索者、それはダンジョンに潜って資源を集める人の事だ。もし戦闘職に就くことが出来れば、それだけで自分一人を養っていくだけの稼ぎを得る事が出来るし、そしてスキルを使いこなすセンスがあれば、十分家族を養う事が出来る。


 さらに、レベルをカンストさせ上級職業にまで至ったら。また、上級職業をもカンストさせたら。そこまで至れば、一個何百万、何千万のアイテムを手に入れられるようになる。

 もっとも、それだけ稼げる人はかなりの戦闘狂だけ。そしてそういう人は大抵、稼いだ金額の多くを戦闘に使うアイテムに充ててしまうから、生活水準は一般人とあまり変わらないようだ。


 香織ことヒメの母親もその類で、ダンジョンでかなり稼いでいるはずなのに、結局手元に残っているのはそんなに多くない。結果、ヒメの勘違いは今日も加速しており止まることを知らない。


 っと、話がそれた。ともかく探索者と言うのは安定した収入源であると同時に夢のある職業でもあり、非常に人気の職業となっている。



 そんな中、探索者業界に衝撃の走る事が二つ起こった。一つはいい知らせ、一つは悪い知らせである。どちらから話そうか……。



 よし、まずはいい知らせの方を。なんと、アメリカ最大のダンジョンであり、超大型ダンジョンの一つに挙げられる「ワシントンダンジョン」の最下層が発覚したのだ。最深層は……180層だった。


 そこに到達した探索者らのグループが見たものは、虹色に輝く物質で出来た宮殿だった。宮殿の外を探索するも何も見つからなかったので、一行は宮殿の中に足を運び入れた。


 するとそこにいたのは、巨大で真っ白なドラゴンだった。巨大なドラゴンはグーグーと眠っており隙だらけ。探索者らは一斉に攻撃を仕掛ける。


 攻撃を受けたドラゴンはむくりと顔を上げ、探索者らを一瞥したあと、まさかの英語で話したのだ。


 以下は探索者とドラゴンの間で交わされた会話の日本語訳だ。


『なんだなんだ? ……あ? 人間か、まさか人間がここに来るとは思わなんだ』


「?!」「話したぞ!」「オーマイガー!」


 魔物が言葉を話すという事態に驚く探索者一行。百鬼夜行のように人語を発する魔物は時折いるが、それは鳴き声のようなもので意思疎通は不可能。

 しかし、このドラゴンはそうではないようだ。


『それで、何をしに来た? 用があるならさっさと言え。こっちは早く寝たいんだ』


 ぶっきらぼうにそう言い放つドラゴン。探索者らの本気の一斉攻撃を受けた直後なのに、それを一切気にしていない様子に探索者らの中には絶望の表情を浮かべる者もいたが、そんな中、リーダー格の男は怯えずにこう言った。


「……お前を倒しに来た!」


『はあ? あー、ドロップアイテムが欲しいって事か? はあー。まあ本当は良くないが、初めてのお客さんだし特別だ。ほれ、やるよ。鱗素材だ。受け取ったらさっさと帰れ。帰還陣は宮殿の外にある』


 異空間からドサッと鱗を出すドラゴン。チームのポーターは警戒しつつもそれを受け取り、マジックバッグに入れた。そして、それを持って彼は帰還陣へ向かった。

 しかし、他の人は帰らずにその場にとどまった。ドラゴンは不審につぶやく。


『……いや、いつまでいる? さっさと帰れ』


「プレゼントを頂いておいてこれってのは申し訳ないが、やはり俺たちはお前を倒す!」


『あ?』


「全員、かかれ!」「「「うおー!!」」」


 探索者らが攻撃を開始する。ある者は首筋を狙って、ある者は腹を狙って、ある者は逆鱗を狙って、ある者は眼球を狙って。


『……?』


 ドラゴンは反撃しなかった。探索者らが何をしたいのか分からないという表情だ。

 そ探索者らによる攻撃は続く。しかし、ドラゴンには一切のダメージが入っていない。膠着状態が続く。


「なぜだ、なぜ攻撃が入らない?!」

「何かしらのギミックがあるというのか?」


『ギミックとかそういうんじゃなくて、君達じゃあ倒せないって……』


「っく、舐めやがって」

「人類にはなあ、知恵ってのがあるんだよー!!」


『いや、だから……。あー鬱陶しい! 失せろ!』


 背中に生えているトゲが光る。直後、そこから探索者らに向かって光線が発せられた。その光線を受けるや否や探索者らの身が「蒸発」してしまい、一瞬で死に戻った。


 不思議な事に、先に帰ったはずのポーターが地上でリポップしたのは他の探索者の戦いが終わった後だった。そして、マジックバッグに入れたはずの鱗は消え失せていた……。



 これらの事は、ダンジョン内映像記録装置、通称ダンジョンカメラで記録されていたので、信ぴょう性のある情報として受け入れられた。


 また、このドラゴンについての追加調査で、このドラゴンが記憶を引き継いでいること、絶対にダメージを受けない事などが明らかにされ「おそらく彼はダンジョンマスター的な存在で、倒すことは不可能なのだろう」と結論付けられた。

 こうして、最深層が180層と結論付けられたのだ。



 ちなみにだが、この一件以降ドラゴンは口を聞いてくれなくなったらしい。もう二度と鱗は手に入らないであろう。




◆ ネット民の反応 ◆


・ドラゴン! かっけー!


・爬虫類っぽい感じではなく、神話世界から飛び出してきたような「ドラゴン」って感じがいい


・会ってみたい(←無理)


・トップの探索者らの必殺技を受けて「え、何? もう朝?」みたいな反応、強者感がすごい。


・話せる魔物って言うのはビビったけど、ダンジョンマスターなら納得かも。


・ドラゴンの鱗……。もし持って帰ってきたら、すっごい素材やったんやろな……。惜しいことしなたあ。


・「なんであの時、一度帰ってこなかったのか」ってちょっと炎上したっぽいな。


・「もっとダンジョンの情報を引き出しとけよ!」って意見もあるよな。


・無敵ドラゴンの鱗……。全攻撃を跳ね返す、みたいなすっごい効果がありそうだよな。


・一説によると、ドラゴンの鱗は本当は持って帰ってこれたけど、他国からの干渉を避けるために嘘を言ってるって。


・最深層は180層かあ。これって他の超大型ダンジョンも同じなんかな?


・もし東京中央も180層が最深層なら、完全攻略の日も近いかもな。



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