美しき輪舞〜平穏無事に生きてみせます!〜

蔵樹紗和

第1話 落ちこぼれ王女

 夕日が差し、シーンとしていて何も言えない空気感。そんな部屋で少し離れて向かい合っている2人の影があった。


 目を見開いている女——この国の王女、クララ・アイリス・マレイドはびっくりしていて、何か言おうにも相手をにらみつけることしかできない。

 一方でそんなクララと向かい合っている男、留学生のライリー・ステラはクララのにらみつける表情を鼻で笑うと、口を開く。


クララ様落ちこぼれ王女様。俺の秘密、教えてやろうか……?」


(なんでこの人は私に突っかかってくるのかしら!?)

これは、自由に、そして平穏無事に生きていきたい王女様と、王女様のことが気になる王子様のお話。



***



 ここは、とある世界のとある王国。この世界には、魔法が存在している。そして、この世界の国の中でも、マレイド王国に生まれてくる王女は、歴代強い魔力を持って生まれてくるのだ。


 そして、強い魔力の少女であるようにという人々の期待を背負って生まれた、マレイド王国第一王女、シェイラ・カリン・マレイドはその期待通りに強い魔力の持ち主として生まれ、しかも歴代最強と言われるほどの実力者。その上、勉学も運動も全て優秀。そんな彼女は、国民から慕われ、国外からも優秀と認められるみんなのアイドル的存在になった。


 一方、本作の主人公であるマレイド王国第二王女、クララは、シェイラと違い弱い魔力を持って生まれた。——いや、人並みおまじない程度の魔力量はあるのだが、歴代の王女に比べたら少なすぎる量。しかも勉学は人並み程度、運動は得意ではない。その上優秀な姉、シェイラとよく比較され、国民からは「落ちこぼれ王女様」だとか、「シェイラ様の悪役」などと呼ばれ、虐げられ続けた。


「なんで私だけまりょくが弱いのかしら」


これが、使用人からも暴言を言われるようになってしまったクララの、幼い頃の口癖だった——。



***



 そうして、クララが生まれてから10年程の月日が経った。現在、クララは12歳、シェイラが14歳。クララは相変わらず周囲から虐げられ続けている。その上、国民だけでなく、とうとう親までもがクララのことを虐げてくるようになっていた。


(ふん、落ちこぼれ王女で結構よ!!)


 月日がたったことにより、クララの考えも大分変わった。かなり性格もひねくれたし、虐げられていることや魔力が弱いことに対して疑問を抱かなくなっていたのだ。


 そして今日は、国の創立100年式典の日。国の重鎮が集まるこの式典に王族として、実際はシェイラの引き立て役として出席したクララは、創立式典後の舞踏会に出ていた。


 とはいっても、「落ちこぼれ王女」であるクララに話しかける人などいるはずもないので、クララは完全に壁の花と化していた。


「はぁ、庭にでも出ていましょう」


 庭へと続くドアを開けて、クララは庭に出て行く。幸い、庭には小さな男の子が一人と、その保護者のように思える女性が遠くの席に座っているぐらいで他には誰もいなかった。


(良かった。ここなら静かに出来るわね)


 ほっと胸をなで下ろすクララ。女性が座っているテーブル席の反対の方向にある池の方のテーブル席に座ると、ぼーっと遠くの方を眺めてみる。ちょうど良いぐらいの風が吹いており、空は鮮やかなオレンジ色に染まっていて、とてもきれい。この景色なら、いくらでも眺めていられそうだ。クララは、そんな穏やかな雰囲気に飲まれ、まぶたが閉じ始めた。


「——エリック!!」


いきなり、女性の焦ったような叫び声が庭に響いた——。


                               つづく

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