第五話 「xxxx圧縮機」


         

 私はとある”不思議”の調査のため、とある次元を訪れた。目前に、とある店が見える。かなり巨大な直方体の建物だ。高級感のあるつるりとした青い外壁が、太陽の光を反射しきらきら光る。建物の屋上から、縦長の幕が地面へ垂れる。

 ”楽しみの待ち時間を、極限まで圧縮します。限りあるジンセイの楽しみを、すべて体験しませんか?”

 そのうたい文句につられたヒトが次から次にやってくる。とても長い行列が、店の中から外へ続く。列の進み具合は速く、並ぶヒトは足をしきりに前に進める。行列の近くで、係員が拡声器を使い、叫ぶ。

 

「ご利用の方は、最後尾にお並びください! 見学・説明・お迎えの方はそのまま建物内へお進みください!」

 

 私は行列の隣を通り、店の中へ向かった。列に並ぶヒトの顔を覗く。口角を上げ満面の笑みを作るヒト、神妙な顔で腕組みをするヒト、多種多様な顔が列を成す。ほとんどは、うきうきと明るい表情を見せる。列を過ぎる間、ヒトビトの声が耳に入る。

 にこにこと笑い、体を左右に軽快に揺らす女性は言う。

 

「わたし、ここを利用するのははじめて! 待ち時間が一瞬で過ぎるなんてすごいわ!」

 女性の付き添いはこう返した。

「それはそうだけどさあ、けっこう金がかかるんだろ?」

「だって待ちきれないのよ! ちょっとでも早く楽しみたいの!」 

 

 次に、別のヒトのコトバが聞こえる。眉間にシワを寄せ、手を目前に掲げ、指を折ってなにかを数える男性。

「……またダメだった。今度はどれぐらいかかるかな」

 彼は、真剣な表情でつぶやいた。

   

 行列を横目に、私は店内に足を踏み入れた。濃い青色の絨毯、表面にわずかな凹凸がある白い壁。高い天井から、細かな装飾の照明がぶら下がる。優雅な音楽が流れる。きらびやかでゆったりとした印象の空間だ。

 入り口の広間の突き当りに受付がある。受付から伸びた行列は遠くまで続き、並ぶ客は自分の番を今か今かと待つ。暗色の、ピシッとした制服を着た係員が、大勢で受付に立つ。係員たちは手際よく客の対応に当たっていた。どの客も同じようなコトバを口にする。

 xx時間で、xx日で、xx年で……、

 xxのために、xxをしたくて、xxが待ちきれなくて……、

 待ち時間の指定と目的、だいたいはそのふたつを告げ、金を払う。係員は、

 「では、またすぐにお会いしましょう」

 と笑顔で客を送り出す。客は受付の右にある通路へ消える。受付の左にも、通路があり、奥に伸びていた。 

 

 受付の近く、広間に円形の机と椅子がいくつか置いてあった。机の上に小冊子がある。”特殊技術で、待ち時間を極限まで圧縮いたします。瞼を開ければ、すぐに次のお楽しみを”。中身を確認しようと冊子に手を伸ばした瞬間、

「お客様、なにかお困りですか?」

 自然な笑みを顔に張り付けた係員が私に話しかける。

「ええと、ここははじめてで」

「左様でございましたか。では、ご説明申し上げます。まず、”圧縮室”にご案内いたしますね」

 係員は受付右の通路を進む。ときおり、私の横をほかの客が駆け足で追い抜く。なかには鼻歌交じりのヒトもいた。

  

 通路の奥、重厚な両開きの扉を開けると、まるく広がった空間があった。ここが、”圧縮室”。大規模な催しが行えるぐらいの広さだ。床に、縦横規則正しく、何百何千もの機械が連なる。機械は円筒型で、ヒトがすっぽりと入る程の大きさ。厚い金属板で製作されており、背後から何本も配管が伸びる。機械の正面に扉があった。扉の上半分に透明なガラスがはめ込んである。中からヒトの顔が覗く。彼らは瞼を閉じ、静かに眠る。扉の下部にデジタル表示のタイマが据え付けられ、数字を示す。真っ赤な数字が、刻々と移り変わりゼロを目指す。数字の大小は、機械によってまちまちだ。広さに見合うだけ配置された係員が、圧縮室をくまなく巡回していた。

 さきほど、私を追い抜いた客のひとりが、興奮した様子で機械に入る。係員が扉の下部のタイマを操作する。

「僕が目を閉じて、で、瞼を開けた次の瞬間には、待ちに待った楽しみがやってくるんだね!」

「はい。その通りでございます。では、おやすみなさいませ。またすぐにお会いしましょう」

 扉がゆっくりと閉まる。男性は瞬時に目を瞑り、眠った。

 

 私を圧縮室まで連れてきた係員が、空の機械を指す。

「楽しみが待ちきれなかった経験はありませんか」

「待ち時間が一瞬で過ぎたらいいのに、と思いませんか」

「我々は特殊な技術を開発しました」

「こちらの機械が”圧縮機”です。圧縮機に入っていただければ、どれだけ時間が経過しても一切体に変化はありません。副作用等もありません。夢も見ません。もちろん、死も訪れません」

「何百年先の楽しみでも、自らの体で楽しむことが可能です」

「いかなる楽しみも、次の瞬間、楽しめるのです」

「自由に時間を設定していただけます。数時間でも数百年でも可能です」

「ご利用料金は時間の長さによって異なります」

「待ち時間を圧縮すれば、ジンセイの楽しみをすべて体験できるのです」

 係員は圧縮室について一通りの説明を終え、なにかご不明点はございますか、と私に聞いた。

 

「ちなみに、今、一番長く眠っている方はどなたですか?」

「こちらのお客様です」

 近くの機械を示した。タイマの数字は残り少ない。ガラスの向こうに見える顔は若々しい。シワのひとつも無かった。黒い髪はやや波うち、艶艶しい。

「ご利用回数は数百回目、今回の待ち時間はxx年でございます」

 とっくに寿命を迎えそうな、そうでなくても少なくとも確実に年を召すほどの時間だ。しかし外見は若いまま。とてもそれだけの時を過ごしたようには思えない。

「この方はずっと待っているのです」

 と係員が言った。

 

 ピーピーと軽快な音が、耳に届く。音の方に視線を向けた。とある圧縮機の前に、一組の家族が立つ。ほどなくして、扉のタイマがゼロを表示する。プシュと扉が開き、ヒトが現れた。白い煙の中、お婆さんがよたよたと歩く。調子が悪そうだ。家族がお婆さんに近寄り、体を支えた。出迎えに来たのは、男性と女性と、それから――ほぎゃあほぎゃあ、赤子が元気いっぱいに泣く。男性に寄りかかりながら、お婆さんは赤ちゃんに手を伸ばした。赤子は泣き止み、不思議そうにお婆さんの顔を見つめる。お婆さんの頬を涙が伝った。

「ああ、ほんとうに一瞬だったわ。会えるのを楽しみにしてたのよ」

 男性も女性も感極まり、体が震える。お婆さんは赤ちゃんを撫でながら、そばの係員に礼を言う。

「ありがとう。最初で最後と思って、財産を使ってよかったわ。おかげで、この子に会えた。もう思い残すことはありません」

 家族は連れ立って、圧縮室を後にした。

 

 ピーピーと軽快な音が、また耳に届く。別の圧縮機の扉が開く。中から若者が出てきた。彼は両腕を上げ体を伸ばし、係員に尋ねた。

「日時は?」 

「おはようございます。xxxx年xx月xx日、xx時xx分でございます」

「すごいな! 瞬きぐらいしかしてないよ! ってああもう約束の時間だ、行ってきます!」

 彼は楽しそうに走り出す。その背中に、係員は行ってらっしゃいませと声をかけた。

 

 ピーピーと軽快な音が鳴る。中年の女性が圧縮機からゆったりと降りる。

「日時は?」

「おはようございます。xxxx年xx月xx日、xx時xx分でございます」

「今回も一瞬ね。ふふ、よかったわ。xxx年に一度のアレをこの目で見えるのね。楽しみだわ」

 

 目覚めたり、眠ったり、圧縮室は忙しい。

 

「続いて、”お楽しみ室”へどうぞ」

 説明がまだ残っているらしい。係員は圧縮室を出て、通路を行く。受付を過ぎ、受付の左隣の通路を進む。通路の奥に扉があった。扉を開け、”お楽しみ室”に入った。圧縮室同様、広大な部屋だ。部屋を埋め尽くすように、箱が並ぶ。それぞれの箱に、『xx様へ お楽しみをあなたに』と札がくくりつけてあった。

「目覚めてすぐに楽しみたい場合、追加料金がかかりますが、こちらで手配いたします。専用の個室もご用意しております」

 

 膨大な量の箱は、誰かのお楽しみ、というわけだ。ほかに気になる点は無いか、と顔を左右に振り、部屋を観察する。壁に大量の張り紙がところせましと連なる。政治・経済・科学・医学・娯楽、さまざまな分野での主要な出来事を、年代別に示す。長年の時を圧縮した客に向けて、だろうか。

 

 寝ぐせをつけたヒトが、飛び込んできた。そのヒトは箱の名札を確認し、ひとつの箱を手に取った。箱を開け中を覗く。表情が一気に明るくなった。

「やった! これを楽しみにしてたんだ! x年もぼおっと待って、時間を無駄にせずに済んだ!」

 

 箱を脇に抱え、寝ぐせのヒトはお楽しみ室の奥に向かって走り出す。さらに通路があった。通路にはたくさんの扉が見えた。寝ぐせのヒトは、そのうちのひとつの扉を開け、中に飛び込むと、すぐさま鍵をかけた。扉の表示が使用中に変わった。通路を手前から順に辿ると、突き当りに扉が。すりガラスの扉に”待合室”の文字があった。ガラスの向こうに、ヒトの影がいくつかぼんやりと見えた。

 

「あちらは超お得意様向けの待合室です」

「超お得意様、というと」

「そうですね……、少なくとも数百回はご利用いただいたお客様でございます」

 

 待合室を見学してもいいですかと係員に尋ねようとした瞬間、建物内が一気に騒がしくなる。激しい足音がこちらへ近づく。お楽しみ室の扉が勢いよく開いた。見覚えのあるヒトだ。圧縮室で一番長く眠っていたヒト。艶のあるうねった黒髪を振り乱し、張り紙にまっすぐ近づく。黒髪のヒトは、張り紙を端から端までひとつの取りこぼしも無いように眺める。きわめて真剣な表情だ。張り紙を全て確認し終えて、その場にがくりと膝をついた。心を極度に乱し、顔を歪ませて、両手で頭をかきむしる。

 

「無い! 無い! あれだけ時が経ったのに!」

「どうして! 不十分だったのか!」

「麻痺が、これじゃあ麻痺したままだ! 治らない! わたしは元に戻れないのか!!」

「目覚めるたびに絶望だ!」

「まだか! まだなのか! ええい、もうわたしは死んでしまう!」

 

 係員が制止するが、叫びは続く。力強く若い声でわめきちらす。ほかの客もなんだなんだ、と様子を遠くから見守る。やがて、黒髪は立ち上がり、部屋中に並ぶ箱に近づく。

「こんなもの、わたしにとってなんの意味もない!」

 目についた箱を掴み、振り上げ、腕を下ろし――床に叩きつける寸前で、黒髪は我に返る。そっと箱を戻した。おそらく、中身は無事だろう。

 

「あれだけ時間を圧縮しても、世の中はまだこんなものか」

 箱の横に座り、項垂れて、黒髪は大きくため息をつく。黒髪の周りを係員が囲む。黒髪は、顔を上げ、係員を睨みつける。

「もう限界だ! お前らのせいだ! お前らのせいで! わたしは麻痺した! どうにかしろ!」

 通路の奥から、キイと小さな音が聞こえた。待合室の扉がわずかに開く。

「ねえ、アナタもこっちで待ったらどうだい」

「……」

 黒髪は、視線をさ迷わせる。待合室からの声に答えずに、また暴れだした。私を案内していた係員を含め、係員総出で対処する。騒ぎを横目に、私は奥の通路をこっそり進み、待合室を目指す。待合室の扉はうっすらと開いたままだった。取っ手を掴み、ゆっくりと中へ入った。

 

 待合室は小さな部屋だったが、内装は建物内で最も豪華であった。照明・壁紙・絨毯・机・椅子、そのどれもが超お得意様に相応しい高級品で、一般のニンゲンなら到底触れることも叶わないようなシロモノだ。超お得意様たちはみな、椅子に腰かけていた。しかし、待合室の割に椅子の配置が乱雑だ。誰が先頭で最後かがわからない。彼らの周りに、最新の最先端の最高の娯楽がふんだんに用意されていた。が、彼らは見向きもせず、ぼおっとして黙ったまま座る。はたしてなにを待っているのか。圧縮機の順番だろうか。超お得意様であるなら、建物の外まで続く行列を無視し、圧縮機の待ち時間までも圧縮できても不思議ではないが。黒髪の叫びが耳に届く。騒動はまだ収まりそうにない。私は、お得意様たちに尋ねた。

 

「すみません。ここは圧縮機の待合室ですか?」

「いいえ、違います」

「では、皆さんなにを待っているのですか?」

「そりゃあ、”楽しみ”ですよ。それ以外にありません」

「ええと、圧縮機の列ならあっちですよ」

 私は、行列の方向を指さした。お得意様のひとりが答える。

「わたしたちはここでいいのです」

 

 背後で足音が聞こえる。待合室に別の誰かが入ってきた。私を案内していた係員だ。 

「こちらにいらっしゃったんですか。こちらはお得意様用の待合室でございますので、説明も終了しましたし、受付へどうぞ」

 

 待合室、それとお楽しみ室を後にする。黒髪のヒトは未だ荒れ狂っていた。

  

   * * *

  

 私は係員と共に、受付に戻った。案内に対して礼を言う。受付近くの椅子に腰かけ、私は机の上の冊子を確認する。利用料金、注意事項が記載してあった。店の外に視線を向ける。行列は長く続き、ヒトビトは順番を待つ。

 

「お待たせしました。次の方、どうぞ」

 

 一生懸命背伸びをした子どもが、受付の係員に話す。彼は手に小さな貯金箱を握っていた。子どもの後ろで、両親が行方を見守る。

 

「あのね、xx日後に、楽しみにしてるゲームが発売されるの! 待ちきれないの! だからxx日間でお願いします!」

「承知しました。xx日のご利用でしたら、料金はこちらでございます」

「わかった! これ、ボクのお小遣い! あげる!」

 子どもは貯金箱から硬貨を取り出し、手に載せ、受付に差し出した。

 

「……申し訳ございません」 

 受付は気まずそうに告げた。どうやら、子どものお小遣いでは足りない金額だったようだ。

「えー! そんなあ! これ以上あげたらゲーム買えなくなっちゃう!」

「たいへん申し訳ございませんが……」

「うわああああん! ボク、あと何日寝ないといけないの!」

「ああ、ご迷惑をおかけしました。どうしても、楽しみにしてるゲームが待ちきれない、と聞かないもので……、ほら、帰ろう、ね?」

「やだやだやだ! 待ちたくない! すぐに遊びたいの!」

 

 両親は子どもを抱き上げ、受付から離れた。次の客は、泣いている子どもよりもやや背の高い少年だ。少年は少し大きめの声で、

「xx日の利用で。それから、お楽しみ室にゲームの数量限定特別版を手配しておいてくれるかな? すぐに遊びたいんだ。少しの待ち時間でも圧縮したいからね」 

 と言い放った。ズボンのポケットから札束を出し、受付に置いた。そして、少年はふんと鼻を鳴らし、横目で子どもを見つめる。少年の口角が不自然に上がる。係員が、少年を圧縮室へ案内する。その様子に、子どもの泣き声の音量が倍になった。

 両親は子どもをなだめようと、家族で私の近くの机に座った。

 

「わあああああん! うわあああああん!」

「ほら、xx日は絶対にやってくるから、ね?」

「ううっ、ううっ、ぐすっ」

「ほら、なにか楽しいことを考えるんだ」

「やだあああ! ゲームが一番楽しみなの!」

  

 涙と鼻水でグシャグシャになった顔をぶんぶんと左右に動かして、子どもはぐずる。両親は困り果てた表情をしていたが、懸命にわが子との会話を続ける。

 

「ええと、そうだ。ほら、キャラクターの名前はなんにするんだ?」

「ぐすっ……、ボクのあだな」

「それはいいな!」

 両親の頑張りで、子どもが次第に落ち着きを取り戻す。その間にも、列はどんどん進む。

 

「お待たせしました。次の方、どうぞ」

「……やあ」

 受付の正面に立つ男性。私は彼に見覚えがあった。たしか、この建物を訪れた際、列に並んで指を折りなにかを数えていた男性だ。男性は伏し目がちで、あまり活気が無い。

 

「いつもごひいきにありがとうございます」

「うん。一時間ぶりだね」

「次のご利用はどうしますか」

「悩んでるんだ」

「でしたら、待合室にご案内しましょうか?」

 

 男性は、受付の左側の通路を見つめる。少し間をおいて、首を小さく振った。

 

「いや、それはまだいいよ。じゃあ、そうだな今回は適当に三十年で」

「承知しました」

「前回、君のお母さんに世話になったよ。お母さんはお元気かな?」

「母は息を引き取りました」

「そう」

「母は、花を育てるのが楽しみでしたの」

「そうだったんだ」

「ワタシが花を引き継いでいます。そろそろ、綺麗な花が咲きますわ。母は花を見られませんでしたが、最期まで楽しみにしていました」

「へえ、それは、なんというか羨ましいよ」

「では、三十年後、またすぐにお会いしましょう」

「……そうだね。君、どうか花を楽しんでね」

 

 男性は、圧縮室に消えた。と入れ替わりに、お楽しみ室から黒髪のヒトが受付に現れた。係員を振り切り、血走った目で、広間をぐるりと見渡す。なにかを探す。広間に緊張が走る。黒髪は視線を動かし、これじゃない、これじゃない、とぶつぶつつぶやく。異様な光景に、誰も喋らなくなった。  

 

 広間が緊迫し、少し経って、ガタン!と大きな音が聞こえた。お楽しみ室の方からだ。係員がそちらへ向かう。混乱にまぎれ、私も移動する。お楽しみ室に入る。箱と張り紙が並ぶ。なんの異変もない。音の原因は待合室だった。待合室で、乱雑に並んだ椅子のすき間を縫うように、超お得意様のひとりが床に倒れていた。やすらかな表情を浮かべ、ピクリとも動かない。周りに座るお得意様たちは羨ましそうな視線を向ける。

「麻痺から解き放たれたのね。羨ましいわ」

 

 私は受付に戻った。黒髪は床に座り込み、深くうつむく。入口付近に、泣いていた子どもと両親の後ろ姿が見えた。彼らは建物を後にする。子どもは飛び跳ねながら外に出る。機嫌がすっかり直ったようだ。

「えっとねー、そんで、強くなったら、お友達と一緒に敵を倒すの!」

 あれをやる、これもやる、と子どもが楽しそうに語る。小さな手を動かし、ひとつ、ふたつ、と残りの日数を指折り数える。

「へへへ、楽しみだ!」

  

 黒髪は、子どもの背中を妬ましげに見つめていた。

  

   

    

不可思議定数x 第五話 「ジンセイ圧縮機」 【終】 

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