女神の帰還

如月姫蝶

目覚めたら喪っていると知りながら蛹のごとく君は仰け反る

 人魚姫が声を失った。

 私のアトリエがあまりにも汚部屋で、一瞥しただけで驚愕のあまり失声症を発症したんだと!

 ふん! 単なる人魚ではなくお姫様なだけあって、部屋を片付けてくれる召使いに事欠かないと見た。あのねえ、魔法の研究というものは、手の届く範囲に愛用品のあれこれを並べ立て積み上げてるほうが、没頭できて捗るものなの!

 あ、そんな顔しないで。私、べつに怒ってないから。ええっと、あなたは、船で通り掛かった人間の王子に恋をして、彼を射止めるべく、人間チックな二本足が欲しいんだったわね?

 いーわ、いーわ、カモーン! 実は簡単なことなのよ。


 かつてこの地球上には、今よりずっとイケてる超古代文明が存在したわけ。その文明の爛熟期にね、人体の改造が大流行したのよ。

 人魚はね、つまるところ、人間の上半身に魚みたいな下半身をくっつけたキメラなの。ただ、一代限りの愛玩動物として造ったのではなく、生殖能力まで付与しちゃったのが特筆すべきところね。だから、ずっと後になって、あなたみたいなお姫様も生まれたわけ。

 あ、小難しい話だと思ったら、聞き流してくれちゃっていいのよ? 

 

 あなたの上半身を解析すれば、あなたが人間として生まれたなら生えるはずだった足の設計図みたいな情報が読み取れる。その設計図通りに足を造ってあげるね!

 実はこれって、私の好みにドンピシャな依頼なの。一度はやってみたかった施術だから、お代は出世払いでいいわよ。

 けれど、この〝叡智の魔女〟を安く買い叩くような仕事が殺到するのはごめんだから、二本足を与える対価として、あなたの美声をもらっちゃったことにしておくわ。いいわね!




 

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