第六章 三宮報復編
第[108]話 紫紺石の正体
*
深夜の森。
「ん? これは……」
オレは直近の影人討伐任務を果たし、最後の紫紺石を拾い上げた。
この任務、影自体はD級なので秒殺したのだが――。
「え、どうかしたの?」
里緒は紫紺石を三つ抱え、こちら側に来ると傍に着くなり不思議そうにオレを見た。
「ああ、少し気になることがあってな」
オレは、その紫紺石が有するマナの性質を浄眼で見て、あることに気が付いた――。
*
翌日。
8月3日、14時頃。夏休み中とはいえ普段通り異能士学校に行くため、雑木林に隣接する静かな道を歩いていた。
鳥のさえずりや、蝉の鳴き声がわあわあ騒がしい。
「丁度いい温度だな」
木々から透き通る緩やかな、生暖かい夏風も嫌いじゃない。
極度の冷え性かつ寒がりのオレにとって、この気温や湿度は最適環境。永遠に続いてほしいものだ。
「ん?」
オレの首後ろ、正確にはうなじの辺り……中枢神経や脊髄が通り、マナがよく通う器官系付近に装着された装置、チューニレイダーから青い発光の反射を手首越しに確認。
オレは手馴れた手つきで同調装着に電源を入れ、一定の操作をする。
「何か分かったか?」
『うん。昨日の統也の話……アレの成分分析と物体解析の結果』
「調べるのが随分と速いな」
『こっちにサンプルがあったから』
影が死滅する直前、奴らの身体中央部から突然生成される謎の紫色
最近は弱点となる
ファンタジーで多々扱われる、魔物を倒した際に生じる魔石のような宝石類だとオレや茜は推測していて、以前から何らかの意味があるものではないかと考えてはいた。神話や創造にその話があるのは何かを起源にしているからではないか、と。
だがまさか、あの一族と関係あるとは誰も夢にも思わないだろう。
その紫水晶が何かと繋がることは元より予想していたし考えてはいた。
初めはただの仮説だった。
『結論から述べると、紫紺石の成分は―――――
「……やはりか」
紫紺石が紫色のクリスタル、宝石アメジストと似ていると知った時から、オレはこれの可能性を想定していたが確証が持てなかった。
ある程度の確証を持てたは昨日。
『自然界の水晶は一定の模様配列を持っているんだけど、マナを含む異能クリスタルはその特異性からか特別な結晶配列に作り替っていて、より硬質化する仕組み』
「だがそうなると、白夜家が影人を作ってるのか? いや、そういう訳でもない気がする。これだけの論証が立てられる以上、無関係では無いだろうが、白夜一族が創った生命体なら雪子が知らないはずがない」
『私もそう思う。どちらかと言うと逆……むしろ影人の能力の一部を白夜一族が引き継いだという考えはどう? 他には、コアとして成立するために必要な過程が水晶体構築で、とりわけ『霜』を利用してる、とか』
「悪くない。いい線いってると思うが」
『でしょ?』
相変わらずの感情のない茜の声。凍てついた澄んだ声。綺麗で透明感のある声。
だがもう聞き慣れ、むしろ心地いいまである。
「だが、だとしても今のオレにはそれを探るだけの権限がない。せめて
『そこまで焦らなくていいと思う。と私が言ってもあなたは聞かないだろうけど』
「それは分かっているつもりだが、これ以上何も知らない人間が死んでいくのを待つことはオレにはできない」
この考えは、アドバンサーとしては不要。おそらく否定されるだろうな。
そう思っていたのに――。
『別にいいんじゃない? 好きにしなよ。……私はただ、あなたの補佐をするだけ。いつも通りに』
それを聞き少しほっとした自分がいた。
「いつもいつも、すまなく思う」
オレの行動を縛らないこのスタンスが嫌いじゃない。
この天霧茜という中尉には何度も救われている。彼女の目立った活躍はないが、今のオレにとっては必要不可欠以上の存在となっている。
『んと……私、統也に何か悪いことされてるっけ?』
「いや、そういう意味じゃないが、いつも負担をかけていると思ってな」
『負担? 全然。これが仕事だと分かっててやってる。……それより感謝して。謝罪されるより、感謝の言葉を言われる方が嬉しいから』
率直に話すと、後半の内容をどこまで本気で言ってるのかオレには分からない。
彼女の声のトーンから察するに冗談を言っている気もする。
「ああ、分かった。今までありがとう」
『いや、それ別れ際のカップルのセリフでしょ?』
「そうなのか?」
『じゃないの? 『今までありがとう』って、もう別れるみたいに聞こえない?』
「まあな。ところでKは恋人とかいるのか?」
『は、はい? 何の話?』
これだけ大人っぽく冷静沈着で、清楚感ある性格なら相当男性からのアプローチもあるだろうと予測できる。
ならば今の彼女に恋人らしき男がいたとしても何ら不思議ではない。
「だから彼氏とかいないのかって」
『仮にいたらどうするの?』
「いや、どうもしない」
ただオレの心の奥がモヤモヤするだけだ。
『ふーん……彼氏くらいいるよ、それは』
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