幼なじみの男の子じゃだめですか?

有栖

1話 言えない気持ち

チャイムが鳴りお昼休みに突入し、教室内では色々な声が混じる。

お腹が空いた僕は、早速可愛い猫柄のお弁当箱を持って、傑と屋上へ向かう準備をする。

傑と短距離で記録更新をしたとか、英語の授業が難しいとか、そんな他愛ない話をしていると、突然女の子に声をかけられた。

綿密に言うと、"僕に"ではなく、"傑に"だ。


「傑君!」


「私と一緒にお弁当食べよう?」


不安でドキドキする僕の胸中とは真逆に、傑は平然と美しく微笑んでいる。

毎日の如く、今日も傑と同じ時間を過ごしたいという女の子が来た。

確かにその気持ちもわかる。


何色にも染まらないストレートな艶々な黒髪に、沈みかけた太陽のように、身を焦がす程赤く染まる赤い瞳。

僕の好意抜きでも、顔良し頭良し性格良しスポーツ万能という、絵に描いたような傑は、男女問わず人気があってとにかくモテる。


傑のそばにいると、こういうことが多いから、いつまで経っても慣れない。

僕も一緒に食べたいし、どうしようと焦っていた時、傑は徐ろに口を開いた。


「ごめんね、 先に雪也と約束してたから。」


「また今度誘ってほしいな。」


そう言って、誰からにも愛されるような笑顔を見せる。

でも、その笑顔を僕だけに向けてくれたらいいのになんて、駄目だよね。



「ごめんな雪也、大丈夫か?」


傑は心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

至近距離で均整な顔に見つめられ、思わず目を逸らしてしまいそうになった。


「大丈夫だよ、傑って本当にモテモテだよね。」


なんとか顔に出さないようにして、嫌味も少し込めて言ってやった。

意地悪だったかな?

けれど、実際に告白されている場面を目撃してしまうことも多くて、毎回違う場所で待たされる身にもなってほしい。

その度に僕の心は毎回穏やかではない。


「そんなこと無い。」


「雪也も一部の人に好かれているだろ。」


僕が好かれている?一部の人に?

物好きな人だなぁ(失礼)

しかし含みのある言い方が気になるから、思わず聞いてしまった。


「一部の人って誰?」


「内緒。腹減った、早く食べようぜ。」


上手い具合に話を逸らされてしまった。

そんな風にはぐらかされたら、人間は余計気になる生き物なのに。

でもお腹は空いていたし、傑の言葉に素直に従った。



屋上に着き、いつもの特等席に腰をかけた。

7月の上旬頃だから、太陽の陽射しは眩しく少し暑いが、屋上は風に吹かれるから気持ちいい。

セミの鳴き声がけたたましく続いている。


お弁当箱を開き、自分で作った卵焼きを口に運ぼうとすると、すかさず傑がキラキラとした目でこう言った。


「あ、雪也。卵焼き欲しい!」


傑は卵焼きが好きなのか、毎日1つは僕のお弁当から消える。


「卵焼き? 仕方無いなぁ。」


嬉しく思いながら僕は、上手く焼けた卵焼きを渡した。

美味しそうに頬張る姿を見て、こっちも食欲が湧く。


「ありがと!雪也の卵焼き美味しいんだよな。」


「ちゃんと噛んでね?」


それにしてもよく食べるなぁ。

僕は少食気味だから、よく食べる傑を見て凄いなと思う。

なのに傑は全然太らなくて、程良い筋肉が男らしさを主張している。

僕なんか筋肉なんて一つも無いのに。

筋トレしてみようかな?


「雪也。」


不意に名前を呼ばれ、傑と目を合わせる。

なんだかちょっと笑いを堪えているような?


「?」


頭にはてなマークを浮かべていると、傑の長い指が僕の頬に触れた。

後少しで唇に触れそうな、ギリギリのところまで指が近づいてくる。


ーーーうそ、ここじゃだめ、


「ほら、ご飯粒付いてた。」


そう言いながら、傑は指についたご飯粒を見せつけてくる。

恥ずかしすぎて直視できない。

少しでもやましいことを考えた自分を殴りたい。


「あ、ごめん。ほら、これ使って。」


そう言ってティッシュを渡したのだが、傑にはいらないと返されてしまった。

そのご飯粒はどうする気なのだろう。

疑問に思っていると、傑がご飯粒を口に放り込んだ。


「え!?」


何してるの!?

ご飯は1粒残さずという精神は素晴らしいけど、さすがにこれは。

傑は意地悪な顔をして僕を見つめている。

恥ずかしい、変な顔しているだろうから見ないで。


「ご馳走様。」


触れられた箇所がまだ熱を帯びている。


どうしよう、勘違いしてしまう。

きっと傑は僕の気持ちに気づかずに、こういうことをしているんだ。

この気持ちは絶対に抱え込むと決めたのに、揺らいでしまう。

僕の決心はこんなにも軽かったのか?


「雪也?どうした?」


「ううん、なんでもないよ!」


傑を心配させたくないから、僕は無理やり甘い卵焼きを口に詰め込んだ。


絶対に明かされないであろうこの想いと共に。

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