第81話 森の捕食者
ルーファウスの説得になんとか成功し、イーリス、ミラ、クララ、ルーファウスの4人はアルドと合流するべく森の中を歩いていた。しかし、周辺を探してもアルドの姿は見当たらない。闇雲に遠出をするのは遭難の危険がある。
「お父さん。どこに行ったんだろう」
「アルドさんのことだから、1人で無茶なことはしないだろう。だが、この間に何もしないほど効率が悪い動きはしないはず。ダンジョンにある素材を採掘している可能性が高いな」
ミラは森の地面に手を当てる。そこから素材がある場所を検知しようと集中し始めた。
「…………ここから北東の方角に強い素材の反応があった。かすかではあるがその反応は減っている。誰かが採掘しているということだ」
「お父さんだ!」
アルドの居場所の検討がついたことでイーリスは口角をあげて手をぐっと握り喜んだ。
「意外と順路通りの方角にいたな。早く合流しよう。お互い離れたままだと危険だからな」
単独行動をしているアルドはもちろんのこと、盾の役割をする人間がいないイーリスたちもそれなりに危険である。やはり、合流することが先決で一同は急いでアルドがいると思われる方角へと向かう。
◇
「ふう……少し休憩するか」
アルドは切り株の上に腰掛けて汗をぬぐった。そして、手に入れた素材の量を見て、イーリスたちと離れている時間の長さを感じた。
今後の冒険のためにも素材を入手しておくのは重要なことではあるけれど、今のイーリスたちのことも心配である。そろそろ迎えに行った方がいいのかもしれないと思いつつも、アルド側からはルーファウスの様子がわからない以上は近づくのは危険と判断して動けずにいる。
アルドとしては道なりに進んだつもりなので、ここで待っていればいずれイーリスたちが来るであろうと思っている。そんな時だった。茂みからガサゴソと音が聞こえてきた。
アルドは唾を飲み込み、すぐに疾風の刃を装備して構えた。敵ならばいつでも攻撃できるように体勢を整えておくことは重要である。しかし、茂みから飛び出してきたのは敵ではなかった。
「お父さん!」
「イーリス!」
アルドの姿を確認するなり、真っ先に駆けつけてきた愛娘。胸に飛び込んできた彼女を受け止めてアルドはイーリスの頭を撫でた。親子の感動の再会の場面。そこに水を差さないように、ミラとクララは見守っていた。
「イーリス。無事だったか? 怪我はないか?」
「うん。大丈夫だよ。ミラさんもクララさんも怪我はしていない」
邪霊から受ける霊障であれば、魔法で治療は可能だけどそれ以外の物理的な攻撃では傷を治せるとは限らない。アルドはそこを心配していた。
「それより、お父さんは大丈夫?」
イーリスとしてはアルドの方が心配である。アルドは魔法を使うことができない。邪霊の霊障も回復手段を持たないアルドにとっては、ほんの少しの霊障でも魔法ですぐに治すことはできない。
「ああ、大丈夫。邪霊とは戦わずに極力逃げてきたからね」
お互いの無事を確認したところで、アルドは本題に入る。
「ところで、ルーファウス君は大丈夫か?」
「あ、うん。そうだ……」
イーリスが後方に目をやる。クララとミラの影に隠れているが、確かにそこにルーファウスの姿があった。
自分に話を振られたルーファウスはアルドと話をつけるために前に出た。
「アルドさん。その……話はミラさんたちから聞きました」
「そうか。事情は知っているんだね」
「はい。その……事情も知らずに色々と言ってしまってすみません」
「ああ、そのことなら大丈夫。キミからしたら、いきなり身を守るための道具を盗まれたんだ。冷静でいられるわけがない。こっちこそ、こうするしか方法がなかったとは言え、キミには申し訳ないことをしたと思っている」
アルドとしても説得できればそれで良かったのだけれど、説得するだけの余裕がない状態であった。だからこそ、盾の影響を受けない自分が盾を奪って逃げるしかなかった。
「とにかく、一度街へと帰ろう。そこでまた落ち着いて話を――」
アルドがそう言いかけた時、木々が風に吹かれてざわつきだした。次の瞬間、木に人の顔のようなものが浮かび上がった。
「美味そうな人間が5匹もいやがる。ケケケ、お前たちをこの森の肥しにしてくれる」
木の根元の地面がボコっともりあがる。そして、木は根を足にして歩き出した。
「みんな、こいつ強いよ。多分ボスかも」
クララがそう言い、人面樹の邪霊に向かって駆けだす。そして、先制攻撃といわんばかりに蹴りを食らわせた。
「軽いな」
邪霊は木の枝を動かしてクララを払いのけた。クララはそれで吹き飛ばされてしまうものの、なんとか受け身を取って地面への激突を避けた。
「くっ……私の打撃じゃ有効打にならない」
クララが攻撃している間に、アルド、イーリス、ミラの3人は武器を構えて戦闘準備を整えた。
「クララ、こいつはかなり硬そうだ。アタシたちの合成魔法かアルドさんの連撃で攻めないと有効打になりえないかもしれない」
合成魔法は撃つのに時間がかかるし、アルドの連撃も敵に連続で攻撃を当てなきゃいけない都合上、弱い一撃目を防がれり、本命の二撃目を避けられたら意味がない。敵が避けようがない状況を作り出さなければ安定しないのだ。
「私が隙を作るから任せて! ウィンド!」
イーリスが風の魔法で邪霊に攻撃をする。初級で威力もあまりないが、消耗も少ないので様子見としては悪くない。攻撃が敵の邪霊に命中するも注意を少し逸らした程度で大きなダメージにはなっていない。
「あわわ……」
この戦闘中、ルーファウスは自分のするべきことが見つからずにオロオロとしている。一応は武器は持ってきてはいるものの、その武器も性能もそれほど高いものではない。雑魚相手ならば通用するが、ボスクラスともなると敵の注意を引き付けることすらできないレベルだ。その攻撃力は武器を持たないクララの打撃以下。そのクララの攻撃も通用しない相手にルーファウスができることなど見当たらない。
「ふひひ! 捕まえてやる!」
人面樹の邪霊が枝からツタを伸ばしてきた。そのツタは子供の腕ほどの太さで鞭のようにしなり伸びていく。そして、イーリスの四肢をとらえた。
「きゃっ!」
「イーリス!」
体を大の字に固定されてしまったイーリス。そのまま人面樹の方に引き寄せられていく。
「助けて! お父さん!」
イーリスは人面樹の幹の部分にはりつけにされてしまった。
「まずは1人目。フフフ、順番にお前たちを捕まえてその栄養を数日かけて吸ってやる。そうして、オレ様は更に強くなり、この森の最強の支配者となるのだ」
「うぐう……お父さん。苦しい」
ギチギチとツルでイーリスが締め付けられていく。まともな成人男性ですら力でほどくのは困難な拘束。非力な少女であるイーリスが自力で脱出できるはずもなかった。
「イーリス! 魔法は使えないのか?」
拘束されていても魔法が使えるのであれば問題ない。だが……
「ごめん。お父さん。使えない……」
「がはは! オレ様に捕まったらマナを含めた栄養を少しずつ吸われるんだ。魔法を使うには繊細なマナコントロールが要求される。少しずつマナが吸われている状態で魔法なんて使えるわけがねえだろ!」
拘束能力を持つ邪霊。しかも拘束されたら魔法が使えなくなるという制限も課されてしまう。魔法使いが多いアルドたちのパーティにとっては厄介極まりない相手である。
「クララ、あのツタに気を付けるんだ。アタシたちがあのツタに捕まったら終わる」
「うん、わかった。私たちの魔法じゃイーリスちゃんも巻き込んじゃうかもしれない。アルドさん。イーリスちゃんの救出はお願いしても良い?」
「ああ、最初からそのつもりだ。待ってろ、イーリス。今すぐ助けてやるからな」
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