第23話 親バカ発揮
「よし、今日の仕事はこれで終わりだ」
パンパンと親方が手を叩く。炭鉱夫たちがキリのいいところまで作業してから仕事を切り上げていく。
アルドも仕事を終わらせてから、ダンジョンに潜る準備を整えてから、クララとの待ち合わせの場所に向かった。
「やっほー。アルドさん」
アルドに気が付いたクララは手を振る。アルドは手をあげてクララにリアクションを示した。
「ああ、クララ。イーリスの面倒を見てくれてありがとう」
「ううん、いいの。ねえ、聞いて。アルドさん。イーリスちゃんすごいんだよ。多分、あの子。もう私より強い魔法使いになったかもしれない」
ニコニコと嬉しそうに語るクララ。アルドはそれに対して愛想笑いをする。
「あはは。まさか、イーリスは魔法を習得しはじめた段階じゃないか。そんなすぐにクララを超すなんて思えないよ」
「いやいや。本当に冗談抜きですごいんだって。あの子……恐ろしい才能を持っているよ」
真顔でアルドの目をまっすぐ見るクララ。その表情が嘘を言っているように見えなかったアルドはごくりと生唾を飲んだ。
「それは本当に言っているの?」
「うん。私は元々、魔法で戦うタイプじゃなくてそっちの方面をあまり鍛えてなかったんだけど、それでも私より凄い力を持っているから、あの子は間違いなく天才だよ」
「そうなのか?」
アルドの頬が緩む。口角もあがり、あからさまにだらしない顔になる。
「あれで精霊の力を受け入れていない状態なの。もし、ダンジョンをクリアして、精霊の力をもらって能力が底上げされたら、とんでもない魔法使いになるのかもしれない」
クララも自分で言っていて冷や汗をかいた。クララも精霊の力を受け入れているからその分強くなっている。でも、イーリスは更なる伸びしろが残っている。
「そうか……イーリスがそんなに天才なのか。良かった」
「もう、アルドさん。完全に親バカの顔になってるよ!」
クララに指摘されてアルドは、ハッと気づき表情を引き締めた。今更。キリっとした顔をしても締まらないけれど、無駄な抵抗をする。
「そんな浮ついた気持ちでダンジョンに潜らないでよね。イーリスちゃんの思いっきり褒めるのは、家に帰ってからにして」
「うん。わかってる」
アルドたちはこれから危険なダンジョンに潜る。命の危険もあるところで、決して油断はできない場所だ。下手したら、クララにも危険が及ぶ可能性がある。アルドは適度な緊張感を持ってダンジョンへと向かった。
◇
「アルドさん。邪霊が来るよ!」
「ああ、わかってる」
2人の目の前に現れたのは巨大な灰色の岩の邪霊。身長はアルドよりもでかい。アルドはその邪霊に斬りかかる。しかし、剣での攻撃ではダメージが通らない。
「ダメだ。ダメージが通らない」
「岩の邪霊には剣のダメージが通りにくい。こういうのは……魔法で攻めるのが定石。サイクロン!」
クララが緑の魔法を唱えた。イーリスに見えた初級の魔法ではなくて、戦闘面で実用性がある魔法だ。
風おかたまりが岩の邪霊にダメージを与えていく。体が崩れていく岩の邪霊。すかさずにクララが邪霊に打撃を食らわせる。
「ぐおお!」
岩の邪霊はその場で崩れ去ってその場に石片を残して消えた。
「ふう。魔法を使わないと攻略できない邪霊か。僕には対処できないからクララがいてくれて助かったよ」
「そうだね。逆に魔法が効かない邪霊もいるから、そういう時はアルドさんを頼りにさせてもらうよ」
クララとアルドは落ちていた石片を拾う。こうして、地道に素材を溜めていく。
石片を集め終わった後にまた、アルドたちは前に進む。そうして、今度はやわらかいスライムのような白い邪霊がでてきた。その邪霊はぴょんぴょんと跳ねてアルドたちに近づいてくる。
「む、これもまた魔法で対処するタイプの邪霊だね。打撃に特に耐性があるみたいだから、止めはアルドさんがお願い」
「ああ、わかった」
アルドはスッと剣を構えて準備をする。そして、クララがサイクロンを唱えて邪霊にダメージを与える。
「食らえ!」
クララの魔法で弱っていた邪霊をアルドが素早く攻撃して倒す。消滅した邪霊からまた石片がポロリと落ちた。
「倒しても倒しても邪霊が尽きることはないな」
「うん。邪霊は最奥にいるボスを倒さないと1週間程度で雑魚が復活しちゃうんだ。だから、定期的にダンジョンに潜って邪霊を削っていかないと、中々奥までは進めないよ」
ディガーの大変さを感じるアルド。こうした地道な作業でようやく精霊を解放できるのだ。
「まあ、でも……折角地道に邪霊を削ってもボスは同業者に取られちゃうことがあるからね。それが1番辛くて腹が立つよ」
「確かに」
アルドとクララは更に奥を目指そうとする。しかし、その奥にいた邪霊はいずれも岩の邪霊とスライムの邪霊。魔法で対処するような邪霊が多くて、クララはげんなりとした表情を見せる。
「げ……さすがにあれだけの量を私の魔法では対処しきれないよ。マナが枯渇しちゃう」
「そうなのか?」
「うん。一旦戻った方が良さそうだね……それと、この奥にあれと同じ種類の邪霊ばかりいたら、魔法が得意なディガーがいないと厳しいかも」
「魔法が得意なディガーか。心当たりは?」
「うーん。ないかな」
「そうか」
2人はここでダンジョン探索をやめて地上に戻った。無理はしないことが長くディガーを続けるコツだ。なにせ命は1つしかないのだから。
◇
「ただいまー」
「おかえりー」
イーリスがアルドを出迎える。なにやらそわそわして落ち着かない様子だ。体をもじもじとくねらせて、もの言いたげそうな表情でアルドを上目遣いで見つめる。
「あのね、あのね、お父さん! 私ね。クララさんから魔法使いの才能があるって褒められたんだよ!」
「おお、さすがイーリス。すごいな。僕の娘なだけはあるな!」
アルドはイーリスの頭をよしよしと撫でる。「えへへ」とイーリスが笑う。
「もう、イーリスは立派な魔法使いになったんじゃないのか?」
「そ、そうかな? でも、まだ早い気がするよ」
イーリスが頬を赤らめてもじもじとする。後ろで手を組んで恥ずかしそうに目を伏せる。
「だって、魔法使いになったら、お父さんがお願いを聞いてくれるんでしょ?」
「ん? ああ、まあ。僕にできる範囲のことならね。できないことは流石に無理だけど」
イーリスが将来の夢を語った時にした約束。アルドとしても当時のイーリスは精神的に不安定なところがあったから、元気づけるためにそういう約束をしたのだ。
「じゃあ、まだ早いかな」
「ん?」
アルドはイーリスの真意も読み取れないままに、首をひねった。でも、それはそれとして……
「イーリスはすごいな。そうだ、お父さんに魔法を見せてくれ」
クララやイーリスを疑うわけではないけれど、実際にどれだけイーリスの魔法がすごいのかをアルドはこの目で確かめたいと思った。
「魔法? うん! いいよ。私の魔法を見て」
イーリスもアルドに習得した魔法を見て欲しいと思ってニコニコとしたまま、魔法を放つ準備をする。
「すーはー……すーはー……」
深呼吸してマナの力を整えるイーリス。そして、手をかざす。
「ウィンド!」
イーリスの手からものすごい風が吹き荒れて、アルドが背後に飛ばされそうになる。必死に耐えるアルド。まるで台風の中にいるような感覚でこれはやばいと思った。
「あ、あはは。イーリスはすごいな! すごいのはわかった! 十分伝わった。だから、もう止めても大丈夫だよ。うん」
「うん」
イーリスが魔法を止めた。家の中が風でぐちゃぐちゃになり、アルドはぽかーんと口を開ける。イーリスも自分のしでかしたことに気づいた。
「あ、ごめんなさい。お父さん。まだ力の制御がうまくできなくて」
「あはは、いいんだよ。イーリス。それだけイーリスがすごいってことだからね。気にすることはないよ。僕はイーリスがきちんと成長していることの方が嬉しいんだから」
「えへへ」
アルドに褒められて頭をかくイーリス。でも、現実はそれだけでは終わらない。
「でも、これは一緒に片付けようか」
「うん」
アルドはイーリスが強風で散らかしても叱ることなく、一緒に家の片づけを始める。片付けが苦手なアルドをイーリスがサポートしつつ、親子の楽しい時間が流れるのであった。
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