蝦蛄
片眼の兎
第1話
青白く無様に膨らんだ土左衛門に群がる蝦蛄
其の土左衛門は村で春を売っていた肉の弛んだ年増の女だった
崩れた色気が男好きする女でこの舟に乗っている者は皆一度は抱いたであろう
この日は魚が捕れなかった
漁師らは磯臭さと腐った肉の臭いを放つかつては魅力的な女だったものから大量の蝦蛄を剥がし浜へ持ち帰る
浜で待っていた女房たちは蝦蛄しか捕れなかったと聞くと眉をひそめたが湯を沸かし蝦蛄を湯がいた
浜で茹でた蝦蛄は皆に配られその場で食べた
女房らは頻りに
今日の蝦蛄は随分生臭いのう
と顔を寄せ合ってむしゃぶりついている
男どもは
お前らだっておんなじ臭いさせとるくせに
と下卑た嗤いで女房たちを盗み見る
不思議と男らはなんとも思わん
ただの旨い蝦蛄だった
死人で味が変わるわけは無かろうに
それでも男らは女房への負い目から誰も何も喋らんかった
抱いた女を思い出しながら女の味を反芻していた
蝦蛄 片眼の兎 @katameno-usagi
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