第229話 理緒の独白



 ――あたしは何のために生まれてきたのか。


 そう問うた時、返ってくるのは多分くだらない綿のようなスカスカなもの。


 優秀な人間に。認められる人間に。強くて誰にも負けない異能士に。なりたい。

 玲奈さんに失望されないような霞流家の当主に。なりたかった。


 そうして、色々なことを間違えた。


 そうだ。人は正しく生きていくなんてできない。間違えて、スカスカになって。

 そうやってスカスカな毎日を送っていても、それでもいつか大切なものに出会えると。そう信じて生きた。


 その果てに。

 間違って、誤って、過って、そうやって手に入れた――。


 ――幸せがある。


 ギアがいる。


 あたしには、統也が居てくれる。


 あたしはただ……統也と一緒にいれればそれでいいんだ、ほんとは。


 世界なんてどうでもいい。もっと言うと、統也の秘密だってどうでもいい。統也の目的もあたしにはよく分からないし。


 だから。

 

 彼のギアとして並んで立っていられれば――それでいい。そうやって一生を過ごせれば――それでいい。それ以外なんて別に欲しくない。


 ただ統也だけが、欲しい。


 統也さえいてくれたら、なんでもいい。


 彼だけがあたしを心から満たしてくれる。


 彼だけがあたしをちゃんと理解してくれる。


 大好き。


 彼しかいない。





 こんな時ふとあたしの頭によぎるのは、あたしの存在価値。統也基準の、あたしの価値。


 まるで磁石の同極のように統也に追いつけないことが、あたしの中の苦しみ。最大の悩み。


 統也は足が速いから――決して追いつけない、自分に対する憤り。


 ずっと孤独で、ずっと強者で。そんな彼にあたしは、一ミリも追いつけない。


 きっと彼はこの先も独走を続けていく。孤独な強者のまま走り続けていく。


 けど、それに追いつけないと、彼のギアとしては相応しくない。


 このままだと一生並べない。


 統也は、一生をかけてオレと並べればそれでいいんだ、っていつものように優しく言ってくれた。


 でも、あたしはそうは思はない。


 それじゃ納得できない。

 

 彼はいつも正しいことを言うから、それが正しいと理解していても。






 統也。


 あなたに、追いつきたいよ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る