亭主元気で留守がいい②





 庭があんな調子だから、まあ屋敷の中もそうなるわよね……。

 屋敷の中を案内してくれるハーマンの後を、私はチベットスナギツネのような表情でついて歩いた。


 まあ確かに、昨日からちょっとだけ不思議だなとは思ってた。

 私が通ったのは、この広い広い屋敷の一部分ーー、玄関や自室や食堂といった僅かな場所だけだけど、美術品が少なすぎやしないかなって。


 この屋敷自体がとてつもなく立派なので違和感は少ないけれど、貴族ならどこの家にもあるような華やかな絵や壺なんかの美術品も、季節の花も飾られていない。


 飾られてるのは、歴史がありそうな鎧とか無骨な兜。それからちらほら絵もあるけれど、どれもこれも暗い色で、陰惨な光景を描いた陰鬱な絵ばかりだ。


 それはそれで好きだけれど、選りすぐりの憂鬱な芸術に囲まれているとこちらまで物悲しく暗い気分になる。主人の性格が反映されすぎではないだろうか。


「この絵はアルバート様がお選びに……?」


 私の言葉に、ハーマンは頷いた。


「直接お選びになったわけではございませんが……アルバート様がこの屋敷を引き継がれる際、屋敷にございました絵や美術品はこれらの品を残して手放されました」

「ここを引き継がれたのは数年前と聞いてましたけど、その時に?」

「さようでございます。今から六年前、アルバート様が十四歳の時に」

「なるほど……」


 色々と察した。

 確かに、十四歳の拗らせた男の子が好みそうな趣味ではあるかもな……。



 やっぱりその頃のアルバート様は右腕に包帯を巻いたり眼帯つけたりしたのかしらと思いつつ、その後もどこもかしこも暗く整えられた屋敷を歩き、前世で憧れたホーンテッドマンションの中(※ただし夢や希望や楽しさは取り除かれている)にいるような気分になった私は悟った。


 こんなところに住んでいたら、情緒が不安定になってしまう……。


 昨日から思ってたけど、この屋敷は暗いのだ。雰囲気が暗すぎる。最初はこの屋敷の主人のせいかなと思っていたけれど、彼がいなくても普通に暗い。


 なのでここはもう、綺麗さっぱりガラッと模様替えをすることにしよう。

 女主人とは屋敷の中の采配を行うものだ。それならば屋敷の中を住みやすく整えるのも、やっぱり私の役目であろう。


 ここは思い切って、素敵華やか空間にしてしまおうではないか。


 もしも私がアルバート様と仲の良い夫婦ならば、我慢して夫の趣味に寄り添うべくちょっと花を添える程度の模様替えでとどめておいたと思うけれど、初対面からクズムーブを発揮してきたアルバート様にそんな忖度をする義理はない。


 あの拗らせ夫のアルバート・フィールディングの度肝を抜くべく、この屋敷をまるっと一新してやるのだ!


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