嫌われ配信者が炎上したクラスメイトを助けたら、評価が一変した

佳奈星

第一幕 T0Yの復活と、伝説の夜

第1話 炎上するまであと...5

 ――九月。

 秋になっても温かさは夏とそう変わらない。


 バイト終わりの俺は、おもむき、顔の汗をハンカチで拭った。

 引っ越し屋のバイトを始めて、一ヶ月近く。

 慣れないことをしている自覚はあった。


「引っ越し屋のバイト……キツすぎだろ」


 それでも後悔はない。

 目的は元よりお金稼ぎだったからだ。

 力仕事を選んだのも、ただ給料が高かったから。


「しかし、このバイトも今日で終わりかぁ」


 バイト中に外していた伊達メガネをかけながら、感慨深い気持ちになったが、それも一瞬だった。

 そうだ。俺は金が稼げればそれでいい。

 当然、よりお金の稼げるところに飛びつく。

 そして今のバイト以上に稼げる仕事があった。


「久々の配信。どうすっかなぁ」


 ――


 それが本来の俺の収入源である。

 とある事情で活動休止をしていたため、やむを得ず一時的にバイトをしていたのだ。その休止期間が終わるので、バイトも辞めたわけである。


「やっぱり金を稼ぐなら配信だわな」


 これがなかなか金になる。

 俺は高校生にして顔出しで活動しており、これでも実は……かなりの有名人に上り詰めた。

 インフルエンサーで俺を知らない者はいないくらいには。


「くくっ、チョロい商売だぜ」


 まあ……だからといって、学校でチヤホヤされるかと言われると、まったくそんなことはない。

 むしろ、俺はいつも地味で陰キャって感じでひっそりと過ごしている。

 色んな意味で有名なので、平穏な学園生活をするためにも、髪を伸ばして伊達メガネをかけたりと、配信者であることを隠す努力しているのである。


「でも、まだ……金が足りない」


 ふとつうちょうを見てぼやく。

 ここまで必死になってお金を稼いでいるのには、理由があった。


「くそっ……これじゃ蝶姉を楽にさせてやれない」


 ちょうねえことしらみねちょうちょ。俺の従姉いとこにあたる人だ。

 わけあって両親のいない俺と妹の後見人にあたるが、まだ二十歳前半と若い女性。

 そして彼女は――アイドルグループ『カラリア』のセンターをしている人気アイドルだ。


 元々は無名だった『カラリア』は、彼女が参加して初めてのアルバムでオリコン一位を獲得。たった一年で、グループを大躍進させた大物である。

 だが、現実はそんな明るいことばかりじゃない。


「蝶姉……」


 彼女がアイドルを始めたのも、努力しているのも、全ては俺達を養うためだ。

 加えて、俺もを返すために、身をにしている。だから――。


「少しでも蝶姉の負担を減らさないと……」


 しているからか、彼女は俺にとって実の姉のような存在である。

 彼女は俺にお金稼ぎなんて望んでいない。

 でも俺だって男だし格好つけたくなる年頃だ。



 すっかり暮れてしまった空の下。

 気分を切り替えた俺は、蝶姉へこれから帰宅するメッセージを送った。

 そんな時のこと――。


「やめてってば!」


 近くの建物の裏から女の声が聴こえた気がする。

 一体なんだ……?

 忍び足で、声の方向へと駆け寄ることにした。




 ***




 あたしは新人モデルとして初仕事を終えた。

 スカウトされた読者モデルの仕事。

 あたしなりに精一杯できたと思う。

 そのためか、やり遂げた嬉しさで胸がいっぱい。

 これなら続けられそうだと、浮かれていた。

 ――今はそんな気持ちで女子寮へ帰る途中。


「ふんふふん♪」


 寮に帰ったら、友達が祝ってくれるらしい。

 みんなと一緒に大好きなドーナツを食べながら、大好きな『T0Yチャンネル』のアーカイブを見る。

 楽しみで心躍る気持ちを表現するように、あたしの足は自然とスキップをしていた。


 そんな最中――背後から


「きゃっ」

「大人しくしなっ! 悪いようにはしないからよ」


 そのまま裏路地に連れ込まれると、またたく間に建物の壁に首を抑えつけられてしまった。

 近場にあるパチンコ屋の音がうるさい。

 口元を男の手で抑えられたあたしが声を上げようとしても、簡単にき消されてしまう。


 しかし相手は一人だ。

 抵抗しようと考えた瞬間、そんな希望はついえた。

 首元に……が当てられていたのだ。

 本能的な恐怖を覚える。


「お前、『空木プロ』の新人だよなぁ?」

「いやっ、何をするつもりなの……っ」

「質問に答えろや!」

「……そ、そうよ。『空木プロ』所属――だけど」


 ――怖い。

 男の行動は無差別ではなく、たちが悪かった。

 事務所へと忘れ物を取りに行くんじゃなかったと、後悔した。


「勿体ないねぇ。君の容姿だったら、あの『色島プロ』みたいな大手だって狙えそうなのに」


 男が何を言っているのかわからない。

 身体目当てのくせに、ペラペラと話す言葉が気持ち悪い。


「一発ヤラしてくれよ」

「やっ……あんた警察に……」

「ははっ、意味ねぇよ嬢ちゃん」


 男は気持ち悪い笑みを浮かべ、胸ポケットの中から何か……を取り出した。


「何を言って――」

「もしかして、俺がただのストーカーだとでも思ってた? ざんね~ん、バリバリ関係者でぇす」


 男の名前は指で隠しているが、見せられた名刺には『』の名があった。


「――――ッ」


 わからない。名刺が偽物かもしれない。

 しかし、恐怖がさらに心を刺してくる。


「馬鹿だなぁ、君も。よく読まないで契約にサインして……これから一年は辞められないのにさ」


 憧れていた想いを、壊されたような気がした。

 この男は最初から、わざわざネタバラシをすることで、あたしを絶望させるつもりだったのだ。


(――なら、もういらない)


 あたしにだってプライドはある。

 夢を壊されたなら、最後まで抵抗してやる。


「やめてってば!」

「こいつ……大人しくしやがれっ」


 さいわい室内に連れ込まれている訳じゃない。

 もし通りに誰かがいたら、ギリギリ声が届くかもしれない。


「いやっ……! 誰か助けてっ……!!」


 いちの望みにかけて、あたしは叫んだ。



 そんな時――救世主ヒーローは現れた。

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