想定より早い開花です
──来てやがる。
玄関に誠の靴を見付け、譲は嘆息した。もう夕も過ぎて夜の頃合いだ。お嬢様学校の制服のまま夜道を歩くのは危ない。
「おいナル。暗くなる前に帰れっていつも──」
言いながらリビングに入ると、誠は既に部屋着に着替えていた。
「今日は泊まってくー」
「千早は」
「帰って来ないって。それよりご飯食べた?何取る?」
スマートフォンを投げ渡し「好きに頼め」と丸投げする。
「はー!やましいこと無さすぎじゃない?」
「余計な事はすんなよ。しかし、最近多くないか?」
「んーなんかねー」
注文操作をしながらの返事は曖昧だ。注文を終えた端末を譲に差し出した。
「『お父さん』なるものが現れたらしいよ」
「………」
誠は譲の険しくなった表情を暫し眺め、
「そりゃそっか。あたしは死んだって聞かされてたけどなー」
納得した様子でスマートフォンを押し付けた。譲は思い出したようにそれを受け取ったが、言葉が出ない。らしい、と誠は言った。まだ会ってはいないのだろう。義兄だった事もない姉の元彼についてなど、譲からは何一つ話す事はない。
「面倒臭そうだな」
「ねー」
互いに他人事のようにその話題を流し、
「マオは…寝たか」
「そうみたい。夜早いんだね」
「朝も早いぞ」
どうやら基本的に日の出から日没までがマオの活動時間らしい。呼べば出て来るそうだが、特に呼び出す用もない。
「バラ咲いてたじゃん。可愛がってるね?」
「ウザ」
譲には植物の育て方などサッパリ解らないので、マオに言われる通りに世話をしているだけだ。自分の手の上に他の命を乗せているというのはやはりストレスだと感じるが、乗ってしまっている以上落とす事も出来ない。
チャイムが鳴って、ふたりは夕飯を受け取った。
「おはようございます」
朝誠がリビングへ向かうと、朝陽を浴びていたマオから声を掛けられた。朝イチの挨拶が相手側からある事に嬉しくなる。
「おはよう!お水あげよっか」
「はい!きょうはたっぷりおねがいします」
鉢の傍に置いてあった水差しを手に取る。まだ買って間もないキレイな水差しに思わずにやけてしまう。
「たっぷりね~!りょーかーい!」
水をやってロサセアエを見ていた誠は「あっ」と声をあげた。
「蕾ついてる!?」
「はい!」
マオは誇らしげに胸を張った。
「おんどとしつどをつねにてきどにたもってくれているので、そうていより早いかい花です!」
言われてみれば、常に空調が効いている。
「へ~。何が咲くのかな?」
「さいてみてのおたのしみです!」
楽しみだね~、とふたりは笑みを交わし合った。
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