第4話 Codename[K]
数時間後、泊まっていたビジネスホテルの一室。
実を言うと
例えば、単純にどこで「雷電」という名前を知ったのか、ということもそうだが、何故あんな暗い場所をうろついていたのかなど。
傘を二つ持ち歩いているのもかなり不自然。
そして何より、彼女―――「マナ」を持っていた。
十中八九「異能者」。
通常では考えられないほどのオーラを有していたことから、かなりの実力者と思われる。
彼女がどんな異能を使うのかは不明だが、軽く一瞥した程度では筋肉も程よくついていたように感じられたため、体術系統の格闘も想定して訓練しているのは伝わってきた。
シャワールームから出た後、オレはチューニレイダーを首に付けてベッドに腰を下ろす。
その
『はい、こちら
いつも通りの単調で落ち着いている感情の抜けたような声が聞こえてくる。
「いえ、そういうわけではないんですが、少し聞きたいことがあって。夜分遅くにすみません」
『問題はありませんが、数時間前にもインフォを交換したばかりだったので、少しばかり驚きました。しかも
「まあ、少し気になることがあったので一番頼れる人に聞こうかなと思っただけです」
『頼れる……ですか。素直に嬉しいです』
と、言ってはいるがKが本当のところはどう思っているのか知れたものではない。このセリフだってほぼ棒読みだ。
彼女は静かで落ち着いている喋り方の通り、あまり感情は表に出さないタイプなのだろう。
実際にKに会ったことがあるわけではないので彼女の顔を見たことはないが、だいたいは想像がつく。表情はほぼ一定で、たまに笑う程度の人だろうと想定される。
『それで……聞きたいことっていうのはなんですか? 私が調べられる範囲なら何でも調べますが』
「ああ。今回調べてほしいのは、雷電一族についてなんです」
少しの間がある。ほんの数秒、されど数秒だ。
『え』
「……え?」
『え』
どうかしたのだろうか。正直なことを白状すると意味不明の沈黙。おかしなことを言った覚えはないが。
オレが雷電凛と幼馴染であり仲のいいことは、既知のはず。
「オレなんか変なこと言いましたか?」
『いえ……そうではなくて……』
「凛自体のことはよく知っているつもりなので、今回知りたいのは彼女個人のことではなく雷電家に今も生き残りがいるのか、という一族単位の話ですが……」
『…………』
「K? あれ……? K?」
『……あ、ごめんなさい。んと、どうしてそんなことを知りたがるんですか? 雷電一族は凛さんの父である雷電
理由は分からないが、雷電家の話をしたあたりから少し焦っている?
「そうでしょうね。オレもそのことはもちろん知ってます」
『じゃあどうして?』
それは雷電一族の生き残りがこの世界にいるかもしれないと思ったからだ。
これは推測に過ぎないが、鈴音さんが探していた人物は男性だった。それは男であるオレと人違いをしたことからもわかることだ。
だが実際、『鬼狩り』迫害から生還したのは雷電凛という女子。
もし鈴音さんが嘘をついているなら、この話は全く別のベクトルに向くだろうがそういうわけでもないだろう。利点もない。
「こっちで一つの『仮定』が考えられるかもしれないからです」
『仮定……というと?』
「雷電一族の生き残りがいるかもしれません」
雷電一族の生き残りが生存しているならば、それは多方面で大問題。
一般的に人が存命していれば喜ばしいことだと思われがちだが、必ずしもいいことだけではない。雷電家が良い例だろう。
雷電という一族は、強力すぎるその異能や特殊な血脈、瞳の色などから忌み嫌われ迫害されてきた。
『………………』
いや、なんだこの沈黙。
『凛さんの他に……ということですか?』
「ええそうです」
迷わず即答。
思い違いかもしれないが、彼女の焦燥感のような何かが伝わってくる。
彼女の性格は冷静なタイプなので、焦りなどは表面情報からは読み取りづらいが、それでも今は分かりやすい。
そういえば彼女……Kのことは詳しくは知らないし、知る機会もなかった。
任務の経過などを連絡し合う職務上、彼女とは色々なことを話したが、彼女の境遇を知ることなどは出来なかった。
オレが認知できたことといえば、彼女がオレと同じティーンエイジャーであり、現在16才であるオレよりいくつか年上であること。女性であること。日本人であること。そして名前が
その中でも彼女の外見などの情報は知り得ないものだ。直接知り得るとしたら、それは唯一「声」だけだろう。
そもそもオレは『アドバンサー』であり、Kと呼ばれる彼女は『コンダクター』だ。
この二つは簡略的に解釈すると派遣隊員と指揮隊員で、基本的に補佐関係。
互いを知るのは不用意な衝突を避けるため重要だが、線引き、節度というものがある。
『どうして凛さん以外にも生き残りがいるという考えに至ったのですか?』
「それは……説明は不要かと」
このチューニレイダーによる聴覚チューニングにおいて、長時間の装置の接続は聴覚系へと繋がる神経回路への圧迫や経脈への傾圧により、その部分に障害を負う可能性がある。
『……すみません』
「いえ、気にすることではないですが。ただ、何か問題があるなら相談には乗りますよ。いつも多分野でお世話になってますから」
『いいえ、大丈夫です。単純に驚いただけですので。雷電一族の生き残りがいるなんて思いもしなかったから……』
まあ、オレは雷電に生き残りがいたなんて一言も言ってないけどな。
早とちり、というより単純に脳の処理が間に合っていないような感じか。
彼女はかなり頭がいいとオレの姉から聞いているし、実際地形の知識やほかの軍事的背景も理解している場面があった。
『あ、それで……雷電一族に生き残りがいないか。もっと言えば「雷式部・鬼狩り事変」で凛さん以外の生存者がいないかどうかを調査すればいいんですか?』
「そうですね。それでお願いします」
『わかりました。調べておきます。ただ、本部情報局からの全ての検索中から抽出、選別するには、時短して検索過程をショートカットしても精々7時間はかかると予想できます』
なるほど、そういうこともあるか。それだと今日中に調査の結果を聞くことは出来なさそうだな。もうすぐ日付をまたぐ頃だろう。
『なので、調査結果の連絡は明日朝0800で構いませんか?』
「もちろんです。ありがとうございます」
『いえ、それでは失礼します』
「――あ、待ってください。少し関係ない話をしもいいですか?」
『え……』
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