Mission112

 国境に差し掛かる。ここで一度少し長めの休憩を取る。

 ここまでは初めて同行させているオートマタを3体降ろす予定になっているからだ。ここからこういう作業が増えるので、これまで以上に時間がかかってしまう予定だ。これはポルトたちには事前に説明済みだった。

 今回の試運転には駅員を配置するという目的があるのだ。ソルティエ公国に入れば各駅でオートマタたちを2体ずつ降ろしていく。事前に駅員の配置の事は伝えてあるので、スムーズにいくとは思うものの不安というのはつきまとうというものだった。

「アリス、国境での荷物や人の検査のシステムを説明してくれないかな?」

「畏まりました、マイマスター」

 ギルソンから話を振られた事で、アリスは国境におけるシステムの説明を始める。

 列車を運行しながらいろいろチェックするというのは、この鉄道だけが採っているシステムだ。これはオートマタが居るからこそ成り立つシステムとも言える。それだけ魔法というものが凄いというわけである。

 ちなみに国境を挟む両方の街にある駅間は近いので、ここだけスピードが出にくいのだ。だからこそ、魔法による検査がなおのこと精度を保てるというわけだ。

「……というわけでございます」

「そんな事が可能なのか……」

「オートマタって、すごい……」

 アリスが話を終えると、ポルトもマリンもオートマタが使う魔法のすごさに言葉を失っていた。死んだものを生き返らせる以外であれば、魔法というものはほとんど何でもできてしまうような力なのだ。言葉を失うのも当然だろう。

「うん、どうやら準備が整ったようですね」

 ギルソンが外を確認しながら口にする。

「これから列車が国境を越えてソルティエ公国に入ります。おそらく敏感な人は国境を越える瞬間に何かを感じると思いますよ」

「それはどういう事ですか?」

 ギルソンの説明にマリンが反応する。

「単純に魔法を浴びせられるからでございます。魔法は私たちオートマタ以外は使えませんが、その魔力の波動というものを感じ取れる方はいらっしゃいますからね」

「な、なるほど……」

 それに対してアリスが答えると、ポルトが分かったような分からないような微妙な反応をしていた。

 なんともまとまり切らない空気の中、列車がゆっくりと動き出す。

 しばらく進むと、国境の壁が見えてきた。そこのど真ん中に大きく開けられた穴、そこを通って列車はソルティエ公国へと入っていく。

 その壁を通り抜ける瞬間、一瞬ピンと空気が張り詰める。これが検査のための魔法の中を通り抜けた証拠なのである。ちなみにこれはマスカード帝国との国境の間でも同じような感じである。

「うぷ……」

「大丈夫かマリン」

「う、うん、大丈夫」

 少し酔ったような反応を見せるマリン。どうやら、魔力の波動を感じ取ってしまったようだ。

「魔力に対して過剰に反応したかもしれませんね。次の駅では少し長めに休みましょうか」

「す、すまない」

 ギルソンの提案に、ポルトは素直にお礼を言っていた。妹のマリンの事は大事に思っているようである。

 ちなみにだが、イスヴァンとアワードは何ともなく、マリカもマリンと同じように少し気分が悪くなったようだった。たまたまかも知れないが、魔力に反応したのは女性であるマリカとマリンの二人だった。もしかしたら、女性の方が魔力に敏感なのかも知れない。

 それはともかくとして、ソルティエ公国の国境の街に入る。列車が走る高架の下では、物珍しそうに街の人たちが見上げている。大半の人間は列車を見るのが初めてだから、この光景は仕方のない事だろう。ファルーダン王国もマスカード帝国も同じだったのだから。

 地表に降りて、駅に停車する。

「ジャスミン、ここはお願いします。私はここの駅担当のオートマタを連れて、駅の担当者に会ってきますので」

「分かりました、お姉様」

 ギルソンたちの事をジャスミンに任せて、アリスは駅員となるオートマタ2体を連れて列車を降りていった。

「マスター、大丈夫ですか?」

 少し気持ちを悪くしているマリカを気遣うジャスミン。

「ええ、大丈夫です。ありがとう、ジャスミン」

 その光景を見ていたイスヴァンは、フラムに話し掛ける。

「こういう現象っていうのはそう頻繁に起きるものなのか?」

「そうは起こりませんな。大体、魔力を感じ取れる人間自体が少ないですからね」

「やっぱりそうなのか。俺は何度となく国境を越えてきてるが、まったく感じなかったからな」

「マスターが鈍いだけでは?」

「なんだと?」

 にこりと微笑むフラムに、イスヴァンは不機嫌な表情をぶつけている。からかい合えるくらいには信頼関係ができている二人なのである。

「まったく、何をしているんでしょうね、この二人は……」

 その様子を見ながら苦笑いをするアワードである。

「まったくですね。マリン様、マリカ様、お水をどうぞです」

 睨み合うイスヴァンとフラムをよそに、フェールは魔力に中てられた二人に水を差し出していた。

 イスヴァンとフラムのやり取りは戻ってきたアリスを呆れさせ、アリスから雷を落とされたのだという。その光景を見て、ジャスミンは当然とばかりに頷いていた。

 こうして静かになった列車は、ソルティエ公国の首都を目指して再び走り始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る