第28話 ペット達の性能試験
新しく作った子は、偵察ドローンをウィーユ、もう一人の子をフロンって名付けた。
フロンの機能は、エネルギーコアが発生させた電力を利用して、電磁投射砲──要するに、レールガンをぶっぱなすっていうもの。
そこらへんに落ちているものを何でも弾に出来るし、何ならポワンを射出して突撃の威力をアップするっていう裏技もある。
もちろん本体にも弾丸は搭載してあるから、状況に合わせて色んなものを撃ちだせる、万能砲台なの! 本体のサイズはポワンと同じくらいだけど、砲台の分一回り大きいかな?
「四つの足それぞれにスパイク付きのタイヤが装着してあるから、素早く移動しながら壁に張り付いて攻撃も出来るんだよ! すごいでしょ!」
「うん、すごいとは思うし、新しい子の力を試してみたいって気持ちも分からないではないけど……アリスちゃん、未だにサンドバッグ試験を突破出来てないってことを忘れてないよね? アリスちゃんはまだ上層でも戦っちゃダメだからね?」
「うっ……わ、分かった……」
久しぶりの《機械巣窟》に歩実さんに送って貰った後、茜お姉ちゃんと合流して最初に言われたのがそんな言葉だった。
それを受けて、後ろから配信してくれてるテュテレールの周りに、いつものコメントが浮かぶ。
"まだ静止した目標すら満足に殴れないという事実"
"これ、アリスちゃんが探索者としてまともに活動出来るようになるころには、普通に一生遊んで暮らせる額を稼いでそう"
「そんなことないから! 絶対すぐに上達してみせるもん!」
「はーい、バットは本日没収ー」
「あ~!」
私がバットを構えて宣言すると、お姉ちゃんに取り上げられてしまった。
うぅ、お姉ちゃんの鬼ぃ。
『アリス。ウィーユやフロンの性能を確かめることが目的であれば、アリスの援護は正確なデータ収集の妨げになると考えられる。特に、ウィーユの職務は索敵、アリスの力で完璧な索敵が可能な《機械巣窟》では、アリスが仕事をしてしまってはやることがなくなるだろう』
「うーん、確かに……」
ウィーユを作ったのは、機械以外に対して使えない、私の索敵能力を補うため。
そう考えれば確かに、今回は戦わない方が良いのかもしれないね。
「よし、分かった! ポワン、ウィーユ、フロン! 今回はあなた達だけで上層を攻略するんだよ! 無理しちゃダメだからね?」
『りょ、りょりょりょ』
『了解、解』
『アリス、守る、守る』
ポワン達が、私の指示にそれぞれ応答してくれるんだけど……うん、やっぱりまだまだ受け答えが甘いなぁ。
テュテレールみたいな高度な人工知能は、私には難しい。
『敵、発見、発見』
言語モジュールの改善点について考えていたら、ウィーユが早速敵を見付けた。
もう何度見たかも分からない、機械バッタ三体の群れだ。私が未だに自力で突破出来ていない相手。
さあ、ポワン達はどうするのかな?
『せ、せせせ』
『戦闘、かかか、開始』
まず始めに、ポワンがロケットで飛び出して、機械バッタを一体倒した。
ここまでは、いつもの流れ。問題は、次から……!
『────』
『回避、回避』
機械バッタが二体、空を飛ぶウィーユを狙って飛び出した。
それを、ウィーユは体の四方に取り付けられたプロペラの向きを変えてひらりと躱し、唯一取り付けられた武装──電磁ネット弾を起動する。
『ほ、ほほほ、捕獲』
発射されたネットが二体の機械バッタに取り付き、バチバチ!! と火花を散らして行動不能にする。
ガシャン、と落下した二体に向け、待ってましたとばかりにフロンが砲台を構えた。
『た、ターゲット、撃滅、滅』
発射されたのは、金属の矢尻。
電磁力によって生じた斥力が、凄まじい勢いでそれを発射し、音速の壁を叩き割った衝撃が爆音を奏でる。
バチバチ、と小さな火花を散らしながら飛翔した矢が二体の機械バッタを綺麗に貫き、あっさりと粉砕。ついでに、勢い余って飛んでいった矢じりが、ダンジョンの壁すら打ち砕いたところで──見事に、戦闘が終了した。
『戦闘、終了、了』
『や、ややや、やった、やった』
『アリス、ススス、褒め、て』
「うん、みんな、よくやったね~」
機械バッタの残骸を回収しながら、私は三体のロボットペット達を褒めてあげる。
けど、その一方で……ちょっとばかり、納得いかないこともあった。それは。
"あっさり勝ったなあ、全く危なげなし"
"まあ、だって上層だもんね"
"ポワン一体でもそう負けないでしょ"
"やっぱりアリスちゃんいない方が強かった"
「そ、そんなことないもん!!」
みんなが口を揃えて、私が戦闘に参加してないから簡単に終わったと言ってくることだ。
人を足手纏いみたいに言わないでよ、もう!
『だ、だい、大丈夫』
『僕ら、負けない、ない』
『アリス、守、守れる』
「えーっと、みんな……油断は禁物だからね?」
まるで、視聴者のみんなに同意するように自信を漲らせるポワン達に、一抹の不安を覚える。
そして、それはさほど時間も置かず、現実のものとなった。
上層に入って凡そ一時間後。ポワン達は無傷のまま上層のモンスター達を薙ぎ倒し続け、中層にまで足を踏み入れたのだ。
そう、私がいたら機械バッタにも勝てなかったのに。勝てなかったのに!!
「…………」
"えーっと、アリスちゃん、元気出しなって"
"そうそう、たとえアリスちゃんがポンコツドジっ子でも、可愛いからよし!"
"可愛さなら誰にも負けてないよ、アリスちゃん!"
みんな慰めてくれてる……んだろうけど、ちっとも嬉しくない!
「うぅ、このままじゃあ私、テュテレールの配信とポワン達の探索報酬で養われる、完璧なヒモ女になっちゃうよ……!」
「ごめん、それの何が問題なのか分からないわ」
アリスちゃんって変わってるわよね……と、お姉ちゃんがボヤく。
確かに、ただ生きていくだけならテュテレール達に全部任せて、私はみんなの整備とかだけしてればいいのかもしれない。
でも、それじゃあダメなの。私は、ちゃんと自立したい。
自立して、稼げるようになって、それから──
『……アリス、どうかしたか?』
「ううん、なんでもない」
テュテレールを見ていたことに気付かれちゃったから、そっと目を逸らす。
どうしたのかって、少し訝し気な視線を送られているのを感じた私は、慌てて取り繕うように走り出した。
「ほら、そんなことはいいから、早く先に進もう! 上層じゃあポワン達の性能がいまいち試験しきれなかったし!」
『待て、アリス』
「ふえっ!?」
そんな私を、テュテレールが急に制止した。
どうしたのかと戸惑う私……じゃなくて、その足元に、テュテレールはじっと目を向けている。
なんだろう、と思って目を向けると……そこには、倒れている人間がいた。
って、えぇ!?
「だ、大丈夫ですか!?」
もしかしたら、モンスターにやられて怪我をした探索者かもしれない。
そう思って声をかけるけど……返って来たのは、予想外の言葉だった。
「う~……もう呑めない……」
「…………」
むわっ、と漂って来る、お酒の匂い。灰色の髪を肩につくくらいまで伸ばし、ボロボロのコートに身を包んだ女の人が、涎を垂らしながらごろんと寝返りを打っている。
ちらりと振り返れば、お姉ちゃんはあんぐりと口を開けたまま硬直し、テュテレールもどこか呆れた様子で声を発した。
『外傷なし、意識レベルはやや低下、呼吸、脈拍、体温全て正常。……一般的な泥酔状態にあると判断する』
なんで、こんなところに酔っ払いが?
そんな私の疑問に答えられる人は、視聴者のみんなを含め、その場に誰もいなかった。
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