トイレの遭難

ソードメニー

第1話 平日

 「また君か。何度言ったら分かるんだね」

フロア中にその声は響き渡った。一瞬、全員視線を向けたがすぐに作業に戻った。しかし、数名の社員は小言を言った。

「また怒られてるよ、あいつ」

「あいつもだけど、部長も懲りないな~」

「部長があいつを叱るのは、ドリーム社の日課だな」

しょんぼりして自分の席に戻った社員に気づかれないように、数名の社員は作業をした。ため息をつく社員に隣の社員が声をかけた。

「岡島さん、大丈夫か?」

「又さん。大丈夫です」

「そうか?そうだ、これあげる」

又という社員は、自分の鞄から飴を取り出して、岡島に渡した。

「これなめると元気が出る。妻から教えてもらったんだ」

「すみません。ありがとうございます。あ、ちょっとお腹の調子が・・・。トイレに行ってきます」

「行ってらっしゃい」

岡島はトイレに向かった。数名の社員はそれを見て小言を言った。

「又先輩は優しい」

「オカルトは気に入られてるからな~」

「怒られた後トイレに行くのも日課だな」

「何かいるんじゃないか?」

「怖いな~本当ならまさにオカルトだね」

岡島はトイレの個室に入った。ズボンを下ろし、下着も脱いで、便座に座った。座りながら両肘をついて考え事を始めた。(どうして僕はこんなに出来ないんだろう。この仕事向いてないのかなあ?だけど又さんはこんな僕でも良くしてくれる。それは僕に伸びしろがあっていつかできるようになるからだと言ってくれた。僕は又さんの期待に応えなくてはいけない。でも、失敗ばかり・・・。)岡島は又にもらった飴を眺めた。涙を堪える為に飴を握りしめた。その時、岡島は異変を感じて上の方を見た。(何だ?今、一瞬トイレの上が動いた気がした。何かいる?いやいない。気のせいだ。それより戻らないと、又さんが心配する。)岡島はトイレを出て自分の席に戻った。

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