百合ラノベにはまったら、女子高の王子様に目を付けられて強制的に交際が開始してしまったので、ラノベみたいな夢を見せてもらおうと思います。

藤樫 かすみ

百合ラノベがきっかけで後輩に告白された

novel.1 百合ラノベは希望の本

 百合ラノベ。それは女の子の可愛さと切なさと甘さを詰め込んだ最高のジャンル。主役は可愛くて綺麗な女の子。甘く切ない恋愛がこれでもか、というほどに紙に詰め込まれている。本を開けばそこはまるで夢の国の世界。百合ラノベは素晴らしい本なのだ。


 でも、私が百合ラノベにはまったのは単なる偶然だった。何でもない昼休み、ふと手にした一冊の本が百合ラノベだった、というだけで。ただ私はその百合ラノベと言う世界に一瞬にして引き込まれたのだ。私には到底ない、甘くてかわいいふわふわした優しい世界。私みたいな地味な女の子でも、まるで光を照らしてくれそうな、そんな世界。だから百合ラノベが好きになった。


 ただ、今、今だけ私は百合ラノベが好きであることを後悔した。この現実というものは甘くもなければ、優しくもなく、ふわふわもしていない。脅しなんていう、百合ラノベには絶対出てこないワードが私の頭上を今、まさに飛び交っている。


「入学した日から一目惚れした。貴方が好きだ、汐宮先輩。私と付き合ってくれないか?」


 生徒会室という神聖な場所で私を机に押し倒している目の前の元凶が、私に切ない声でそう訴える。いやいや、いくらあなたが女の子だからってこんなの許されていいはずがない。でも、この状況を打破できる解決策が何もないのが悲しい。それに続けて天沢さんが言う。


「……もしいい返事を貰えなかったら、明日汐宮先輩が百合ラノベ好きであることにプラスして私の告白を断ったことも方々に全部言いふらすが。どうする?」


 そんなことを言っている彼女の目が、この場に及んでキラキラと輝いているのが一番の疑問点である。


 もう一度言おう。どうか百合ラノベにはまった女の子たちよ。現実は甘くはないことを知ってください。例えば、例えばあなたの学校にまさに百合ラノベに出てきそうな女子高の王子様的存在がいたとする。その女子高の王子様に実はあなたが好かれていてそのまま恋人に……、なんてことはこの現実世界においてほぼありえない、絶対に。あるとしたら女子高の王子様的存在の後輩に、放課後机に押し倒されて脅されるという最悪なシュチュエーションことはある。と、現実は甘くもなければ、優しくもなく、ふわふわもしていないことを、人に言っているようで本当は私が一番思い知らされているのだ。私は目の前の天沢さんを見て、大きく息を吸った。


「天沢さん、私……」



 百合ラノベ。それは女の子の可愛さと切なさと甘さを詰め込んだ最高のジャンル。私には無縁の甘くてかわいいふわふわした優しい世界。例えば私みたいな何のとりえもない地味な女の子にも、まるで甘くて優しい光をくれるような、そんな世界……?。

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