魔女、介護士になる!?

くーらん

序章 問題は手紙の後に・・・

 酷暑、地球温暖化の影響で日本の夏は地獄と化している。ドがつくほどの田舎では、高い建物が少ないため影も少ない。夏の太陽が直接肌に突き刺さる。この暑い昼間に外へ出るバカはいない。ただ一人を除いて。


「海、ぬるいの。」


 穏やかな波の中、磯辺にビニールシートを引いて弁当を食べる二十代の女性が座っていた。彼女は素足のまま、磯辺に溜まった大きな水溜まりに足を入れて涼んでいる。でも、そこに溜まる海水は日に当たり、もう既にぬるい。

 これが俗に言う期待しただけ損したというのかと彼女は思い知る。

 

「本当疲れた。」


 ジャパニーズフードのおにぎりを食べながら、彼女は心の底からため息を吐いた。磯辺で休む彼女は現代日本で「介護」を生業にして生活している。

 そんな彼女は今日の午前中、介護施設で冷房が寒いと言う平均八十代の高齢者を相手に、酷暑の中で風呂に入れた。しかもそれが連勤ともなると、心と身体が一気に疲弊する。

 

 彼女はここ日本に来てから、毎日のように思うことがある。


 まさか自分よりも年下の人間達の面倒を見るとは思っていなかった。自分よりも年下の高齢者がどうしてこの施設に来て過ごしているのか。しかも自分のことがわからない、家族のことがわからない等だ…。

 初めて見たときは本当に驚いた。


 「疲れた…。布団が恋しいよ。」


 彼女の口からは「ため息」と「疲れた」以外の言葉は出ない。なんせ、午前中を丸々使って三十人近い高齢者をお風呂に入れていくのだ。この戦いを制し、お食事の準備などしてからようやく休憩を順番にとれる。


 今はそれを祝おう。よくぞ乗り切った。よくぞ安全にお風呂を終えた。自分えらい。


 そう自分を褒めないとやっていけないぐらい体がこたえている。そして職員にも介護施設を利用している高齢者にも気を使いすぎて気疲れを起こしてしまう。   


 そんな精神がすり減る中、彼女はなんとか噛みついて日々を過ごしている猛者だ。


 これは見た目が二十代、本当の年齢は千歳の魔女が日本に転生し認知症になった友人に会うため、現代日本へ転移して介護施設「デイサービス」で介護の仕事をする話である。


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