第24話 3人目の仲間
休日のアルドとイーリス。お互いに本を読んでのんびりと過ごしていた。イーリスがパタっと本を閉じてアルドの傍に立つ。
「ねえ、お父さん。お願いがあるんだ」
「お願い? なんだ? 言ってみなさい」
アルドも本を閉じてイーリスの話を聞こうとする。イーリスは意を決して言葉を紡ぐ。
「私……ディガーになりたいの」
アルドはその言葉に一瞬固まる。イーリスはまだ9歳。それなのに、ディガーになると言うのはいくらなんでも早すぎる。そこでアルドは1つの結論を出した。
「ああ、将来の夢か。確かにディガーならイーリスの得意の魔法を活かせるな」
「違うの! お父さん! 今すぐなりたいの!」
イーリスは真剣な表情でアルドを見つめる。ディガーには確かに年齢制限はない。一定以上の能力が認められれば誰でもなることができる。アルドは身体能力と発掘能力の高さで難なくディガーになれた。
だが、イーリスは……恐らくなれるだろう。彼女の魔法はこの歳にしてはどころの話ではない。一部のディガーにも引けを取らないくらい強い。
「本気なのか?」
「うん」
アルドは悩んだ。イーリスのしたいこと、やりたいことはできる限り、叶えてあげたい。けれど、イーリスに危険が及ぶ行為を見過ごすわけにはいかない。
「お父さん! お願い」
アルドは今、父親としての資質が問われている。娘の夢を潰す親にはなりたくない。なりたくないが、どうしても娘が心配である。
数分、悩んだ末にアルドは苦し紛れの結論を出した。
「わかった。イーリス。とりあえずディガー協会に行って審査を受けよう」
そこでディガー協会がイーリスをディガーとしての資質を認めなければ済む話である。
◇
「おめでとうございます。イーリスちゃん。ディガーになれたよ」
「やったー!」
ディガー協会の協会員から認められたことでぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表すイーリス。
イーリスのマナの量が規格外だったので、秒でディガーとして認められてしまった。アルドはディガー協会の審査のザルさを嘆く。
ディガーになってしまった以上は、イーリスは自分の意思でダンジョンに潜ることができる。
「ちょっと、アルドさん。イーリスちゃんがディガーとして認められちゃったじゃないの」
同行していたクララがアルドに耳打ちをする。
「仕方ないだろ。クララ。だって、まさか合格するとは思わなかったじゃないか」
ディガー協会の審査は年齢に関係なく公平に行われる。イーリスは幼いながらも実力が十分と認められたので、拒否する理由はなかったのだ。
「わーい、これでお父さんと一緒にダンジョンに潜れるねー」
イーリスがアルドの腕に絡みついてきた。娘に絡まれてデレデレになるアルド。
「そうか。そんなに僕と一緒にダンジョンに潜りたかったのかー」
イーリスがディガーになりたい理由の一端に触れて、口角が緩むアルド。
「はあ、もう仕方ないね。アルドさん。私たちでイーリスちゃんを守らないと」
「ああ。そうだな」
こうなってしまっては、イーリスもダンジョンに同行させるしかない。ディガーになったのに、ダンジョンに入ることを禁止にするわけにもいかない。自力でダンジョンに潜れる以上は、親離れする前にきっちりとダンジョンでの経験を積ませた方が安心である。そういう判断だ。
「それじゃあ、早速、ダンジョンに潜ろうよ」
「今からか……」
「だめなの?」
目を潤ませるイーリス。アルドはその目に弱かった。そのようにせがまれてしまっては、断ることができない。
「わかったよ。イーリス。一緒にダンジョンに行こう」
「わーい」
「はあ……イーリスちゃんに甘いんだから」
クララは呆れてしまった。でも、仕方ない。それが父親という生き物なのだから。
ダンジョンに辿り着いたアルド、イーリス、クララ。3人で潜る初めての探索である。
「ダンジョンって思ったより明るいんだね」
「うん。精霊のマナの影響で太陽の光が届かなくても明るくなってるんだ」
イーリスの疑問にクララが答える。最初の辺の邪霊は既にアルドとクララが倒しているため、楽に奥に進めていく。
「きしゃああ!」
蛇の姿をした邪霊がでてきた。その邪霊が大きな牙をあけて、そこから衝撃波を飛ばした。その衝撃波がイーリスに向けられていた。
「危ない!」
アルドがイーリスをかばって衝撃波を受けた。アルドの服の背中の部分が衝撃波を受けて破れる。皮膚も怪我をしていて出血をしてしまった。
「ぐっ……」
「お父さん!」
「しゃあああ!」
蛇は次なる衝撃波を撃とうと口を開ける。だが、クララが蛇に接近して、蛇の脳天にかかと落としを決めた。
「がしゃあ……」
蛇はクララの一撃を受けて倒れてしまった。それほど耐久がある邪霊ではなかったが、攻撃力はそこそこ高くて、アルドが手痛いダメージを負ってしまった。
「ごめんなさい。お父さん。私のせいで」
「大丈夫だ。イーリス。これくらいの怪我」
イーリスはアルドの痛々しい傷口を見て心を痛めた。自分がダンジョンに行きたいと言い出さなければアルドはこの傷を負うことがかなかったのかもしれない。
「クララさん。魔法で傷が治せないの?」
「うん。治せるよ。精霊魔法のアパト。それを使えばね。アパト!」
クララはアルドの傷を癒していく。邪霊から受けた霊障を取り除く精霊魔法。アルドの傷がみるみる内に回復していく。
「わあ、すごい。私にもできるかな?」
「うん。丁度いい機会だからやってみなよ」
クララはアパトを中断した。そして、イーリスが代わりにアルドの傷口に手をかざして、魔法を唱える。
「アパト!」
イーリスの言葉がダンジョンに反響する。アルドの傷が徐々に回復する……ようなことはなく、なにも起こらなかった。
「え?」
イーリスは混乱している。自分は見様見真似でウィンドの魔法を使うことができた。それなのに、今はどうしてアパトの魔法を使うことができないのか。それに疑問を覚えた。
「クララさん。どうしよう。お父さんの傷が治らない」
「落ち着いてイーリスちゃん。もう1回やってみて」
「うん。アパト!」
2回目も唱える。しかし、アルドの傷が回復しない。魔法使いであれば誰でも使える精霊魔法。イーリスが使えないはずはないとクララが首を傾げる。
「うーん。まあ、魔法に素質があっても、それを使えるかどうかは本人の努力次第ってところもあるからね。例えば、緑の魔法が得意でも精霊魔法が苦手とかもあるし、イーリスちゃんはそういうタイプかな?」
イーリスはシュンとしてうつむいてしまった。アルドの傷を治せなかったことにひどくショックを受けている。
「大丈夫。イーリスちゃん。その内、使えるようになるから。他の魔法なら、そもそも使えない可能性があるけど、精霊魔法は誰でも使える魔法だし」
「うん……」
結局、アルドの傷はクララが治した。父親の傷を治したかったイーリスは、ひどく落ち込んでしまう。魔法使いとして才能があると思い込んでいただけに、精霊魔法に才能がないことがわかって、心が曇ってしまう。
「イーリス。大丈夫だよ」
「だって……私、お父さんの傷を治せなかった」
「誰にだって向き、不向きはあるんだ。今は精霊魔法が苦手でも、その内使えるようになるかもしれない。だから、元気出して」
アルドに励まされてイーリスは少し心が楽になった。魔法の才能があると少し天狗になっていたイーリスだが、自分にも苦手なものがあるとして、気を引き締めてがんばることにした。
「さあ、行くよ。アルドさん。イーリスちゃん」
「ああ」
気を取り直して、アルドを先頭、そのうしろにイーリス。最後尾にクララとイーリスを2人で挟んで守るスタイルで進んでいくのであった。
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