第13話 娘の複雑な気持ち
アルドとクララはダンジョンのクリア報告をディガー協会へと報告した。ディガー協会の受付が淡々と済ませて、クララに報奨金を手渡した。
「やったー。ダンジョンのクリア報酬だ」
「うん、おめでとう。クララ」
「はい、これアルドさんの分ね」
クララは、クリア報奨金の半額をアルドに渡した。アルドはそれを受け取らずに首を横に振った。
「いやいや、受け取れないよ。ボスを倒したのはクララじゃないか。僕はなにもしていない」
「いいって。ほら、受け取って」
クララは強引にアルドの手の中に報奨金を収めた。アルドは気持ちが乗らないながらも報奨金の半額を受け取った。
「アルドさん。これからどうする? あのダンジョンはもうクリアしちゃったから、別のダンジョンを探す?」
「うーん、僕は副業感覚でダンジョンに潜っていたからね。本業があるし、あんまり本腰を入れて潜らないかも」
クララはきょとんとした顔をする。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、私が次のダンジョンを探しておくね」
クララがぐっと拳を握って気合いを表する。だが、アルドには解せないことがあった。
「クララ。どうして、僕とまだ組むつもりでいるんだ? 僕はそんなに役に立つほうじゃないのに」
「役に立つか立たないかじゃなくて、私が組みたいか組みたくないかなの。アルドさんは発掘品を私にわけてくれようとしたし」
「それは……わけるのは当たり前というか! というか、そもそも、発掘品を発掘した人だけのものにするのがおかしいんだよ!」
クララは身を乗り出してアルドに顔を近づけた。
「いい? アルドさん。ディガーっていうのは信用商売なの。命がかかっているからこそ、組む相手を信用できるかどうかを慎重に見極めないといけない。私はアルドさんを信用できるディガーだと判断した。だから、まだ一緒に組みたいの。それだけ」
「うーん……でもなあ」
「それとも、アルドさんは私を信用していないの? 私とパーティを解消したいって言うんだったら、仕方ないけど」
「そんなことはない。ただ、クララだったら、もっと良い人が……」
「もう、そういうことは言わないの!」
「わかったよ」
クララに強引に押し切られてアルドは渋々と納得してしまった。これからもクララとパーティを組むことになってしまった。
ディガー協会から出て、帰り道。それぞれが途中まで一緒に帰ることになった。
「ねえ、アルドさんって結婚しているの?」
「ん。えーと。妻には逃げられたけど、娘はいるかな」
「ああ、そうなんだ……」
クララは眉を下げて困り顔をした、あからさまな地雷を踏んでしまった自覚。だが、アルドは気にしてないと笑う。
「大丈夫。記憶喪失で逃げられた時のことも覚えてないから」
「もう! そんなジョーク笑えないよ!」
クララはアルドの笑えないジョークを一蹴した。
「娘さんって何歳なの?」
「今は9歳かな。名前はイーリス。これがもう本当に可愛くて……僕が家に帰ってくるといつも出迎えてくれるんだ。この前も一緒に寝たいって甘えてきて……」
「あはは。アルドさん。娘のこと好きすぎだよ……でも、イーリスちゃんは、お母さんがいなくて寂しくないのかな?」
クララのその一言にアルドの表情に影が落ちた。9歳の女の子。まだまだ母親に甘えたい年頃である。寂しくないわけがない。
「やっぱり、男親だけじゃイーリスは寂しいかな。僕は男親だから、これから年頃になった時に相談しにくいこともあるだろうし」
「うんうん。わかる。あ、そうだ! ねえ、アルドさん。私がイーリスちゃんの面倒を見てあげようか?」
「え?」
クララのまさかの提案にアルドは鳩が豆鉄砲を食らった顔をする。
「ほら、アルドさんは昼間仕事でいなくて、更に副業までやったらイーリスちゃんが寂しい思いをしているでしょ?」
「うん、まあ、それは否定できない」
「でしょ?」
「まあ、イーリスにもきいてみるよ」
「そうだね。イーリスちゃんの意思も重要だもんね」
アルドとクララは、それぞれ違う帰り道になったので別れて家に向かう。
「ただいまー」
「おかえりー。お父さん!」
アルドの帰宅するなり、イーリスが玄関まで走って行き、彼の胸に飛び込んだ。
「おっと」
「えへへ。お父さん帰って来たー」
いつもより甘えん坊になっているイーリス。アルドは、それでイーリスを愛おしく思ってしまう。
「よしよし、イーリス。いい子にしていた?」
アルドはイーリスの頭を撫でながらきく。イーリスは「うん」とにっこり笑顔で答える。
アルドとイーリスは手を繋いで、食卓へと向かった。そして、食卓でイーリスが用意してくれた夕食を食べる。
「聞いてくれ。イーリス。今日はダンジョンをクリアしたんだ」
「え? 本当? ってことは、もう危険なダンジョンに潜らなくても良いの?」
目を輝かせるイーリス。
「うーん、どうだろうね。また新しいダンジョンに潜るかもしれない」
「えー。だって、ダンジョンってクリアしたら、邪霊がいなくなるんでしょ? でも、邪霊の影響を受けた素材は残っているから、それを発掘すればお金が貰えるんじゃないの?」
イーリスは疑問を口にする。確かに理屈の上ではそうである。
「そうだね。安全に邪霊の素材を発掘できるけれど……それは、ディガー協会のみんなが知っていることなんだ。つまり、みんながクリアしたダンジョンに群がるから、僕がそこに行っても取り分が減っちゃうんだよ」
「えー。そんなのズルい!」
イーリスが頬をぷくーっと膨らませて不満気な表情をする。
「あはは。でも、代わりにクリアの報奨金をもらったから、ちゃんとクリアはする意味はあるんだ」
「あ、そうだ。素材を十分に発掘してから報告するっていうのはどう?」
「んー。それもダメみたいなんだよね。ダンジョンをクリアしたら速やかに報告しないといけないんだ。クリアした状態でディガー協会にクリア申請する前に発掘をすることは禁止されているんだ。発掘したら素材没収の上で罰金、最悪、教会の追放もありえるね」
「むー」
イーリスとしては、アルドが安全に稼いで危険がないことの方が望ましい。けれど、それは中々に厳しいことである。
「そうだ。イーリス。昼間はどうしている? やっぱり寂しい思いをしているんじゃないのか?」
アルドのその言葉にイーリスは悩んだ。そして、悩んだ末に。
「うん……やっぱり寂しいよ」
素直に答えることにした。優しいアルドのことだから、自分が本当に寂しい想いをしているなら、それに応えようと一緒にいる時間を増やしてくれるかもしれない。その考えでアルドを繋ぎ止めようとする。
「そうか。やっぱり、寂しいか。イーリスにいい話があるぞ」
「え!?」
イーリスは目を見開いてパァっと表情が明るくなった。まさか、アルドが家にいる時間が増えるんじゃないかとそう思ったのだ。しかし……
「父さんのディガー仲間のクララって人がいるんだけど、その人がイーリスの面倒を見てくれるらしいんだ」
「え?」
イーリスは想定していた望みと違う提案が帰って来て思わずぽかーんとしてしまう。
「これでイーリスも寂しくならないと思うんだ」
「あ、うん……」
「どう? 大丈夫な方向でクララに話を通してもいいか?」
アルドは真っすぐな目でイーリスを見つめる。その目は邪気が全くなく、これがイーリスのためになると信じて疑わない。
「あ、うん。大丈夫……」
寂しいと言ってしまった手前、断ることができないイーリス。自分の父親と一緒にダンジョンに潜っている謎の女。決していい感情は持っていないが、どんな女なのか自分の目で確かめてやると逆に興味を持つのであった。
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