第206話 みことの場合【1.5】

※R18の性的描写が含まれます。そういう描写が苦手な方は自衛をお願いします。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



  *



 クリスマス。二十三時三十二分。

 オレ達は大通公園のイルミネーションイベントに居たが、「家泊まる?」という問いにオレは頷いてしまった。

 けして、やましい考えがあったわけではない。

 単純にみことの傍に居る方が彼女を護衛しやすいと検討したまでだ。


 そうして、幾つもの特殊仕様結界を預かった呪詛の権限で潜り抜け、玲奈のプライベートハウスにお邪魔すると、玲奈や命がアイドルとして得た名声の証としての数々の賞状が壁に散見された。


「凄いな」


 純粋に、そんな感想が口から出た。

 忘れていたわけではないが、映画監督とのツーショット写真、芸能関係、紅白の集合写真など、二人がどれほど有名な人物であるかが再認識できる。


 みことは何も言わず、というよりか、さっさと落ち着きたいといった様相で、質素な自室を案内した。

 奥には玲奈と書かれたタグがかかった扉もあったので、そちらが玲奈の部屋だろう。今紹介を受け、侵入したのが命の部屋。 


「そこ、座って」


 命は意外に質素な部屋を軽く紹介したのち、自らのベッドの端にオレを座らせた。


「ああ、分かった」


 問題はそのあと起こった。


 ――横から、みことが急に抱き着いてきた。


「ん?」


 二人きりの部屋、時刻は午前零時。命の衣服か髪か知らないが、甘い匂いと、それとは別の、シャンプーか何かのフローラルな香りが充満している部屋でそんな行為を受け、平然とできる男子の方がおかしい。

 オレは不覚にも、情欲に近い何かを掻き立てられた。


「ごめん、こんなことして……」

「いや」

「なんて返せばいいか分からなくなるよね……。ごめん……」

「そんなに謝らないでくれ」


 命は大事なものを捕まえた、というようにオレに密着してくる。抱き着くというより、密着。 その手を放す気はなさそうだ。

 だが、オレにも自制心はある。


「命、取りあえず離れてくれ」

「どうして?」

「『どうして』? アイドルとその辺の男子が抱き合うなんて、事務所やファンが知ったら怒るぞ」


 オレも命もベッドに座ったままだったが、彼女は相変わらずオレに抱き着きオレの胸に顔をうずめ、全身の密着を継続している。


「どういうこと?」


 なぜか少し怒ったようにそう訊いてきた。


「そのまま意味だ」

「じゃあ何? 統也は私がアイドルじゃなかったら、抱き合ってくれたの? そういうこと? そう……だから霞流さんとは抱き合ったりしてもいいんだ。へぇ……統也くんってそういう人? 私分かんないよ、統也くん」


 彼女の情緒が崩れてきた。でも、主な原因は分かっている。

 さっきまで当たり前にあった楽しい時間。

 そう。デートを満喫し過ぎたのだ。それはまるでカップルのひと時のように。

 だがむしろそれが現実との乖離状況を物語り、彼女へ現実を突きつけた。

 “本当は付き合ってない”――と。


「統也くん……私……」

「すまないな、オレが悪いのかもしれない。オレが君の気持ちに応えてあげられないせいで」

「ううん。私、そういうの嫌い。統也くんが『自分は一生恋をしない』って言ってるような気がして」

「いや、間違ってない。選べないような人間に、恋するに足る資格はない」


 そう。オレは。里緒も命も茜も。言うなれば三人とも大切なのだ。

 でも、社会的に、恋愛的に、そんなことは許されない。


「選べない? ってもしかして、統也くん……私のことは好きなの?」

「好き? ……まあ、そうだな。ああ、そうなるかもな」


 意味が理解された、そうなれば普通は非難の対象となる。どんな言い訳のもので話を進めようと、形式上三股という体なのだから。

 でも、命はなぜか嬉しそうにほほを緩ませる、オレの胸の中で身動きした。


「私と統也くんが、両想い? 嘘……」

「いや待て。それは決定的に違うだろ。オレは――」

「――分かってるよ。最低だね統也くん。まったく酷いよ。浮気者! 選べないなんて最低!」

 

 最後の方、冗談めかしの可愛らしい非難を受けるが非難には変わりない。


「冗談で言ってる場合か?」

「うん、冗談にできるよ。統也くんには分からないだろうね、私の気持ちなんて。霞流さんと私の二人が好きって言われて、怒るべき場面なのは分かってる。でも、それ以上に嬉しいが勝ってる。きっといずれは独占欲に塗れていくんだろうなって思うけど。でも、今は少なくとも嬉しいって思っちゃってる」


 オレは特級という異能界に置いても一線画す存在でありながら人並みに「大切」を持って生きている。その事実がオレを現実に引き込む。闇に引きずり込む。


「命、離れてくれ」

「やだ」

「離れろ。オレには、君の気持ちに応える資格なんかない」

「あるよ。なんで分かってくれないの? 私はただ、統也くんと一緒に居られればそれでいいの。それだけで幸せなの」

 

 しかしオレは半ば無理やり命を引きはがした。


「むぅ……」


 オレを嫌いになってくれるかと思って心を打ち明けたのに、逆効果だったとはな。


「もういいよぉ」


 そう言ってふてくされた命は、ふくれっ面をしながら部屋のドアの方へ向かい、いきなり部屋の電気を消す。


「は?」


 それは事前通告、宣言なしの突然の消灯。

 瞬間的に一帯は暗闇になる。


「何をしてるんだ?」


 オレが言ったその時、気配が正面に来る。そして信じられないことに、目の前の命がオレを押し倒してくる。

 オレも別に戦闘体勢ではないので、難なく押し倒され、ベッドに仰向けになった。


「私がこんなことするの、意外?」


 今だけは、それが妖艶な魔女からの問いだと勘違いできた。



  *



「ああ、かなり意外だ。随分と大胆だな」


 統也はそれだけ言った。

 私は何の躊躇いもなくベッドに押し倒した統也の唇に自分のそれを重ねる。

 瞬間、私の唇に訪れた想像を絶する快感。急に全神経が活性化され、身体中が喜んでいるのが分かる。


 ただのキスなのに、こんなに気持ちいの?

 おかしいよ。こんなの。歯止め効かなくなる。


「命、今自分で何をしたか、分かっているのか?」

「うん、もちろん。分からないわけないよ」


 少しずつ目が慣れてきて、下に居る統也の表情が見えた。

 闇夜からの外光は微かにカーテンから漏れてくる程度だけど、関係なくて。


「私はアイドル失格。ファンを裏切るなんてありえないよ、最低過ぎて。そもそも私がアイドルになった理由が不純だったのかも。統也に認められたい、好きになってもらいたい、有名になって見つけてもらいたいって」

「目指す理由なんて人それぞれだ。それが理由だからって失格になったりしないさ。問題は今の命がどれだけ本気かってことだ」


 変なこと聞いてくる人。

 二人も好きになっておいて、二股も同然のことしておいて今更「本気か」なんて。


 正直言う。霞流里緒さんと付き合うより私と付き合う方が有益で、楽しい時間を提供できる。絶対に統也を幸せにしてみせる。

 でも、統也はそんな低俗な尺度で女子を見てない。人を見てない。きっともっと違う視点で私達を見ている。


 だから。無理やりにでも意識させる。

 もっともっと、もっと。私が居ないとだめ、っていうくらい依存させて。


「あぁ……」


 好きだよ統也くん。……好き。どうしようもないくらい。壊れちゃいそうなほど。

 ただ、あなたが好き。

 これを今、この場に生まれる変な雰囲気の感情に流したっていい。そう思える。


「――してよ」


 私はそれだけ言い放った。

 確かに統也に言われた通り、自分で何をしてるのか、何を言ってるのか、理解できてないような状態でフワフワしてるかも。非現実的な感覚だけが意識に纏わりついて、わけがわからなくなる。

 ステージに立っても湧かなかった、確かな非日常の不思議な味。

 すると統也は何を思ったか、甘い、神妙な面持ちを見せ、下からキスしてくれる。

 

「えっ……統也くん?」


 嬉しい気持ちを隠しつつ心臓を鳴らしていると、その熱は途絶えた。


「これで終わりだ」

 

 なるほど、ね。道理で一回キスしてくれたんだ。

 これで終わり。あくまで「しない」ってことね。


「無理、だよ」


 一言、きっぱり言い切ってみる。


「これ以上は本当に取り返しがつかなくなる。それを理解してるのか」 

「つかなくていい。私を抱いて」

「……駄目だ」

「『無理だ』じゃなくて『駄目だ』なんだ? できるけど断ってるってこと?」

「命。オレでも怒るぞ?」

「いいよ。統也は優しくて、私に怒れないの知ってるから」


 知ってるんだから、大大大大大好きな統也くんのことはなんでも。


 誕生日12月12日。身長175cm。AB型。極度の冷え性なのに、なぜか普通の手袋はつけない。甘い食べ物が好き。特にショートケーキが好物。マフラーの巻き方はいつも後ろ流し巻きか半周巻き。私服が少ないのか外出時スーツかパーカーが多い。筋肉質な体を隠すためか長袖を好む。前髪が長いと切るのが面倒になり七三分けにする。意外に髪はさらさら。耳の聞こえは人より悪い。腕時計を偶に付けるけど、霞流さんと出かけるときだけは付けない。目が青く反射するときがあるけどよく分からない。


 そして、うなじに―――。


「…………」


 私は仰向けになる統也のうなじに右手で触れようとすると、彼は人間とは思えない早業でその手を止めてくる。


 まぁいいや。


 ―――謎の装置を隠してるんだよね?


「してよ、お願いだから。私を抱いてよ。この寂しい空洞を、埋めてよ。統也くんに奪って欲しいのに……私ってそんなに魅力ない? 性欲湧かないほど? ……傷付くなぁ」 

「言いたい放題だな」


 少し怖い顔で言ってくるので、私はちょっと委縮した。


「どうなっても知らないぞ。だが、その前に――」


 言って立とうとしたので、私は慌てて統也の肩を押さえてベッドに押し付けた。


「大丈夫。避妊具だよね?」


 統也は何も言わなかったので図星だと分かった。


「そこの、ベッドの棚に入ってる」

「随分と用意周到だな。勝手に開けていいのか?」

「どうぞ」


 

  *



 みことを下側から引き寄せ、素早く反転、今度はオレが命をベッドに押し付ける形をとった。


「わ、強引」


 本当はこんなことをしてはいけないと、理性では分かっていた。

 いや、これは言い訳だ。オレの弱さだ。

 それでも。


 ゆっくりと命が纏う衣服を脱がしていく。

 その度を罪悪感がオレを襲った。

 でも、彼女もオレを脱がしていくので、幾分かは薄れた。

 無論チューニレイダーはミスディレクションで脱衣した衣服類の中へ隠した。


 異能士は普通の価値観や人生観を持っていると、必ずと言っていいほど潰れる。やっていけないのだ。

 確かに特級と冠され、他から強いと言われるオレにも普通の感性は欠損している。

 だが、目の前の原初的な欲求には勝てない。こんな艶めかしい裸体を見せられた時、平常でいられる男の方が異常なのだ。


 背が低くてもプロポーションが完璧。お椀型で豊満な胸、長く美しい脚。低身長でもスタイル抜群なわけだ。

 骨格や肉付きなどの持っている体型素質がいい意味で際立つ。

 何より、綺麗な肌がそれの白さと柔らかさを強調している。

 言い訳のできない悩殺ボディ。


 オレにとってこれほど面積の多い女性の肌を直視するのは初めての経験。

 彼女を裸にしきったときにはもう、既にオレは人ではなかったのかもしれない。理性のない獣へと変わっていたのかもしれない。

 オレは両肩を掴み、容赦なく彼女の唇へキスをする。


「んっ……あむっ……んんっ……ん……」


 何度も何度も彼女とキスをした。唇と唇が触れ合うたびに性感が高まるのを自覚しながら。

 いつの間にか互いの舌が伸び、繋がる口内で舐め合う。命は積極的で、むしろをオレを求めてくる。オレの首をぎゅっと掴んだまま、息を荒くしていく。

 互いにベッドに座り――オレはベッドの端に座り、命は女の子座りで――そのまま裸体を密着させ、思いっ切り全面をくっつける。

 

「んっ、統也くん……好き……」

 

 クリスマスの静かな暗闇の部屋、淫らな水音は鳴りやまない。


「統也くん、もっと……もっと」


 いきなり過ぎたか、と思っていたが、命が案外乗り気だったのでオレは言われるがまま、口づけ位置を彼女の唇から細い首へずらし、さらに首から柔らかい右胸の先にある突起にずらす。


「んん……!」


 口を押さえ、何かを我慢する命。


「他に誰もいないんだ。声とか我慢するなよ」

「無理……。急に恥ずかしくなってきた……」

「そうか。もうやめないけどな」


 言って今度は左胸の先をすっぽりと口の中に収めた。


「ぃん!」


 オレの無宣告攻撃に甲高い声を漏らした命に構わず、唇で固いしこりを噛みながら、舌先で尖った先端を転がす。


「ねぇだめ、それだめぇ!」


 びくん、びくんと全身を痙攣させながら、小さな悲鳴にも似た声を上げてオレを押し離そうとする命を右手でしっかりと抱きかかえ――、


「悪いが、始めたのは命だ」


 ――オレはそのまま彼女を少し引きはがし、座っているオレの脚に乗せた。すると彼女は抵抗なく乗ってくるが、一瞬でも離れたのが嫌とばかりに、すぐに赤子のようにくっ付いてくる。

 向かい合うオレ達は互いに引き寄せ合った。いわゆる対面座位で。


「統也くん、温かい……。凄く安心する。胸のこの空洞が、簡単に埋まっていく……」


 感傷的に言ってる最中に悪いが、オレは左手の人差し指と中指で、彼女の秘裂の周囲を刺激した。あえて中心に触れないようにしながら。


「ねぇ、なんでそんなイジワルするの?」


 甘えた声で言い、オレの体に両腕を回し、肩先に頭を押し付けた。

 

「んくっ……そこっ……やっ……」


 指の動きに沿い、嬌声を漏らすが、その声は次第に切なげにかすれ、首を振りながら全身をもじもじとくねらせる。


「あうぅぅ……そんなの……だめ! 焦らさないで!」


 あまり意地悪し過ぎるのもどうかと思い、オレは中指を徐々に中心に向けた。


「はうっ……きゃうんっ!!」


 命が一際高く鳴くのと同時に、オレの指をぬるりという感覚が包み込んだ。

 その秘所は、熱く潤み、とてつもなく柔らかく、指を押すがままにどこまでも呑み込んでいくようで、オレは思わず二本の指を速く動かした。


「あーっ!! だめっ!! だめぇーっ!!」


 命は我慢の限界といった様子で、両手の爪をオレの背に立てた。力加減からおそらくオレの背中には爪の痕が付いているだろう。


「はぁ……はぁ……」


 だがオレも別の意味で限界だったため。強引に命の体を引き寄せる。

 すると、全て理解したような甘えた表情で――。


「いいよ、統也くん……きて」


 そう告げてくる。


 自分でも、何をしているのか、と疑問に思う。

 ただ、彼女からの誘惑に負け、しているのか。それともオレはこうなることを望んでいたのか。


「おっき……」


 オレはそう呟く命を強く抱き寄せ、オレのものを彼女の中に侵入させ始める。

 一瞬抵抗を感じたが、それでもすぐに柔い感触と同時にオレの先端部分が命の内部に入った。


「はんっ―――」


 そう甘い声を漏らす。 

 オレも、自分の先端部分からとてつもない快感が全身に広がるのを感じ、少々困った。

 腰に手を当てがい、そのまま突くと――。


「ひあっ!!」


 命は体を震わせて喘いだ。



  *



 そのまま数分が経過しても、股間同士がぶつかり合い小さくパンとなる音は断続的に響き渡っていた。

 オレと命は欲情するままにお互いの全面を密着させ、対面座位で腰を振り合った。


「――あぁぁんっ!! ひああぁぁぁっ!!」


 頭を激しく振り、がくがくと体を揺らしながら、命は叫ぶ。

 もしかして痛いのか、と思いいったん動きを緩める。


「大丈夫? 痛くないか?」

「ん、ん……だいじょぶ。それより、まずいよ。これ想像以上に………気持ちい」


 痛覚より、快感が勝つという認識でいいのか。

 だが、まずいのはオレの方だった。澄ました顔をしているが、こっちもかなりやばい。

 結合の際の快楽、その挿入欲に抗えず、再び腰を突き出す。

 

「んぅっ、ん、あぁぁぁぁっ! これ……だめかもぉ……!」


 強く抱き合ったり、オレ自身が腰を動かすことで乱れる命をまじかで見れた。

 彼女の無防備な首筋へ接吻していく。


「統也くんっ、だめ、それっ、あんっ、んんんんんっ――!」


 腰の動きは止めない。


「ねぇ、やっぱり待って! んん、ぁああああ! 想像よりまずいかも! ねぇええ!! 統也くん?? あああんっ!! んあぁぁぁーーっ!!」

「待つ?」


 待てと言われたのでオレも怪しいほど乱れていた呼吸を整え、動きを止めてみる。

 互いに真冬とは思えないほど火照る身体を実感した。


 すると「待って」は言葉のあやだったようで、少し怒った顔で「動いてよ」と訴えてくる命。

 実際に口にはしなかったが分かる。

 我儘な子だ。


「統也くん、ね、ね、早く……。ね、ね……ねぇええ」


 催促してくる姿がかわい過ぎたので、動くのを再開する。


「んん、凄い……統也くぅん……」


 いつの間にかかいていたオレの汗は命のベッドに沁みてゆく。

 命も気付けば汗だくだった。胸の谷間が信じられないほど濡れている。

 これがアイドル「SAY ME」のセンターポジションをよくやる森嶋命の姿、そう思うと余計に込み上げてくるものがあった。

 

「うぅぅん! だめぇ! おかしくなるぅっ!」


 命はオレと対面したまま身体を大きくのけ反らせ、もう無理、とアピールしてくる。


「……いっちゃう! いっちゃう!」


 その綺麗に浮き出た肋骨にキスをするとそのまま右胸の突起まで口を運ぶ。


「あぁぁぁーーーー!!!」


 普段は穏やかで、完全主義で、どこまでも完璧を求めるアイドルで、オレを好きでいてくれる黒髪ロングの天使。

 そんな彼女は痙攣し、たった今絶頂に達した。

 その証拠にオレのものを何度もしぼるかの如く締めつけてくる。

 

「ごめんね、私だけ気持ちよくなって……」


 大丈夫、と首を振った。

 元よりオレは気持ちよくなってほしいの方が比重が大きい。


「ねぇ、やっぱり好きだよ統也くん……」


 彼女はオレの肩口に顔を押し当てながら、涙を流したとすぐに分かるほどの水滴を脚に落とす。

 その涙は卑怯だった。


「もう一回、するか?」

「ううん。もう一回はやだ。それじゃ満足できない。統也くんが果てるまで、したい」

「……分かった」



 オレは快感に溺れながら、欲に飲まれながらも考えた。

 正常な理性判断が出来なくなっていく様を手に取るように感じながら――。


 こんなのは愛じゃない。ただの性欲だ。

 互いに空いた心の隙間を埋め合って、互いに貪り合って、求め合って、快楽に溺れて。


 でもどうしようもなく気持ちよくて、心地よくて――。


 それを受け入れてくれる命がオレにとって可愛かっただけだ。

 とどのつまり、それは愛じゃない。


 オレが本当に好きなものが消えていく。失われていく。

 オレがノンフェイルターで彼女を可愛いと思えたのは「笑顔」だったはず。

 でも。



 オレと命はこの後もずっと……互いに何か大事なものを捨てる覚悟もないまま、それを埋め合うように、罪悪感を押し潰し合うように……一晩中、激しく求め合った。



 


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