Mission111

 翌日、ポルトとマリンはファルーダン鉄道の王都の駅にやって来ていた。

 ギルソンにイスヴァン、アワードの三人に加えて、マリカと四人のオートマタのアリス、フラム、フェール、ジャスミンも同行している。

「さあ着きましたよ。国境まではすでに何度も運転していますが、ソルティエ公国に入った部分は今日が初めての運転になります。ボクもすごく楽しみにしているんですよ。なにせ初めてのソルティエ公国ですからね」

 ギルソンはこの上ない笑顔でポルトたちに話し掛けていた。

 ところが、ポルトとマリンの表情は硬い。なにせ目の前にはでかい鉄の塊が鎮座しているのだから。これだけの大きな鉄の塊があの速度で移動しているというのが、ツェンとの間で往復したというのに未だに信じられないのである。

「アリス様、準備はできております。新しくソルティエ公国の駅に配備するオートマタも乗車を済ませておりますので、合図下さればいつでも出発できます」

 運転士を務めるオートマタが顔を出してアリスに話し掛けている。

「分かりました。それにしても、この短い編成しか用意できなかったのは残念ですね」

「仕方ないですよ。急に決まったわけですし、運転できる編成があるだけでも十分だと思います」

 アリスがため息まじりに言葉を漏らすと、ギルソンからフォローが入っていた。オートマタ相手でも気遣いのできる男、それがギルソンなのだ。

「それでは、みなさんも乗り込みましょう」

「畏まりました、マイマスター」

「さあ乗りましょうか、マスター」

 ギルソンの掛け声で、全員が列車の中に乗り込む。客車二両という短い編成ではあるものの、試運転ができるだけでもマシというものだった。

 現在は王都の工房が一生懸命急ピッチで新しい車両を建造している。少なくとも10日ほどは掛かるとの事なので、本営業はまだまだ先という事になりそうだった。

「この鉄道というのは、何を使って動いているのですか?」

 ポルトがギルソンに問い掛ける。

「わが国で採れる魔法石というものを使っています。それにオートマタの魔法を作用させて、この列車の機動力としているのですよ」

 ギルソンは惜しげもなく情報を開示する。知ったところでファルーダン以外には到底再現できない技術なので、こうやってあっさり話せるというわけだ。

 そもそもオートマタと魔法石の存在は他国にもしっかり広まっているものだ。だからこそ、隠し立てする必要はまったくないというわけだった。

 しばらくすると、列車の出入り口の扉が全て閉められる。

 ポーッと汽笛が鳴り響くと、列車がゆっくりとだが動き始めた。

「う、動き出したぞ」

 ポルトがびっくりしている。

 ちなみに列車は既存の路線であるツェン方向へと進んでいる。

 本当は反対方向、ソルティエ公国側に真っすぐ延伸したかったのだが、王都内の設備をこれ以上壊す事ができなかったのだ。なので、一度ツェン方向へ移動して王都を出たのち、ぐるりと旋回してソルティエ公国方面へと進行するという経路を取らざるを得なかったというわけだった。

 王都を出た列車はツェン方向の線路から分岐して、立体交差で大きく南の方へと曲がっていく。ちなみにこの立体交差の大きな建造物も、全部アリスの魔法によるものだ。

 普通のオートマタならば、このくらいの建造物を造ると魔力切れを起こしかねない。だが、異世界から転生し、神からの祝福を受けたアリスだからこそ、こんなとんでもない建造物も軽々と建設できてしまうのである。

 列車は西向きに進路を取り、進行方向右手に王都を見ながら進んでいく。しかし、あれだけ大きなファルーダンの王都ですら、視界に収められるのはせいぜい数分程度。あっという間に視界には何もない荒野が広がっていた。

「もうファルーダンの王都が見えなくなったわ」

 マリンは驚きを呟いていた。

「驚くのはこれだけじゃありませんよ。そろそろ最初の街が見えてきます」

 ギルソンが言った通り、1時間もしないうちにソルティエ公国方面の街道の最初の宿場町に着いた。

 すると列車に一人の男性が近付いてきた。

「ギルソン殿下、ようこそおいで下さいました」

「やあ、街に変わりはないかい?」

「はい、特には。ただ、この鉄道の本営業はいつなのかという問い合わせが相次いでおります。おそらくはソルティエ公国に行ける事を楽しみにしているのでしょう」

「そうですか。できる限りは急ぎますが、職人の力にも限界はありますのでね。皆さんにはもうしばらくお待ち頂く事になるとお伝え下さい」

「はっ、畏まりました!」

 男性が列車から離れていく。額に石が輝いていたので、オートマタのようである。

「何体もオートマタを見てきたけど、本当に人間のように流暢に応対できるんですね」

「ええ。ファルーダンが栄えているのも、オートマタのおかげなんですよ。本当に彼らにはいくら感謝してもしきれません」

 ギルソンはそう言いながら、優しく微笑んでいた。

 しばしの休憩をした一行。彼らを乗せた列車は、再びソルティエ公国へ向けて走り出したのだった。

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