「第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部」

倉 无本

漆黒を声の像に切り抜ける「老いたり」我は片目の鴉

漆黒を声のかたちに切り抜ける「老いたり」我は片目の鴉


 明治の文豪小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーン。少年時代はイギリスの神学校に進学している。このとき、「ジャイアント・ストライド」という遊びをしている時にロープの結び目で左目を失明している。失明した目は白濁し、その見た目を嫌ったハーンは写真を撮るときには左側を向いて失明した目が写らないようにしている。

 その後、保護者の大叔母が破産したため、神学校を退学しロンドンへ行くが、身寄りのないまま渡米し、親戚を頼ってシンシナティーへたどりつく。そこで年上の印刷屋のヘンリー・ワトキンと友人となる。ワトキンは浅黒い肌をしたハーンにポウの詩にちなんだ「大鴉」という綽名を付けた。ハーンもこれを喜んで、ワトキンへの手紙の署名として用いている。ハーンはワトキンのことを「親愛なる御老父」、自分のことは「あなたのかわいい大鴉」などと記している。近況を伝えたり、援助を求める手紙には困り顔の大鴉の絵が書かれている。

 ハーンの画いた大鴉は丸い目をした小さな鳥でなかなか可愛らしい。なかなか返事をくれないワトキンにあてた手紙にはワトキンの名を記した墓石にとまった大鴉が書かれている。ほとんどの絵の大鴉には両目が書かれているが、この葉書には左側を向いた大鴉が画かれている。写真に写るハーンと同じように、左目を隠しているのだろうか。

(恒分社『ラフカディオ・ハーン著作集』第一五巻参照)

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