第17話 転入【2】
「ちなみに影の生き残りが青の境界内に潜んでいるということは、国民にあと何年くらい隠せる予定なんですか? 今、境界内の影たちが劣勢で人類を支配できるだけの力も時間も余裕もないことは理解されるかもしれない。ですが、この北海道地方のどこかに奴らが居るという事実だけで、国民は簡単に恐怖できる」
「……そうね。あなたの言う通りよ。たとえ全てが暴かれたとして、我々異能士が影を抑え込めてると説明しても、国民は容易く『安心ね』とは言ってくれないでしょうね。それに。せいぜい隠せて四、五年の間と言われているわ」
「たったの四、五年? なにか対策はしてあるんですか?」
「おそらく、そんなものはないわ。でも仕方のないことでもあるのよ……。『青の境界』は影人を完全に排斥していると考えられていた。それが世界蹂躙のトラウマから人々を救い、安全に暮らしていけるという安心感を与え続ける、いわば撒き餌だった。だけど、どういうわけか影人の生き残りが数体だけ境界内に侵入し、そののち繁殖したと考えられている。ただの仮説ね? 実際には奴らに生殖があるのかということさえ不明なんだけど……。さらに、境界内のどこに隠れているのか、どんなに世界中を調べても影人の形跡すら見つからない。どうなってるのよ。しかも青の境界は物理的な貫通どころか電磁波ですら通さないダイヤモンドのようなバリアよ。あれをくぐり抜ける方法なんてないわ」
「そう……ですね」
だが。影がIWに潜んでいると、たったの5年程度で暴かれるというのに政府や異能士協会が無策でなんにも処理をしないわけがない。なにか策はあるはずだ。
だが……それでは遅いかもしれない。
IW内の影の発生原因などが明確に判明していない今、世間に残留している影の存在が暴かれるのは危険すぎる。
オレの頭に『IWに影人が生存!?』そんな記事が浮かぶ。
関係ないように思えるが、オレは数日前にオレを襲ってきたマントの敵を思い出していた。あれはなにかの兆候だったのかもしれない。
*
丁度その頃、学校のチャイムが鳴る。
彼女は立ち上がり、応接室からオレを退室させて廊下に行く。オレも彼女の後を追うようにして、ついて行く。
そのまま2年Cクラスに到着したかと思うと、二条先生は容赦なくそのドアをピシャリと開ける。
「おはよう、みんな。実は今日、急遽―――」
二条先生は歩きながら、そこまで言って言葉をつまらせる。
周りの生徒たちが男女関係なくオレを見て騒ぎだしたからだ。
「え、その人って転校生っすか?」
「転校生が来るなんて聞いてないよね!!」
「っていうか、この時期にマフラー!?」
などと聞こえる声で騒いでいる。
「はいはい、あんたたち静かにー」
二条先生が教卓のところまで行き、手を二度パチパチと叩きそのざわめきを抑える。
だが1人の男子生徒が立ち上がり、彼女に意見する。
「でも、転校生が来るなんて話は一切無かったですよね? 告知もされてませんでしたよ」
彼は少し興奮したように、そう訊いた。
まあでも、それはそうだろうな。
「だから言ったでしょ? 急遽転校してきたって」
二ノ沢先生は呆れたような顔で生徒たちにそう説明していた。
次に黒板へ「名瀬統也」と丁寧な字で書く。
「彼の名前はなせとうや、よ。これから1年間このクラスでみんなと生活していくことになるわ」
先生のその一言に合わせてオレは軽く生徒たち一礼をする。
こうしてオレは転入したのだった。
だがオレは知らなかった。この学校がとんでもない人物で溢れかえっていることを。
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