2-6

桜家に到着したあたしは、メイドさんに案内され、家の中へと入る。豪華な置物が並ぶ玄関を通り、1階にある応接室へと案内してくれる。


扉を開けて部屋に入ると、広々とした部屋の中に、見知った初老の姿があった。初老はあたしの顔を見ると、深々と頭を下げる。


「これはこれは…この前は本当にありがとうございました」

「とんでもない、それよりお元気そうですね〜」

「ささ、こちらへお座りくださいませ。今係の者がお飲み物をお持ちいたしますので」


初老にエスコートされ、フカフカのソファーへと座る。あぁ〜たまらなく心地よい。

フカフカソファーにうっとりしていると、メイドさんがお盆を持ってこちらへと歩いてくる。


「失礼します、ハーブティーとクッキーでございます」

「ありがと。う〜ん、とってもいい香り!」


目の前に置かれたコップから、優しいハーブの香りがする。クッキーも焼きたてなのか、ほんのり甘い匂いがただよってくる。


「んー、美味しい!幸せ〜」

「お気に召して頂けたご様子で、大変喜ばしく思います」


初老も椅子に座ると、穏やかな表情でこちらを見ている。この初老の立ち振る舞いに、紳士さを感じる。


「本日は、このみ様の護衛に関する件でお話があると伺っておりますが、どのような内容でございましょうか?」

「それはですね、今度開催されるイベントで、あたしが桜このみさんの付き人に扮して、護衛をする事になったんです」


初老がハテ?といった表情になるけど、あたしは話を続ける。


「今回のイベントを主催する管理センターの意向でして、看板娘である歌姫の演出中は、付き人による警備もするべきだ、という話になったんです」


初老はその言葉を聞くと、少し神妙な表情をする。


「大変厚かましいのですが、錬様はこの都市の警備隊とどういったご関係なのでしょうか?」

「それはですね、こちらをご覧ください」


左手にしてある端末を起動すると、ホログラムで身分証明書を掲示する。

〈CE建設株式会社 代表取締役 白崎 錬〉


「あたし、都市の構外で会社を経営する職人なんです。そして今回、管理センターから警備の依頼を受けてこの街にきたんです」

「……なるほど、技術者の方でしたか。それなら私達を助けて頂いたときの、錬様の勇ましさにも納得がいたしました。ホッホッホ」


初老の表情が柔らかくなり、何か安心したような表情になる。


「……それで、あたしは付き人合格ですか?」

「これはこれは、やはり勘付いておられましたか、大変失礼しました」


初老は席を立つと、あたしに頭を深く下げ、手をパンパンと二回叩く。それを見たメイドは、扉をあけて外に出ていく。


「今、このみ様をお呼びいたします」


あたしはニコっと笑顔を向けると、ハーブティーを一口飲み、クッキーをパクパク食べる。

少しして扉がひらくと、オレンジ色の長い髪をゆらしながら、黄色いドレス姿の女性が、おしとやかにこちらへと歩いてくる。

あたしは席を立つと、彼女にニッコリと笑顔を向ける。


「あらためて自己紹介するわ、あたしの名前は白崎錬よ」

「錬様、会えて嬉しいです!」

「フフフ、また会えたわね」


以前助けた時の彼女と比べると、身だしなみを整え、清楚なドレスに身を包むその姿は、歌姫に相応しい気品と美貌を兼ね備えていた。

何度かテレビで歌う歌姫を見たことがあるけど、やはり本物は可愛い。


「あのときね、お礼は言葉だけでいいって言ってくれた錬様のお姿に、一目惚れしたんですよ?」

「まあ!お上手だわ〜」

「あははっ、でも錬様に守ってもらえるなら大丈夫だって、爺やには言ったんですよ?」


初老が苦笑いしながら、悪い虫がつかないための規則ですので、と彼女に一言。その言葉に反応した歌姫は、プンプンと怒ったような態度をしている。

あたしはそのやりとりを見ていて、とても微笑ましい気持ちになる。


「爺や、錬様と2人きりで話したいから、この後あたしの部屋にいくね」

「し、しかし2人きりというのはーー」

「もう、女同士じゃないと乙女な話が出来ないじゃない!」

「か、かしこまりました…」


初老はあたしにお辞儀をすると、しぶしぶメイドと部屋を出ていった。歌姫がフゥっと息を吐くと、あたしの隣に座る。


「あの、同じくらいの年齢だし、錬って呼んでいいかな?」

「ええいいわよ。そのかわりあたしも、このみって呼ぶわね〜」


この前助けた時は感じなかったけど、活発な感じでとってもフレンドリーである。

仲良くなれそうだと、ふと思ったのだった。

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